第12話 アバズレビッチの成り下がり6
「これで吸血鬼の力を手に入れて、戦い続けた女の話は終わりか」
「いえ。生憎と私の物語はそんなハッピーエンドで終わるようなものではなかったのです」
*
棺の中で眠っていたはずの私は地下牢で目を覚ましました。両腕を鎖で繋がれ、天井から吊るされていました。周囲には『冒険者』を名乗るならず者が四人いて、彼らは私にこの城の宝物庫は空っぽだった。だからお前の肉体で弁償しろ。走要求してきました。
*
「はっ?冒険者?謝罪?どういう状況なんだ?」
「察し悪い男ねぇ。アンタネトゲどころかドラゴンウォリアーシリーズもまともにプレイしてないでしょ?こういう冒険者っていうゴロツキ連中はロクに働きもせずにぶらぶらして、古城や洞穴漁って盗んだ物を売りさばいて生計立ててんのよ」
「酷い言い草だな」
「問題は」
アバズレビッチ婦人は輸血パックにストローを刺して血を啜った。
「私が棺の中で眠っていたのが誰もいない古城で、しかもキルケーさんがお造になった骸骨兵がウロウロしていたことです」
「ん?まぁなんとなく財宝がありそうなイメージだな」
「ズバリキャッスルヴァニアね!!」
「しかし、実際にはそんな物はありません。私が眠りにつく前に家臣に渡しておくよう、キルケーさんに頼んでおきましたから」
「じゃあその冒険者連中はアンタに用はないんだろ?」
「だ・か・ら!世の中俺様将来は世界的有名になる冒険者様でござぁ~~いって連中がゴロゴロしてんの!!」
「ええっと。そうですね。四人組のうち、リーダー格は騎士とは名ばかりの放漫経営で領民の一揆多発で領主の地位から追い出された男。一人は明らかな盗賊。もう一人は司祭風の男。なんとなく嫌な感じが、『吸血鬼的に』したので間違いありません。そして最後の一人はまだ十代の少年とも言える若者で、ヴォルスンサガのジークフリートに憧れて田舎の村から出てきたばっかりと言った感じのあどけない感じでした」
「でもってそういう連中の能力も性格も世の中は一定じゃないのよ!どこぞの王家に仕えて順調に出世していく英雄武譚の見本みたいな奴もいれば、戦士武道家魔法使い僧侶の組み合わせでゴブリン退治に行って、最初の冒険で全滅するような連中もいんんのよ!!」
「彼らは私が人の血を吸って生きる化け物だと知っていたようでした。ですからまず、私の口の中に『盾』を突っ込みました。御自慢の牙で齧ってみろ。別に剣を銜えろって言うんじゃないんだ。死んじまうからな。そう言って」
アバズレビッチ婦人は自分の口に手を入れるとその歯を取り外した。
「総入れ歯・・・」
「何かの本で読んだのでしょう。彼らは言いました。肉は食わせるな。スタミナが回復しちまうからな。俺は栄養学にとっても詳しいんだ。海賊が出てくる本で勉強した。そう言ってリンゴを私の口に押し込みました。おっと、もう歯がないんだったな。じゃあ俺様が食えるように噛み砕いてやろう。自分の口で磨り潰すと、身動きを取れない私に無理やり口づけして食べさせました。そのリンゴは『新鮮』だったのです」
「何言ってるんだよ。リンゴは新鮮じゃないと食べられないだろ。腐っていたら喰えないじゃんか」
「重要なのはそこじゃないでしょ弥一。そのとぉ~~~てもお利口さんな冒険者様は専業のバンパイアハンターじゃなかったのよ。もしそうなら棺桶の中で眠る吸血鬼をみつけたら心臓に食い打つかそのまま太陽の下に放り出して塵にしてるわね」
「付け加えるならば彼らは魔術の専門家でもありませんでした。それゆえ、私は彼らから容易に体液を取り込み、魔力を回復できたんです」
「魔力を回復って、もう牙はないんだろ?じゃあ血は吸えないじゃないか」
「体液を体内に取り込む方法はいくらでもあるんですよ弥一さん。既にいいいましたよね?騎士崩れは林檎を咀嚼して、私に口移しで与えたって。その時に私の口の中に彼の唾液が入ったんです」
「え?それでいいのかよ?」
「あと、冒険者の中に神父がいたのでメンドクサソウなのでそれは即効で刃物で首を切って死んでもらいました。首を切れば当然血が出ますよね?」
「あー。なるほどなー。それなら牙いらんわー」
「彼らの体液、精気を吸い尽くし、十分に回復した私は外に出ました。城は経年劣化と冒険者との戦いで崩れ落ちたらしく、ほとんど原型を留めていませんでした。あちこちに長年城を守ってくれていた骸骨兵の残骸が転がっていました。ふと気になった私はかつて領内にあった村の方向に向かいました。村はありませんでした」
「そりゃ何十年だか何百年だか経っているんだがもう村なんてあるわけないじゃないか」
「いいえ。村の火災後や野犬が死肉を漁る様子からしてその村はほんの数日前に滅びたようでした。つまり、この村を滅ぼしたのはあの冒険者達だったんです。狼藉を働く彼らから逃れたい一心で村人たちはあの骸骨兵だらけの古城はかつて吸血鬼の女王が住んでいた。あそこに財宝があるぞ。そのような嘘を言ったのでしょう。そして用済みとばかりに村は焼かれた。そして私はかつて自分が守ろうとした村を滅ぼした連中の体液を、精気をすべてとりこんでしまった」
アバズレビッチ輸血パックの血を飲む。
「私の時代にはこんな素晴らしい物はありませんでした」
「輸血の始まりは1827年イギリスの産婦人科よ。保存薬や消毒法の確立がされてなくて成功例は低かったらしいわね」
「すべてが嫌になった私は太陽に焼かれるまま塵になろうと思いました。その時、長い鉄の塊が煙を吐きながら降りてきたのです。
『失礼、切符を拝見できますか?』
それ以来私はこの一等客室の乗客となりました」
それからアバズレビッチ婦人は唐突に立ち上がった。
「あと、私の吸血鬼となった私がどのくらいの力があるか御理解して頂いておいた方がいいと思いますね。こうやってきちんと栄養を取っていますと」
アバズレビッチ婦人は脚を高く上げた。スカート中が露わになる。弥一は思った。きれーな脚だなー。あ、下着の色、黒。
ドゴグシャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
鮮血がほとばしり、一等客室の窓を内側から朱く染める。
「ほい。コンテニュー」
天照は弥一が座っていた辺りに色がる肉染みに向けて虹色の金平糖を投げつけた。
ぺかーーー
「失礼します。今、何か物音が?」
車掌のスチーブンソンが入ってきた。キョロキョロと室内を見渡し。
「何も異常はないようですね。失礼いたしました」
「待って!ちゃんと車掌としての仕事してよ!!今物凄く異常があったでしょおおおおおおおおおおおお!!!!」
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