第17話 宝探し
改めて村長からは謝罪を受け、私達はようやく邪魔されることなく村を出発することができた。
シャールカは反省したようだし、しばらくはファインツの手伝いをするようだ。
今後も顔を会わせることはあると思うが、私たちの旅に着いてくることはなさそうだ。
謝る必要がない村長さんも謝ってくれたのだが、一番申し訳なさそうにしていて気の毒だった。
でも、ファインツとギルドについての話を始めると目を輝かせていたのでよかった。
ちなみにファインツはまだ私達と話をしたそうだったけれど置いて来た。
だって、やっとリヒト君と二人きりに戻れたんだものー!
それに、リヒト君が私のためにシャールカを叱ったことを思い出すとニヤけてしまう。
「マリアさん、楽しそうですね」
スキップしそうなくらい、ルンルンで歩いたらリヒト君に笑われてしまった。
「分かっちゃった? いつもの二人きりに戻れて嬉しいの!」
満面の笑みで答えると、リヒト君がはにかんだ。
「僕もマリアさんと二人きりの方が落ち着きます」
「! リヒト君~!」
魔王級の魔物を倒すことを考えると仲間は必要だけれど、私の審査は厳しいから中々合格できる人はいない。
いないかもしれないから、これはもう仲間はいらないと決めて、私が仲間十人分くらいの戦力を持てばいいのではないだろうか!
「お姉さん、一人で国家戦力に等しいくらいの力を持てるように頑張る!」
「どうして急にそんな考えになったんですか……」
「私が強ければ、仲間なんていらないかな、って思って!」
「それなら僕も一緒に強くなります」
一緒に! なんて素敵な響き!
私は全力で頷いた。
今でも私達は十分強いと思うけれど、二人しかいないから、同時に複数の問題に対応しなければならなくなった時に弱い。
そこは気になるところだが……。
「リヒト君がいっぱいいたら幸せ」
戦力的にも素晴らしいし、何よりこんなに可愛くて美しいリヒト君がいっぱいいたら幸せすぎる。
想像してうっとりしていると、リヒト君が私をジーっと見ていた。
また変なこと考えているな、って顔しないで……!
「マリアさん、特定の場所に行くと始まるイベントなんですよね?」
「そうだよ! そろそろ見えてくると思うんだけど……あ! あった、あの辺りよ」
緑の木々が広がっていたが、視界の先に黄色い一帯が見えてきた。
「本当だ! あそこから木の種類が違いますね。あ、あれってもしかて……」
何かに気がついたのか、リヒト君が駆け足で進み始めた。
私もその後を追う。
「やっぱり! 扇形で黄色の葉っぱ……イチョウの木ですね!」
「本当ね」
私はイベントをクリアしたフレンドから、「周囲と色が違う黄色いエリア」と聞いていたが、イチョウの木が生えていたのか。
「懐かしいです。僕が通っていた小学校にイチョウの木がいっぱいありました!」
「!」
リヒト君のセリフを聞いた瞬間、イチョウの葉っぱを使って図工の授業で絵を描いているリヒト君が脳裏に浮かんだ。
ああっ、可愛い!
ぜひイチョウの葉とどんぐりを使ってお姉さんの顔を描いてください!
そして、完成した絵をいい額縁を買ってきて飾りたい!
「あ、すみません。はしゃいでしまって。ここからどうするんですか?」
はしゃぐリヒト君は最高に可愛いから永遠に待てる。
でも、話を進めて欲しいようなので、名残惜しいけど説明をしよう。
……と言っても、もう少しリヒト君が楽しめる時間を遅れそうだ。
なぜならこのイベントは、結構遊び要素があるのだ。
「リヒト君。宝探しは得意?」
「うーん……やったことがないです。友達と遊ぶことがなかったので……」
私の質問に、リヒト君は少し寂しそうに微笑んだ。
しまった……「宝探しをしよう!」でいいのに、余計な聞き方をしてしまった。私の馬鹿っ!!
「これからいっぱいやろうね! 今から全力でやろう!」
リヒト君の手をぎゅっと両手で握って訴える。
すると、リヒト君はきょとんとした。
「今からですか?」
「うん! 宝探しと言っても、探すのは生き物なんだけどね。あ、あれよ!」
ちょうどターゲットが視界に入ったので指差した。
ぴよぴよと鳴きながら動き回る黄色い生き物。
「わあ、ひよこだ! 可愛い!」
そう、今回の宝探しの『宝』はひよこだ。
ふわふわぴよぴよでとっても可愛い!
可愛いの権化、リヒト君との相性は抜群である!
「あの子を捕まえたらいいんですか?」
「ううん。首に鍵がついたネックレスをしているひよこがこのエリア内に身を潜めているの。その子を捕まえると、イベントの場所に連れて行ってくれる……はず!」
私は未体験で、友人から話を聞いただけだから確証はない。
でも、「鍵のひよこを見つけたら屋敷に行ける」と言っていたから、合っているはずだ。
「とっても可愛いイベントですね! 僕、がんばります」
「私も頑張って見つけるわよ! どちらが見つけるか勝負しようか?」
「そうですね! 負けません!」
最近は大人びて来たリヒト君だけれど、笑顔は出会った頃のままの可愛さ!
やっぱりひよこよりリヒト君の方が可愛い!
「あ、他にもひよこがいた。……でも、鍵がついていないですね」
「残念! 私も負けないように張り切って探すわよー!」
それから私とリヒト君は、お互いに姿が見える範囲で別れて鍵ひよこを捜索した。
イチョウの木エリアは小学校の運動場くらいの広さだ。
それほど広くはないので、すぐに見つけられるかなと思ったのだが……。
「ひよこっていっぱいいるんですね!」
「そうね……」
ああ、もう! いたるところでぴよぴよしているー!
あっちでぴよぴよ、こっちでぴよぴよ!
リヒト君は可愛いですね、と和んでいるけれど、私は思いのほか大変そうで、思わず遠い目をしてしまった。
しかも、地面にイチョウの葉が落ちているから、黄色に紛れて見つけにくい。
もう百匹くらい見かけた気がするが、一向に鍵ひよこは見つからない。
あ、リヒト君が光の精霊に「探して」と頼めば一発で分かるのでは? と思ったが……。
「ふわふわですね。ひよこを触ったのが初めてなので嬉しいです」
リヒト君がとても楽しそうだから地道に探そう……。
「この子達、お腹空かないんですかね。ずっとここにいるんでしょうか」
「イベント関連の生き物だから、普通のひよことは違うのかもしれないわね。……それにしても、リヒト君はひよこにとっても好かれているわね」
リヒト君の頭や肩にひよこが乗っている。
そして、腕にもたくさんのひよこを抱えている。
一方の私には一匹も近寄らない、懐かれない!
いいわよ、ひよこに好かれなくても寂しくない……ひよこまみれのリヒト君が可愛いからいいわっ! 私、泣かない!
「おい、何をしているんだ」
声に驚いて振り向くと、ファインツが立っていた。
そして大きな体のファインツの頭の上にはひよこが……!
私の頭は空席なのに、どうしてあなたまで懐かれているの!
悔し涙を流しそうになったが、リヒト君の声でハッとした。
「マリアさん、ファインツさんの頭にいる子! 鍵が……!」
「鍵ひよこいたー!」
本物の方の勇者様が捨てられていたので私が貰ってもいいですか? 花果唯 @ohana
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