幕間の物語 わたしこそ しんのスケルトンだ!!

「リッチを呼び出したかったのでしょうが、あれはそんなたいした怪物ではありません。所詮はスケルトンに毛の映えたもの。というよりスケルトンが毛皮のローブを着ただけの奴です。私が保証します。実際に見てみましょう」


 そういうと、ヘカテーは小さな爬虫類のものらしき歯を取り出した。


「その昔、自分を捨ててグライアの王女と結婚したさる男に復讐する為、さる女が造った怪物。それがスパルトイです。動物の骨から造られ、それを大地に蒔くと瞬く間に草木のように成長し、骨の兵士となる。その性能は材料となる動物次第で変わります。もちろんネズミより犬。人間よりも竜の方が強い兵士ができあがる。そしてこの竜の骨を投げると」


 ヘカテーが石床に竜の牙を投げる。すると一体のスパルトイ。竜牙兵が誕生した。


「ふふふ。私はすっぴんスケルトン。鎧もつけず、魔法も使わない。剣すら持たない。だがひ弱な人間共など私の敵ではない。なにせ私はレベル100。例え腕自慢の冒険者が4人がかりで。40にんで。いや400人でも勝てはしないのだ」


 素っ裸の何も装備していないスケルトンはとても自信がありそうにそう語る。

 ヘカテーは右手を高く掲げるとその手に渦巻く深紅の球体を造り出す。


「これはファイヤーボール。魔法学科を首席で卒業しておきながら、一日一回しか魔法を使えない偉大な賢者の孫の魔法使いでも習得できる呪文です。そう。そんな一日一回しか使えない大切な魔法を偵察の下っ端ゴブリンにぶち込み、後から来た親玉ゴブリンにボコられて逢えない最後を遂げてしまうとても優秀な魔法学科の首席の賢者の魔法使いさまでも。あ、ちなみに私これ一日に百連発ぐらいできますが試してみます?」


「あーやめてやめてやめてそれ火属性の魔法でしょ?私スケルトンなのアンデッドなのアンデッドに火属性は厳禁なのよ弱点なのよあと聖属性の攻撃もやめてね」


 すっぴんスケルトンは両手で自分の体を抱きしめ、ぶるぶると震えながらいや~ん♡と全身でアピールします。ヘカテーは可愛そうになったのでファイアーボールの詠唱を中止すると、代わりにナイフを取り出します。そして見事な捌きで投げました。それは狙い違わず、地下室の照明に使われていたロウソクすべての火をかき消したのです。


「では、代わりにこの状態で十歩ほど歩いてみてください」


「ふふふふ。闇の住人であるスケルトンにとってこんなものは容易いことだ」


 スケルトンは手探りのみを頼りに歩き出した。


 むにゅ。


「きゃあ!何をするんですかっ!!!」


 ドンッ!!


 勢いよく突き飛ばされる。

 ああ!ああ!!なんということだろうか!!闇の中手探りで歩いていた私は脂肪組織90パーセント乳腺10パーセントで構成される、女性の乳房を触ってしまったのだっ!!!

 驚いた彼女は私を力強く叩き飛ばし、その衝撃で私の頭骨は石壁にめり込み、砕け散るっ!!!

 ざんねん!!わたしの闇の帝王道はここで終ってしまった!!!


「はい。レベル100スケルトンさんが死んでしまったので新しいスケルトンさんを造りたいと思いますー」


 マッチを使ってロウソク一本に火を灯すと、そのロウソクで地下室内の他のロウソクに灯りを点け直す。それから砕けた骨を材料に、ヘカテーは新しいスケルトンを造り始めた。


「あのう・・・。もっとこう、魔法でバババ、って一気に全部点けないんですか?」


「そんな事したら魔力が勿体ないじゃないですか。ていうか私ロウソクとか松明が大好きなんですよ。ほら、言うでしょ。人間の寿命がロウソクみたいだって。ああいう感じですかね。こうしてると人間の生死を司る神様っぽい感じがしてきませんか?」


 そんな会話をしている片手間にヘカテーは再びスケルトンを造り直していた。今度は真っ白なローブを着たスケルトンである。


「我こそはスケルトンリッチ。即ち魔道を極めたスケルトン。我こそは真なるスケルトン。我こそが最強のスケルトンなのだ」


「スケルトンリッチ?真っ白なローブ着てますね。なんかイメージと違いますが。高そうな絹製ですか?」


「いいえ。ただの木綿布地です。あと白いのはこの木綿でお豆腐を造ったからです」


 ヘカテーはスケルトンリッチの白いローブについていた何かをつまむ。夜空に輝くお星さまのようにキラキラキラキラ輝いていたのは、豆腐製造時に発生するおからだった。


「ではそこの最強の骸骨さん。さる女が自分を捨ててグライアの王女と結婚した間男を刺すのに使ったナイフを持ってください」


「ん?痴話げんかの凶器か?」


「そしてこれを使ってみてください」


 スケルトンリッチはナイフ?(未鑑定)を使用した!


