第13話 ギルド
シンシアをそいやっ! とぽーいして、すっきりした私は気分良くギルドに到着した。
そしてギルドの一階、町の人も利用するショップスペースに入った途端、リヒト君の美貌パワーが炸裂した。
「まあ、綺麗な子だよお」
「もしかして精霊様なんじゃないかい?」
「ありがたいねえ。触らせて貰おう」
今回はおばあさん達に囲まれていて、今までと違う感じの注目の浴び方をしている。
アイドルのようにきゃーきゃー言われるのではなく、仏様のように有り難がられているような感じだ。
こら、そこのおばあさん!
お触りは禁止です。
私も気分が良かったので、いつも通り世間話をしていたおじいさん達に初めて笑顔付きで会釈をしたら驚かれた。
その後顔を赤くしたおじいさんに「一緒に飲まんか」とお酒を勧められたけど、こんな朝から飲むのもギルド内で飲むのも遠慮したい。
丁重にお断りして、おばあさん達に次々とお菓子を渡されて困っているリヒト君を回収した。
「わあ! 漫画であった武器屋さんに似てます! 凄い! あっちは薬屋さんですか?」
リヒト君はショップを見て大興奮だ。
今まで買い物したことなかったものね。
好きなだけ買い物していいよ! と言ったのだが、お金を持っていないとしょんぼりしてしまった。
カトレアが寄越してきた手切れ金は受け取らなかったし、今まで修業してしかしていなかったので無一文だと言う。
「何を言っているの! お姉さんのお金はもうリヒト君のお金だよ!」と、全財産を差し出そうとしたのだが受け取ってはくれなかった。
「お金が出来たら返します」と言って、日本で言うと千円程度の金額だけ受け取って雑貨屋へと向かって行った。
良い子だけど、お姉さん寂しい……!
もっと甘えて欲しい。
更に私に頼らず一人で買い物をしたいから先に二階へ行っていてくれ、と追いやられてしまった。
肩を落としてとぼとぼ二階へ上がった私を待っていたのは、更にテンションが下がるような出来事だった。
「受け付けられない? どういうことでしょう」
「はっ! 不正は出来ても言葉は理解出来なくなったか?」
ギルドにいる不愉快な男というとサブマスターであるダグだ。
今日はサリナはいないようで、二階に来るとすぐに絡まれてしまった。
サリナに銀色フォレストコングについて話してみようかと思っていたのだが、ダグには話す気になれない。
かと言って用もないのに来たとなればグチグチと言われる予感がしたので、ギルドに新規加入するための申し込み用紙を取りに来たと言ったのだが、それに対する返答は「お前に渡すような書類はない。新規加入は受け付けない」だった。
私が申し込みたいのではなく新規で入りたい人がいるのだと伝えたのだが拒否された。
ギルドの新規加入は拒否される場合もあるが、それは犯罪歴があるような場合くらいだ。
年齢制限もないし、入会金さえ用意出来るのなら希望する殆どの人が入ることが出来る。
だからまだどんな人が申し込みをするかも分からない時点で拒否されるなんておかしい。
「もしかして、私が連れて来る人は加入させないようにと、どなたかに指示をされているのですか?」
もうカトレア達に手を回されているとしか思えない。
精霊のカンテラを持って案内をしていた後も接触していたのだろう。
「ふんっ。お前が子供を連れ回しているのを見た。新規加入させたいのはあの子供だろう。戦うことも出来ない子供を連れ回して死なせるつもりか?」
言っていることがまともなのが腹が立つ……!
何も事情を知らない人が聞いたら私の方が悪いように思われそうだ。
でもギルドの依頼には危なくないものもあるし、そんな理由での拒否もおかしい。
言いがかりでしかない。
ダグが私とリヒト君が一緒にいるところを見たかどうかは分からないが、私達が一緒に行動していることは知っているようだ。
そしてリヒト君のことを何も出来ない子供――勇者じゃなかった方と思っているのだろう。
そう思った瞬間、閃いた。
今のリヒト君を見ても、同じように「加入させない」と言えるだろうか。
勇者が加入希望なのに拒否したとなれば、ダグの責任問題になるんじゃない?
