第1話 一週間前

「なぁ、このMMORPGってなんなんだ?」


 休み時間机に座り、スマートフォンでマンガ単行本を試し読みしていた嘉多内弥一

は同級生に質問した。弥一は頭が良い方ではない。本当に『MMORPG』という単語がわからなかったのだ。

 弥一が読んでいるのはMMORPGを一ヶ月間連続でプレイした廃人ゲーマーが心筋梗塞で死亡し、そのゲーム世界に異世界転生して骸骨の魔法使いになってその世界の罪のない善良な人間達を虐殺するという内容だ。まぁよくあるものだろう。ウェブマンガにはゴロゴロしていて、そう珍しい内容ではない。


「MMORPG?俺達が産まれる前に存在した古臭いゲームの事だよ」


 友人の一人が言った。


「どんなのだ?」


「据え置きじゃないとプレイできないとか、色々不便で廃れたらしいぜ」


「ふーん」


 試し読み部分が終わったので、弥一は骸骨魔王のコミックをゴミ箱に放り込んだ。まだ休み時間はあるのでリセマラでもする事にした。

 リセマラとはスマートフォン向けゲームをインストールと削除を繰り返す行為だ。スマートフォン向けゲームは課金をするとランダムで強力な武器やキャラクターを入手可能なガチャを引くことができる。

 ガチャはゲーム内の任務をこなしても行う事が可能だ。

 そして大概のスマートフォン向けゲームは最初にインストールした時にサービスの十回ガチャができる。

 これを利用し、インストール直後に十連ガチャだけを引き、即座にゲームアプリをアンインストール。これを強力なキャラクターが排出されるまで繰り返すのだ。

 弥一は全世界No.1大ヒットの謳い文句の、『ワールドヒーローオペレーション』というゲームをインストールした。


「世界の英雄を集めて人類の歴史を守ろう!、ねぇ・・・」


『さぁ!英雄の召喚です!!』


 眼鏡をかけた茄子(ナスビ)みたいな妖精のキャラが、『ここをタップしてね♪』と噴き出しを出しながら『ガチャを引く』のところに表示される。


「ぽちっとな」


 いい加減な気持ちで画面中央をタップした。魔法陣が虹色に輝く。


「ん?」


 シュバアアアアアアーーーーー。


 天照大御神。天照大御神。天照大御神。プリズムスコープ。

闇の聖杯。狙い討ち。天照大御神。呼吸法。ネクロマンシー。

天照大御神。


「なぁ。これって凄いのか?」


 既にこのゲームをプレイしているクラスメートに聞いてみた。


「お前これコラじゃなくてマジで出したのか?」


「どれくらい強いのか?」


「星5の五枚抜きにプリスコ,闇聖、呼吸法、ネクロマンシーに狙い撃ちじゃんか」


「全部同じキャラだし、他の五枚はキャラじゃなくてなんか武器っぽいぞ?」


「同じキャラを重ねると必殺技が1.2倍づつ強化されるんだよ。つまり五枚凸限界で二倍になる。プリスコは必殺技のエネルギーが80パーセント溜まった状態で戦闘開始。闇聖は毎ターンダメージ受けるが必殺技の威力激増。呼吸法は一定確率でエネルギー消費無しで必殺技発動。ネクロマンシーはHP0の際に一定確率で1で復活する」


「つまり全部凄いんだな」


 そんな話をしていると、教室に先生が入ってきた。

 

「あー。授業を始めます」


 その日。弥一は物凄くツイテいた。

 世界史の授業の際、教師がローマ皇帝の名前をネットで検索すると、金髪美少女のわいせつアニメ画像がびっしりと表示され、授業にならなくなった。

 昼休み、購買にパンを買いに行った。前に並んでいた生徒がスペサルドッグの最後の一個を取る。ソーセージに卵とレタスとキャベツが挟んだサンドイッチだ。

 スペサルドッグは270円。だが、財布に260円しかなかったらしい。前の生徒はスペサルドッグを諦めた。弥一はスペサルドッグを購入する事ができた。

 帰り道、アベックが歩いていた。


「うあ!犬のウンコ踏んづけた!」


「いやーんタケシサン汚ーい」


 アベックが尊い犠牲となり、弥一は犬のウンコを踏まずに済んだ。

 高層マンションの前を通り過ぎる。ベランダから鉢植えが落ちて来た。しかし突風が吹き、鉢植えは弥一の遥か後方に落下する。

 横断歩道を弥一はわたる。すると居眠り運転のトラックが突っ込んできた。

 しかし、直前でトラックは90度方向転換し、電柱に衝突して止まった。


「トラックが電柱にぶつかったぞーーー!!」

「エアバックが作動した!誰も死んでいない!奇跡だーー!!!」


 弥一が商店街を歩く。するとサングラスをして目指し坊を被った通り魔が現れた。


「俺は通り魔だーー!誰でも構わず差してやるぜーー!!!」


 しかし偶然万引き警戒中の私服警官がいた。


「私は万引き取り締まりの私服警官だ!!」


「うぐっ!なぜこんなところに警官がっ!!」


「万引き犯より殺人未遂犯を捕まえた方が手柄になるな!!お前を警察に連行するぞっ!!」


 全天候型球場の地下にある駐車場を弥一は歩く。すると悪の秘密結社が造った改造人間が出現した。


「俺様はバブルズワイ!貴様ら人間共に食われた仲間の怨みを晴らさせてもらうぞ!」


 バブルズワイは通りすがりのサラリーマンに泡を噴射する。


「あああああーーーー!!!」


 サラリーマンはドロドロに溶けてしまった。


「さぁ次は貴様だ小僧!」


 ぶぉーん。


「マスクドバイカー参上!バイカーキック!!」


「ズワズワーー!!!!」


 ちゅどーん。


 弥一は高層ビルディングの間を歩く。巨大な怪獣が出現し、街を破壊し始めた。


『グリリバマン参上!グリリバビーム!!』


 しかし、怪獣はバリアでグリリバビームを跳ね返してしまった!危うしグリリバマン!

 すると空から巨大な剣が飛来した!


『俺を使えグリリバマン!』


『有難うサムライソード!喰らえ、グリリバソードスラッシュッ!!』


 怪獣は真っ二つになった。


 弥一は無事帰宅して、呟く。


「今日インストールしたゲーム。お守り代わりに入れといたまんまにしておくか・・・」


 

 

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