第11話 アバズレビッチの成り下がり5

「なぁ、奥方様といる魔法使いの嬢ちゃんいるだろ?」


「ヘカテーちゃんだっけか?」


「その子はほんまもんの大魔法使いかもしんねぇぞ?」


「本当かよ?」


「俺、ガキができねぇから女房と離婚しようと思っていたんだ。そしたらあの嬢ちゃんが来てな」

「話は聞かせてもらいました。次の新月の晩、子作りをしなさい。そして、私が造ったこの秘伝の魔法薬を飲むのです」


「秘伝の魔法薬?」


「そうです。このハチミツと人参とカメの血と海を超えた先、アーサー王が移り住んだ地、アヴァロンに存在する幻のキノコを混ぜた薬をっ!!」


「なんだって!!アーサー王のキノコを俺に口にしろってっ!!!?」


「ささぁ!グイっと!!」


 ぺかーーーー


「ぬおおおおおお!!!!!俺の股間がエクスカリバーになったぞおおお!!!!!」



「その話本当か?」


「ああ。本当だ」


「俺もヘカテーの嬢ちゃんにアーサー王のキノコを食わしてくれるよう頼んでみるか・・・・」


 薬を造ってくれるように頼まれたヘカテーさんはこう言いました。


「駄目です。貴方子だくさんじゃないですか」


「そんな!八男ってそれはないでしょう!!」


 そんなつかの間の平和は長くは続きませんでした。とうとう教皇の息子自らが指揮する大軍勢が攻めてきたのです。



「しかし宜しいのですか?教皇子息ともなれば次期教皇も同然。万一戦死などなされでもしたら」


「案ずるな。余にはにはこの兵法書があるのだ」


 そう言って子息は『NARAUSENNZUTUU』という本を部下に見せたそうです。


「これは余がヴェネティアで買い求めたナラウセンズウウという大変素晴らしい兵法書なのだ」


「ナラウセンズウウ!!御子息様!!それは一体?!!」


「かのアレクサンダー大王から始まり、遥か彼方異国のチンコパグの帝王ノベガガまで様々な戦場での活躍を網羅してある。この本の通りに戦えば余は百戦無敗」


「なんと素晴らしい!ナラウセンズウウとは素晴らしい本!!」


「この本が凄いのではない。余が凄いのだ。そして」


 教皇子息は部下に鉄の塊を見せたそうです。


「御子息様!これは!!?」


「新兵器の大砲であるぞ」


「なんと!こんなもの見た事ありません!!一体どのようにして体に身に着けるのでございますか?」


「これは鎧でも剣でもない。先端の穴に鉄の弾を入れる。すると鉄の弾が飛び出て、敵の城の城壁を粉々に打ち砕くのだ」


「なんと凄い!大砲とは凄い兵器なのですね!!」


「大砲が凄いのではない。余が凄いのだ」


「流石御子息様!さすそく!!」


「伝令!魔女の住む城に到着致しました!!」


 兵士が教皇子息に告げます。


「よし!早速攻撃を・・・」


「待て!攻撃をしてはならん!!」


「御子息様?なぜでございますか?」


「あれをみよ!」


 そこには以前城を攻めてきた兵士のお墓や、大砲や鎧の残骸などが散らばっていました。


「ナラウセンズウウに書いてあった。彼らはカマセイーヌであるぞ」


「ただの戦場跡と架設の墓地に見えますが?」


「きゃつ等は余の偉大さを引き立てるために逢えてこの場で死んでいったのだ。と、いうよりこの書を読まなかった為に城を攻め落とす為に策を得られなかった」


「どういうことです?」


「彼らはバラバラに城を砲撃したのであろう。これを戦力の逐次投入による各個撃破という。だが余は賢い。大砲を城の西側に集め、一斉砲撃により粉砕してくれよう。これを集中砲火というのだ」


「素晴らしい!さすそく!!」


 教皇子息の軍勢は大砲を城の西側に集めると一斉に砲撃を開始しました。


「撃てええええ!!!」


「いやああ。なかなか優秀な指揮官ですね。褒めていいと思いますよ。まぁ緻密な戦術も規格外の怪物一匹戦場に放り込むだけで崩壊しちゃうんで、意味ないんですが。じゃ、消火活動とか城壁の補修とか私達やりますんでいつも通りお願いします」


「はい。行ってきますねヘカテーさん」


「うああああ!!なんだあの女!!大砲の弾を踏み台にしたあああああ!!!」


「弾を踏みつけて蹴落としたながらこっちに飛び込んでくるぞおおおお!!!」


「おい。いくらなんでも大砲の弾踏んづけて移動するなんてやり過ぎだろ?」


「何言ってんの弥一!100点、200点、400点と点数が倍加していって、最終的に1UPするわ!!このテクニックがなければステージ8のクリアーは巣可能なのよ!!」

 最後の戦いを勝利で終えた私は、教皇からの手紙を受け取りました。


「偉大なる神の名において、貴殿の領地保証を恒久なものとする」


「余り嬉しそうではありませんね」


「嬉しいわ。嬉しいのだけれどもね。ヘカテー。実はね、最近。私、城の使用人や兵士達が『食べ物』に見えて仕方がないの・・・」


「法王の軍勢と戦争していた時は戦場で兵士を殺して、その血を飲めば事足りましたからね。ですが、平和になると力は不要。だが、吸血鬼として生命を維持をする為に血は飲まねばならない」


「ふふふ、十年。十五年。二十年。もっと戦ってるいたわね?子供たちはどうしているかしら?」


「息子さんの方なら死にましたよ。どこぞの傭兵部隊に入って戦死したそうで」


「戦死?ああ、そうか。普通の人間は頭にクロスボウが刺さったり、胸を槍で疲れたりすると死ぬんだったわね・・・」


「死体の損傷が酷いですが、ゾンビかスケルトンでよろしければ再びこの世に呼び戻して差し上げる事もできますよ?」


「いえ結構。そのまま眠らせてあげてください。・・・ところでどうして私は死なないのかしら?」


「どうやら内蔵したエネルギーがある限り再生を繰り返すタイプだったみたいですね。何か月か、何年かはわかりませんが、食事を一切取らなければたぶん餓死で死ねます。ただ、過去には棺の中で百年眠り続けたという吸血鬼の記録もありますので」


「じゃあそれでいきましょう。ヘカテー。貴方スケルトンを造る魔法が使えましたね?それでこの城を骸骨兵だらけにしてください。生きてる使用人達には暇を取らせます。彼らには宝物庫の財を分け与えて持たせるように」


 私はヘカテーさんにそう頼むと、夫の形見の婚約指輪だけを持って棺の中に入りました。

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