第6話 刻駆る機関車
「弥一君。君は戦士でも魔術師でもない。だからタイムシフトで過去の世界に移動したとしても、基本的に君自身は戦わない。我々の英雄の助力が必要だ」
モリアーティ教授が説明を開始する。
「英雄(エインヘリアル)の召喚と維持は我々が開発した装置と電力で行う。君は触媒を用意する程度でいい」
「お手軽ですね」
「ただ、我々歴史上の偉人はこの世界の歪みを修正するために行動してるのであって、君自身が偉大な魔術師だから助力する。というわけではない。君より魔力が高い英雄は君の命令なんて聴かないだろうしうまく説得する必要があるだろう。また、英雄に命令を強制的に実行させる便利な装置。なんてものも我々は開発していない。自分で自分の首を絞めるものなんでね」
「それ、ほとんどの英雄に当てはまるんじゃないか?俺一般人だし」
「まぁ地球のピンチだ力を貸してくれと言えば大概の英雄は首を横に振らんとオモウサ。それと英雄達はその生前の生き方に応じて戦い方がクラス分けされる」
「クラス分け?」
「例えばそこにいる徐福君なら魔術師、キャスターだな」
「まぁ剣持って戦う感じじゃないですからね。じゃあモリアーティ教授もキャスターで?」
「私?私はライダーだが」
「へっ?」
「奥義発動。『クロノスエクスプレス』!!」
突如蒸気機関車が出現。その場にいた弥一達は全員機関車の中に取り込まれる。
「な、なんんだあああああああああああああああああああああ!!!!!!?????」
「これが私。ジェームズ・モリアーティの奥義だ」
「えっ!!?いやいやいやいやわけわかんねぇよ!!?!なんで蒸気機関車出てくんの!??!!なんでこれが奥義なわけっ!!!!あんた魔術師じゃないの!!?!もっとこう魔法陣出してビーム出すのがモリアーティしょっ!!!!!」
「当然の疑問に思えるが的外れだ。かつて私をこう言った男がいた。『お前は犯罪界のナポレオンだ』と。宜しい。ならばそれに答えよう。さて弥一君。君はナポレオンと聞いて君が思い浮かぶのは?」
「えっと、あ。こういうのだよ」
弥一は近くにあった椅子に片足を乗せて右手を挙げ、サタデーナイトフィーバーのポーズを取った。
「そう。馬に乗って指揮を執る、サン・ベルナール峠を越えるナポレオンだ。と、なればだ。馬に乗るものは皆ライダーだ。まさか馬に乗っておきながら私はライダーではありません。そんなフザケタ事を言う奴はいないだろう」
「そうですね。モリアーティ教授の仰る通りです。馬に乗ったランサーなんていません」
「従って私が犯罪界のナポレオンと呼ばれるのならば、私はライダーでなければならない」
「いえ、それならば馬に乗って戦えばいいのでは?」
「それは違うよ弥一君。ライダーとは乗り物に乗って戦う者すべてを指す言葉なのだ。即ち車に乗って戦う者もライダー。飛行機に乗って戦う者もライダー。毎週日曜朝方三十分ほどバイクにのって戦う連中もライダー。そして私はこの蒸気機関車に乗って戦うからライダー」
「あんまりジェームズ・モリアーティっぽくないんですが」
「いやいやこの豪華寝台特急クロノスエクスプレスは私がより『私らしく』振る舞う為の奥義として存在する為の奥義なのだ。寝台特急と言えばつまるところ走る密室!!いつ殺人事件が起きても不思議ではない!!これほど私に相応しい奥義はないだろう?」
「だからって必殺技を蒸気機関車にしないでください」
「さぁ、我が奥義こと豪華寝台特急クロノスエクスプレスを御案内しよう。まずは我々が今いる食堂車だ。殺人を実行する際は目撃者を出さないよう、乗客たちが食事中の時を狙うといい。あるいは毒入りの料理を食べさせられるのはどの招待客なのか?」
「やめてください。水すら飲めなくなります」
「次は移動厨房だ。包丁、アイスピック、凶器には困らない。食材を保存しておく冷蔵庫は人間の死体も入れられる特別サイズだ。これなら死亡推定時刻を誤魔化す事も容易となる!!」
