第22話 最終時空歪曲点ナロモン

 弥一はクロノスエクスプレスに戻って来た。今頃豊臣秀吉の策謀により朝鮮半島に送られた伊達政宗達は数多の犠牲者を残し、敗軍の兵と共に船に乗り、日本海の荒波を越えて日本に命からがら逃げ帰っているはずである。これが歴史上の『史実』である。

 が、弥一はそれに尽き合う義理はないので、こうして時間移動して『未来』の無事日本に帰国した政宗と合流するのだ。


「そんな甘ッちょろい考えでいいと思ってんのアンタ?」


 クロノスエクスプレスの食堂車。サクサクのクッキーと砂糖たっぷりのコーヒーでティータイムと洒落込もうとした弥一の前に天照が座る。しかし眼鏡は外さない。


「何言ってんだよ。今にも死にそうなピンチの政宗達を助けるなって言ったのお前だろ」


「なら、これから日本に帰った後の政宗達を助けられるよう、今のうちに訓練すべきなのよ。マスター経験値を上げるのよ。マスタースキルで戦闘支援能力を上昇させんのよ」


「シュミレーターか?はいはいわかったよ。じゃ、適当なモンスターを出してくれ」


 弥一が嫌々ながらも同意する。これも人類の歴史とやらを守るためだ。


「じゃ、とりあえずそこのゴミ箱を除いて」


 天照は食堂の片隅にある青いトラッシュボックスを指さした。ゴミ箱には、『人類にとって不要なもの以外入れてはいけません』と書かれている。


「んだよ。こんなもんただのゴミ箱じゃねえバァアア!!!!」


 蓋を取って中をのぞいた瞬間、弥一はゴミ箱の中に吸い込まれてしまった。



 気がつくと弥一は宇宙空間のような場所にいた。弥一は月面に立っており、遠くには地球が見える。そして少し離れた場所には玉座が存在していた。


「な、なんだここはあああああ!!!!???」


「少し説明が必要かしら。弥一。貴方の産まれるずっと昔。酷いクソゲーがあったの」


「クソゲー?」


「それは『ワールドヒーローズオペレション』によく似た、スマートフォン向けRPGだったわ。イベントで強力な星4鯖が配布されたり、イベントでキャラクターの育成に必要な素材や資金が効率よく稼ぐ事が出来たりする、それはそれは素晴らしいゲームだった・・・」


 と、天照は『過去形』で言った。


「素晴らしいゲームじゃないか」


「でもそのイベントはラスボス討伐後の二部に入らないと毎年行われるクリスマスイベントもハロウインイベントも参加できない仕様だったのよ」


「クソゲーじゃないか。誰がやるかそんなもんっ!!」


「じゃあこんな風に考えればいいんじゃないの?このクロノスエクスプレスは時空を超えて移動が可能。ならば任意のタイミングで、つまりゲームスタートレベル1の状態でもラスボスに挑戦するフラグが経っていいるゲームならば?いつでもラスボスい戦闘が可能。すぐにでも二部が開始でき、新イベントに参加できるわ」


「いやだから勝てないだろ」


「『挑戦は可能』だから、必死になって虹リンゴ齧って経験値クエスト周回すれば、ゲームを開始したその日のうちにラスボスを倒す事も理論上は可能になるわ。なんてユーザーフレンドリーな仕様なのかしら」


「一日でレベル90とか100にすんのかよ・・・」


†異世界悪顕現†


「異世界悪ってなんだよ・・・」


「異世界で悪事を働くから異世界悪よ。現実世界の人類相手に喧嘩を売る勇気のない姑息な卑怯者だから異世界悪ね」


 弥一達の前。玉座に座る人物がいた。黒いマントを羽織り、腹にはスライムの絵柄が描かれた盾。両手にスマートフォンを持った骸骨の魔王である。


「あれがこのゲームのラスボス、ナーロッシュ」


「なんか色々混じってんぞおい」


「それじゃあ弥一。軽くナーロッシュをタップして能力をチェックしてみて」


 弥一は天照に言われた通りに、†異世界悪†ナーロッシュとやらをタップして能力をチェックしてみた。


ナーロッシュ

クラス:ナロウ主人公

HP100万

状態:ネガ・ナロウ(奥義及びクリティカルのダメージを0にする(3ターン))