リヒト君もギルドに加入した方がいいとは思うが、入らなくても私がいるから不便はあっても困ることはないと思う。
そうとなれば、このままダグに加入を拒否されたということを全面に出したまま帰ろう。
「もういいです。あなたの判断で加入させて貰えなかった、ということでいいですね?」
「さっきからそう言っている。さっさと帰……」
「お姉さん!」
言質を取るために念を押していると一階からリヒト君が上がって来た。
嬉しそうに階段を駆け上がってくる姿が可愛い。
癒やされる。
でも今はダグの責任にして帰りたいので長居は無用だ。
すぐに引き返すことになるのは申し訳ないが、「もう行こう」と背中を押して去るように促した。
「お、おい」
視界の端で狼狽えている様子のダグが見えた。
ふっ……存分に後悔するがいい!
「な、なんだお前! 髪なんて染めやがって! それにその装備はなんだ! そんなものどこで手に入れた!」
階段を降りようとしている私達に向かってダグが怒鳴ってきた。
髪はそう解釈しましたか。
瞳の色だって変わっているのだけどね?
そして腐っても元冒険者、白銀セットの価値は分かったらしい。
律儀に答えてやることはない。
無視をして一階へ降りようとしたのだが、リヒト君が足を止めて振り返った。
「染めていません! 装備はお姉さんに貰いました」
良い子のリヒト君は尋ねられたら無視できなかったようだ。
ああ良い子……ダグなんて適当にあしらってもいいんだよ!
リヒト君の答えを聞いたダグは再び私を睨んできた。
「またお前か。どうやって手に入れた!」
「雪竜のドロップアイテムですが何か?」
「雪竜だと? まさか、お前が倒したなんて言うんじゃないだろうな!」
「倒しましたよ。全部揃うまで何回も」
そう答えるとダグが目を見開いて驚いたが、段々怒りに顔を歪めていった。
「……何回もだと? また見え透いた嘘を! どんなイカサマをして手に入れたんだ! 盗品か!」
「…………」
まあ、そう言うだろうなあとは思っていたが。
予想通り過ぎて何か言う気も怒らない。
「はあ」と溜息をつき、ギルドを出ようとリヒト君の背中を押した。
「待て。それを寄越せ。こちらで預かる」
「寄越せだなんて追いはぎですか?」
馬鹿馬鹿しいので足も止めずに吐き捨てる。
どうして苦労して手に入れた装備をダグに渡さなければいけないのだ。
ダグに渡すくらいなら切り刻んで鼻紙にでもしてやる。
「誰が追いはぎだ! 盗人はお前だろう!」
はいはい、私はイカサマ師で盗人なんですねーと心の中で返事をしながらそのまま去ろうと思ったのだが、リヒト君はバッと振り向くとダグの方へ行ってしまった。
ええっ、装備を渡すことはないと思うけれど、どうしたの!?
慌てて追いかける。
リヒト君はダグに詰め寄って捲し立てた。
「お姉さんは盗んだりなんかしません! これは僕が今お姉さんから借りているものです! 渡しません! どうしてそんなひどいことを言うんですか!? 証拠があるんですか!?」
リヒト君が私の為に怒ってくれている……!
また感動で泣きそうになってしまったけれど……装備は貸しているんじゃなくてあげたんだよ!
そんな控えめなところも大好きだけど!
ダグは大人しそうに見えるリヒト君の剣幕に圧され、戸惑っている。
「そ、そいつは普段からイカサマをするような、そういう奴だ!」
「お姉さんはそんな人じゃありません! そんなの証拠じゃないです! 証拠がないのにお姉さんを悪く言うなんて! お姉さんに謝ってください!」
「…………っ!」
…………お?
ダグが完全に圧されている。
それに今、私も思わず警戒してしまったくらいの殺気をリヒト君から感じた。
レベルが上がった+白銀セットの効果が出ているようだ。
現役だった頃のダグだと分からないが、今のダグになら勝てるんじゃないだろうか。
ダグも勇者ではなかった方――ただの子供だと思っている相手に気圧された自覚はあるようで、一気に顔を赤くして殺気立った。
「俺に……謝れだと? 生意気なことを言うな!」
気圧されたことが我慢ならなかったのか、強硬手段に出たダグがリヒト君へと手を伸ばす。
「いいからそれを寄越せ!」
白銀セットを奪うつもりなのか、ロングコートを掴んだ。
ちょっと、汚い手で触らないで!
