第8話 アバズレビッチの成り下がり2

 私が生きていたのは中世ヨーロッパ。人々が世界がイングランドから、エジプトまでしか存在しないと信じていた時代で・・・



「ああ、RPGみたいだな!っていう感じの世界だな」


「違うわよ弥一。現実、の中世ヨーロッパ。具体的にはローマ帝国の崩壊が始まる西暦500年ごろから大航海時代が始まる1500年ごろと考えていいわ。この期間は一般的なRPG世界のイメージに最も近い」


「だからRPGの世界だろ?」


「ええっとですね。弥一さん。例えば十字軍というのがありまして。イスラム教徒から聖地エルサレムを取り返すぞーっていう名目で何度も軍隊を送っているんですけど、実際はキリスト教徒間の領土争いが大半だったりするんですよ」


「軍資金調達の名目でハンガリーが攻め込められたりしてるわね!そのハンガリーはエリザベートさんの実家のある場所よ」


「そういう感じで同じキリスト教徒間でしょっちゅう戦争が起きるもので、お城の城壁の強化はかかせませんでした」


 その日、私は城にあった古い書籍を頼りに、一人の英雄を召喚しました。


「英雄召喚ってモリアーティ教授が始めたんだろ?なんで千年前の人間ができるんだよ?」


「あのねぇ弥一。アリストテレスの四元素エレメント召喚っていうのは魔術師なら常識・・・あんた魔術師じゃなかったわね?古代ギリシャの時代にはもう召喚技術が確立されてんの。で、その頃はサモンデーモンとかサモンエンジェルとか神とか悪魔とか天使とか呼び出して願いを叶えてもらいましょう、っていう方法がメジャーだったの。もちろん今でもあるわよ?でもものすっごく強い悪魔呼び出して、俺お前より強いから命令なんて聴かねーわ。って言われたら損じゃない?だからとりあえず話だけでも聞いてくれそうな人間の英雄を呼ぶことにしたの」


「ほーん」

 続けていいですか?コホン。私は城の地下室で魔法の儀式を行いました。


「定められた生贄を祭壇に捧げ、定めの時、開かれよ冥界の門!我が呼びかけに答え、幾百、幾千、幾万の兵を一息で殺す吐息吐く冥帝よ来たれ!出でよ!!エルダーリッチ!!!」


 ボシュウウウウウウウン!!!!


「ケホッケホッ!!やった!成功だわ!!この冥界の悪魔の力を借りればきっと!!」

 

 眩い閃光と共に小さな人影が現れた。それは三角系の帽子からネコの耳を突き出した小さな少女でした。


「・・・あの、エルダーリッチさん。ですよね?」


「リッチ?ああ。あの下級量産型見習い魔術師連中ですか。肉体部分が腐食でなくなって骨だけになっちゃう時点でたいしたことありませんよね実際」


「た、たいしたことない?」


「ていうか私のどこがリッチにみえるんですか!どっからどう見てもぷりちー♡全開な女の子でしょうがーー!!!」


 と、少女は思わず被っていた三角帽子を床に叩きつけました。


「我が名は冥界の魔女ヘカテー!生死を司る魔術の使い手にしてソテイラの称号を与えられし者也!!」


「ソテツの称号ですか?」


「救世主ですよ救世主。私女神ヘラとかみたいなクズと違って私人助けが大好きなんです」


 ネコの耳の少女は帽子を被り直してそう答えました。


「そ、そうですか。では私を助けてくれるんですよね?」


「はい。その願いが正当な物と判断しうるならば対価は不要です。契約を結びましょう」


「契約?あ。私の名前を言えばいいんですね?私の名前はカ」


「そもそもなんで冥界から怪物なんて呼ぼうとしたんですか?冥界と言えば三つ首犬のケルベロスとかそもそも人間の言葉話さないのいっぱいいますよ?開いた瞬間、パックリ!ですよ?」


「あ、えっとですね。実は私の住んでいるローマ法王から軍隊送り込まれちゃって。三日以内に降伏しろって言われているんです」


「そういうの城主の仕事じゃないですか。見たところ貴女は、経産婦ですね?」


「はい。二人ほど産んでいまして・・・えっ!どうしてわかったんですか?!!」


「私はこう見えても出産を司る女神です。あと、そこそこ医学を学べばその女性が出産経験があるかないかは人間でもわかります。ローマ法王が軍隊という事は今は十字軍の頃でしょうか?ちょっと確認しますね。『魔女の瞳』(ウィザードアイ)!!」


 魔女ヘカテーが魔術を使うと中空に透明な地図が浮かび上がりました。そしてその地図上の詳しく見たい場所を指つまんでは広げ、つまんでは拡げ。それを繰り返します。


「ええっと。ヨーロッパが。やっぱまだガレオン船ないですね。小型船ばっかし。エジプトがこうで。南北アメリカ大陸は、うん。マナハッタにはインディアンの皆さんがいますねー。白人に15ドルで土地を売っちゃだめですよー。で、インドが、ゾウさんに乘ったヒンドゥー教の女性がいますねえー。あ、ラクダに乗ったイスラム商人が来ましたね。銅貨で同じ重さの砂糖買ってますね。きっと、ヨーロッパまで運んで同じ重さの金貨で売りつけるんだろうなぁ。中国が皇帝の前に側室がいっぱいいますねぇ。あ、皇帝が部屋から出た途端大げんか始めた。皆中悪いなぁ。あれ?江戸の町がまだできてない?かなり昔だなこりゃ」


「ハワワワワワーーー!!!ブリテンの西に大きな島があるうぅうううう!!!あれがアーサー王が渡ったというアヴァロンですかーーー???!!!!」


「アヴァロンじゃなくてアメリカって国になりますよー。ふむ。まぁだいたいこんなもんですね。で、責任者の城主はさっきからどこにいるんですか?下手したら地獄の怪物を召喚しかねない危険な儀式を奥さんに押し付けるなんて碌な夫じゃありませんよ。ゼウス並です」


「凄い表現ですね」


「我ながら的確な表現だと思います。で、旦那さんは?」


 私はヘカテーの前に布の包みを起きました。


「夫です」


「えっと・・・もしかして」


 ヘカテーさんは布の包みを開けました。


「私は医学を司る者として解剖学を少々嗜んでいなければちょっとオシッコもらしていたかもしれませんね。・・・この旦那さん。どうなされたのですか?」


「今朝がた届きました。夫は馬に乗って領内の見回りに出ていたのですが、その途中で法王の軍勢。その斥候と遭遇したそうです。そしてそのままこれ幸いと首を切られ、城に投げ込まれました」


「それで召喚術を用いて援軍を欲したと?」


「はい。同封された封書には三十万の兵を用いてこの城を攻め落とすとありました。ですのでそれだけの兵を迎え撃つ力を持つ怪物を冥界より呼び寄せるしかないと考えて」


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