「なんでそんなの導入したんですか」
「もちろん旅行客を歓迎するために決まってるじゃあないか!さぁ次だ!!トイレと掃除用具入れ。トイレは比較的利用者は多いが、掃除用具入れを開けるものは少ない。この盲点を利用し、掃除用具入れにビニル袋に入れた被害者の遺体を放置。誰かがトイレを使った後で改めてトイレの中に死体を放り込む。これで消える遺体の歓声だ!!!」
「そんな事してどうするんですか?」
「『私らしい』犯罪をする為だよ!!さぁお次はバスルーム!!照明はオール電化!!」
「なんでここだけ近代的なんですか?」
「もちろんバスタブの中に電気カミソリを放り込んで、感電死させる為さ!!誠に『私らしい』殺害方法だ!!!さぁ次は客室だ!!!この寝台車のどこに次の犠牲者が、或いは犯人がいるのか、全く予想もつかない!!このジェームズ・モリアーティの頭脳をもってしてもだ!!!」
「犯人が、アンタです」
「さぁいよいよ運転席だぞっ!!!」
運転席は血まみれだった。
「あうあうあぁうぁああああーーーーーーーっっっっ!!!!!!!!」
「なに梅毒に感染した浪漫明治剣客みたいな声を出してるんだね君は」
「し、死体だっ!!人間のしたいだあああああ!!!!」
「あ、これね。えっーーとこれはね」
「どうかなさいましたか?」
弥一は後ろから声をかけられた。酷く暖かく、安らぎを覚える声だった。
「紹介しよう。このクロノスエクスプレスの車掌兼整備士のスチーブンソン君だ」
「ジョージ・スチーブンソンです。よろしくお願いします」
スチーブンソンと名乗った青年は爽やかに弥一に笑いかけた。
「誰?」
「彼は私と同じイギリス人でね。蒸気機関車をこの世で初めて造った人間なんだ」
「そんな!僕は蒸気機関なんて造っていません!!僕のような無学な人間にこんなだいそれた機械なんて造れるはずがありませんよ!今もこうしてオーナーのモリアーティさんに雇われて、この鉄道の整備士をしているだけなんですから」
「いやいや。君は単なる整備士にしておくには惜しい人材だ。いつか世界的な発明をする人間になるさ。私が保証する。だから車掌に任命したんじゃないか」
「そうですか?モリアーティさんがそうおっしゃるのなら車掌としての仕事をしますが・・・」
ふと、スティーブンソンは弥一を見つめた。
「何か?」
「じゃあ切符を見せてもらえるかな?」
「切符って?」
「そこの不届き者は切符を持っていなかった。きっとこの列車を壊そうとする割るものだったに違いない。だからそういう悪い事をする前に僕が車掌としての仕事をしておいたんだ。でも君はこの鉄道のお客さんなんだろう?さぁ、早く切符を見せてくれ」
「え、ええ?俺切符なんて」
途端、スティーブンソンの声音が変わった。
「おい、お前まさか切符を持っていないのか?列車に乗るのに、無賃乗車なのか?貴様は客じゃないのか!!?」
「え。えっと!!」
弥一はポケットをまさぐる。ハンカチ。小銭の入った財布。スマフォ。
「あ、今からお金を払い」
「違う!そうじゃない!!切符寄越せといっているんだ!!!」
「こ、これはスマートフォンと言って、異世界転生の必須アイテ」
「そんなガラクタが欲しいんじゃない!!!切符だ切符をよこせえええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
勢いよく後方の壁に押し付けられる。メシメシと何かが軋む音。あ、やべ。このまま死ぬかも。
だが次の瞬間スティーブンソンは弥一を腕から手を離すと、
「なんだ。ちゃんと持っているじゃないですか」
弥一のポッケから出た紙切れを千切る。
「それではお客様。よい旅を」
そして笑顔で、(運転席にあった死体を抱えて)去って行った。
「な、なにあれ・・・」
「彼が拾った物かい?君のポケットにあったガチャ券だよ」
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