 スケルトンリッチ

 つかう

>ナイフ

 だれに?

>セルフ


 ああ!ああ!!なんということだろうか!!私は自分で自分の心臓ともいえる魔力宝に短剣を突き立ててしまったのだっ!!!

 どくどくとどくとくと鮮血のように魔力の奔流が私の体が流れ出てしまうのがわかる。あっという間に私は冷たい躯になってしまうだろう。

 ざんねん!!私の闇の帝王道はここで終わってしまった!!!


「あのう。どうしてこの骸骨さん自殺してしまったんでしょうか?」


「ほら。あれですよ。男性ってお料理しないじゃないですか。厨房のかまどの使い方とか、魚の捌き方とかわからないでしょ?下手に包丁を持つと自分の手をきっちゃうやつ。あれですよ」


「ああ。なるほど。それで自分の心臓みたいな奴を刺しちゃったんですね」


 再び残骸からスケルトンを再生するヘカテー。


「スケルトンリッチなど我々スケルトンの中でも最も弱い。このスケルトンクルセイダーこそが最強のスケルトンなのだ」


 骨を組合わせた十字架のエンブレム。今度は頑丈そうな鎧を身に着けたスケルトンだ。これならば短刀を自分の胸に刺して死んだりはしないだろう。


「ぬしょぬしょ・・・ふぅ」


 ヘカテーは部屋の隅にあった木箱を両手で押して運んできた。


「ではスケルトンクルセイダーさん。この木箱の上に乗ってください」


「うむ」


「そしてジャンプしてみてください」


 ほっぷ!すてっぷ!かーるるいす!!


 ああ!ああ!!なんと私は愚かなのだろう!!

 私の全身は太陽の炎に翼を焼かれたイカロスの如く、落下していくではないかっ!!!

 ピサの斜塔から落とされたニュートンのリンゴの如く、私の体は石畳に叩きつけられる。

 薄れゆく意識の中、ガリレオガリレイが私をあざ笑うかのように微笑んでいるのが見えた。

 ざんねん!!私の闇の帝王道はここで終わってしまった!!!


「これ、人から聞いた話なんですけど、昔下り坂に向かってジャンプしただけで全身の骨が砕けて死んだ冒険者がいたらしいですよ」


「怖いですねえ」


「今度こそ強いスケルトンができるといいですね」


 ヘカテーが造り直したスケルトン。それは頭に宝玉を仕込んだ髪留めをつけ、服は旅人が身に着けるようなもの。背中にはマント。ロングソードを装備した比較的軽装のスケルトンだった。


「我が名はスケルトンヒーロー!!スケルトンの勇者!!レベルはもちろん99!!剣術はできるし魔法使いの呪文も僧侶の呪文も使えるぞっ!!!すべてのスケルトンの頂点に立つのは私しかいないっ!!!」


「では勇者スケルトンさん」


「なんだね魔法使い君?!僕の仲間になりたいのかな?それともサインかな?仕事の依頼でも構わないさ!!」


「あちらにオムツライオンがいます」


オムツライオン「くぅ~~~~ん」


 壁際に後ろ脚を鎖で繋がれたオムツライオンがいた。その顔の前あたりに宝石のはめ込まれた鍵が落ちている。


「あのルビーのカギを取ってきてほしいのですが」


「ふっ!そんなことはこのスケルトンヒーローにとって五つの紋章を集める事よりもたやすいことだっ!!!」


 言うが早いがスケルトンヒーローはルビーのカギを取りに向かう。


オムツライオン「ク~~~ジュルリ!」


 ああ!ああ!!!なんとわたしは愚かのなのだろう!!!

 あのオムツライオンは動けなかったのだ!そして腹を空かしていたのだっ!!

 だから自分の縄張りに獲物が来るのを待っていたのだっ!!!

 私は一瞬にしてオムツライオンに丸のみにされてしまった!!

 あっとうまに骨まで消化されてしまうに違いない。

 ざんねん!!私の闇の帝王道はここで終わってしまった!!!


「それじゃあ次のスケルトンさんを」


「あ、ヘカテーさんもういいです」

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