「おい。なんだこの糞スキル持ちボスは。倒せねぇぞ」


「一応ラスボスだし。あ、4ターン目からは普通にダメージ入るから」


「じゃあそれまでガードしてればいいのか?」


「ちなみに最初の3ターンはナロウ装填で毎ターン奥義ゲージが溜まって必殺技を売って来るわ。全体攻撃で10万。こっちの最大HPは星5のHP特化型でも一万五千ね」


「何そのクソゲーやってらんねー」


「と、おっしゃられる方が多いので、今回のみ特別にこちらのラスボス討伐メンバーを御用意致しました」 


 天照は自分のスマートフォンを操作し、自分のデッキ内にいる育成済キャラ達を呼び出す。


 シュバアアアア


 お馴染みの召喚魔法陣。そして現れたのは。


「アーネスト・ヘミングウェイです。しがない補給兵っすよ。あ、タバコいりますか?」


「なんか主人公っぽい感じの人来たたあーーーっ!!!恰好からして第一次大戦くらいの兵隊さんかなぁ?」


「アメリカイリノイ州出身の英雄です。ただ考え方的には共産主義っぽいところが強くて、1930年代にスペイン内戦に社会主義政権側に参加してます。『義勇兵(ボランティア)』として、ね」


「いい奴なのか悪い奴なのかわからんな」


「まぁ苦悩する主人公っぽくていいんじゃないんですか?次行くわね」


 シュバアアアアア


「我が名はメロス!友の危機を救う為に力を貸そう!!・・・ところで暴君はどこだ?」


「メロスさんは古代ギリシャの英雄ね。妹の結婚式の準備の買い物をしに王都に行った際、暴君がいるときき、包丁を買って正面から宮殿に行って兵士に捕まりました」


「大丈夫かこいつ?」


 シュバアアアアアアア


「英雄。与謝野晶子。クラスはナイトです。日本政府と戦えばいいのですね?さぁがんばりましょう。・・・えっ?違う?!!」


「おい。なんだこの人。お六さんと違って普通のおばさ」


 ババババッババババ!!!!!


 突如として与謝野晶子と名乗る女性は持っていたペンで弥一を突き刺しまくった。


「ぐあああ!!な、なにをするのだあああーーーっ!!!??」


「貴様!!軍国主義者だな!!!貴様のような奴がいるから日本が戦争の道に走ってしまうのだっ!!!この非国民めっ!!!」


「ひいいいぃぃぃっっっ!!!!こ、この人バーサーカーじゃないのかっっっ???!!!!」


「与謝野晶子は大正時代の文豪・歌人よ。特別高等警察、略して特高にも負けず、反戦平和活動を行った女性ね」


「民主主義殺戮法の魔の手から基本的人権を守るため、私は生命をかけてたたかうぞっ!!!!」


「民主主義殺戮法?」


「治安維持法の事ね。戦前は社会主義、共産主義その他反政府思想が弾圧された時代があったから。今治安維持法が存在していたら日本のテレビ局全部に特高が雪崩れ込んできて制圧されてしまうわね」


「恐ろしい時代もあったもんだ」


 シュバアアアアアア


 気を取り直して行われる次の召喚。狐耳の可愛い女の子が現れた。


「ヤッホー!ボクの名前はゴンギツネ!クラスはアサシン!よろしくね!」


「ゴン!お前なのかよ!!」


 シュバアアアアアア


「私の名前はベートーヴェン。しがない貧乏作曲家さ。悪いが少々大きい声で離してくれ。音楽家なのに耳が悪いんだよ。何?この補聴器を使えって?そんな小さなものを耳につけるで音が聞こえるようになるというのかね?そんなはずは・・・うぉ!こりゃ凄い!!現代医学というのは素晴らしいものだなっ!!!」


「ヴェートヴェンさんのクラスはキャスターです。最後行きます」


 シュバアアアアア


 最後の一人は弥一が召喚済みの英雄だった。


「キャスター。柳沢吉保。貴様を用立ててやろう。感謝するがよい」


「以上、6名の英雄で†異世界悪†ナーロッシュ討伐メンバーとして選抜致しました」


「ってか、メンバー編成に随分偏りがあるような?文豪とか音楽家ばっかじゃね?まともに戦えそうな英雄ヘミングウェイとメロスだけじゃんか」


「厳密にはヘミングウェイも文豪なんですけどね。ではよーい、スタート」


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