今まで散々我慢してきたが、今度こそぶっ飛ばしてやろう。
そう意気込んで一歩踏み出したが、私よりも先にリヒト君が動いた。
「渡さないって言ってるだろ!」
白銀ロングコートを掴んでいるダグの片腕を両手で掴みめ、背中に背負うようにしてそのまま前へと思い切り投げ飛ばした。
ダグの大きな身体が宙に放り出される。
そして――。
ダーンッ!! と地震のような音をギルド内に響かせながら無様に床に這いつくばった。
も、もしや……私と同じ背負い投げ……いや、少し違う……これは!!
「一本背負い!!!!」
腕一本を掴んで力業で強引に投げ飛ばしただけなので正確に言えば違うかもしれない。
柔道では見られないくらいダグの身体が宙を舞ったしね!
でも凄い……凄いよ!
「で、出来ちゃった……」
「リヒト君かっこいい~!!」
興奮して思わずぴょんぴょん跳ねて喜んでしまった。
リヒト君が素敵だったし、ダグを放り投げてくれてお姉さんすっきりしたよ!
きゃっきゃっと騒ぐ私に反して、ギルド内にいた人はしーんとしている。
あごが外れるんじゃないかというほど口をあけて呆然としている人が大勢だ。
それはそうだろう、こんな儚げな美少年が頭二つ分ほど背も高く体格もいい相手を投げ飛ばしたのだから。
ふふ、かつては優秀な冒険者だったという割には受け身もとれていないじゃない。
私に投げられたシンシアもそうだったけどね。
「おい、今の地響きは何の騒ぎだ」
階段を登ってくる足音と共に声が聞こえた。
姿を現したのはダグよりも大柄で貫禄のある冒険者だった。
その男はシーンとしているギルド内を見渡し、私達を見つけると笑顔で近寄ってきた。
「よお。昨夜はご馳走様。何かやらかしたのはお前達か?」
「はい?」
気軽に話しかけてきたけど……どなたですか?
ご馳走様と言われたということは、昨日奢った人達の中にいたということか。
そういえば見覚えあるな?
というか、奢ったときも「見覚えあるな」と思ったような?
「ボウズ、でかくはなってないが随分変わったな」
「あ!」
その台詞を聞いて思い出した。
私の背中をバシッと叩いてリヒト君に「姉ちゃんに楽をさせてやれ」みたいなことを言った人だ。
ダグが私に絡み始めてから気まずそうにしていたギルドの職員達がこの人が現れてホッとしている様に見える。
もしかしてギルド関係者だろうか。
「で、あれをあんな風にしたのはあんたか?」
あれというのはもちろんダグだ。
落ちた時の打ち所が悪かったのか、投げ飛ばされたショックなのか分からないが、気を失っているようで床でのびたままだ。
カラーコーンで囲いでもして、そのままそっとしておいてやって欲しい。
男が私に聞いてきたが、隣にいるリヒト君が申し訳なさそうに小さく挙手した。
「ぼ、僕です……」
一本背負いが出来て興奮していたリヒト君だったが、今は大変なことをしてしまったと青ざめている。
大丈夫、リヒト君は悪くないからね。
私達に非はないもの。
文句があるなら徹底的に抗戦するぞ! と身構えたが、男は目を丸くすると大きく口を開けて笑い始めた。
「そうか! ボウズか! やるじゃないか! ふはははははは!」
豪快に笑い続けながら昨日は私にしたように、リヒト君の背中をバシバシ叩く。
それ結構痛いからやめて!
すぐにリヒト君を保護して背中に隠した。
「そう睨むなって。茶くらいだすから、奥で話を聞かせてくれ」
そう言ってギルド職員以外は立ち入り禁止エリアの扉を開いた。
私達に入れと言わんばかりに扉を開けたまま押さえている。
まあ、この人だとまともに話すことは出来そうか。
というか、サブマスターを『あれ』扱い出来る立場の人ってことは……ギルドマスター?
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