第2話 なつかしい

 やってきたのは滞在している小さな町のギルドだ。

 小さな町に相応しく、平屋でこぢんまりとしている。

 中にいた冒険者達は常連ばかりのようで、私たちは部外者のような居づらさを感じたが、気にせず用を済まそうと思う。


 一人でいるときにこういう空気に包まれると、すぐに立ち去りたくなったけれど、リヒト君と一緒の今はなんとも思わない。

 リヒト君がいたら、私のメンタルは無敵なのよ!


 今日はクエストをやっていこうと思う。

 リヒト君とカウンターに行き、良さそうなクエストがないか探す。


「あ、マリアさん。森でフォレストコングの討伐依頼がありますよ」

「ほんとだ。フォレストコングかあ。なんだか懐かしいね」


 光の大精霊の武器があったダンジョンで、何度も倒した思い出深い魔物だ。

 本当にいいカモのゴリラでした。

 経験値を泥棒されたり、銀色になったり、色々あったなあ。


「これにしませんか?」

「そうね!」

「おいおい。やめておけ。あんたたちでフォレストコングなんて無謀だ。死ぬ気か?」


 誰かが私たちの会話に入って来た。

 振り返ると、そこには体格のいい中年男性の冒険者が立っていた。

 パーティーメンバーらしき男二人もその後ろに立っている。


 ええっと、このシチュエーションは……。

 思わずリヒト君と顔を見合わせた。


「なんだかこの感じもなつかしいね」

「そうですね」

「ダグは元に戻ったのかなあ」

「そうだといいですね」

「おい、人が忠告してやっているのに、なにをのんびり話し始めている!」


 どこにでもダグみたいなのはいるのねえ。

 声を掛けてくるのは私たちの実力を見抜けないポンコツばかりで、旅を始めた当初は度々あったものの、最近はなかったのになあ。


「僕たち、フォレストコングは倒したことがあるので大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


 これぞ神対応!

 こんな面倒臭い奴らとちゃんと向き合うリヒト君は優しさの神。

 お姉さん、一生信仰する。


「小僧、上品なのはいいが、嘘はいけないなあ。どうだ、俺たちを雇わないか? 護衛してやるぞ」

「足手まといの護衛がどこにいるのよ」


 おっと、思わず本音をぽろりと零してしまった。


「なんだと? 今なんて言った!」


 しっかりと男の耳に届いてしまったようで、鬼の形相で私を見ている。


「おね、マリアさん! そういうことを聞こえるように言っては駄目です!」


 私の発言自体には異論がなく、聞こえないなら言ってもいいのね?

 そんなことより今!

「リヒト君、お姉さんって言いかけたね!? 言って! 久しぶりにお姉さん呼び頂戴~!」

「い、言ってませんっ」

「言った! お姉さん、はっきり『おね』って聞いたもの!」

「おい、無視をするな! いいから俺たちを護衛で雇え!」


 男が私に掴みかかろうと手を伸ばしてきた。

 リヒト君が素早くその手を掴み、背中に背負うと前方に投げ飛ばした。


「わあ! 一本背負いだ! これもなつかしいね!」

「あっ! ごめんなさい! ダグさんのことを思いだしていたから、つい……!」

 投げ飛ばされた男は自分の身に起こったことが理解出来ていないのか、天井を見つめて呆然としていた。

 仲間の男二人も呆気にとられている。

 美少年が大男を投げ飛ばす光景も、時間が止まるこの感じもなつかしいな。


「あ、このクエスト受けます」


 時間がもったいないので固まっているギルド職員さんに声をかけ、手続きをとってもらった。


「クエスト受注したよ。行こうか、リヒト君」

「はい! あの、すみませんでした!」


 まだ固まっている投げ飛ばされた冒険者とその仲間に受けてリヒト君はぺこりと頭を下げ、私と共にギルドを出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る