第11話 同担?
「おうち、ですか?」
「うん。おうちというか、拠点? 旅をするから、ほとんど留守にしちゃうかもしれないけれど、疲れた時とかに帰ってくる場所があるっていうのはいいと思わない?」
一人で生きてきたときは、こんなことを考えたことはなかった。
でも、リヒト君といると家族ができたようで、『家』も欲しくなってしまった。
「いいと思います!」
リヒト君の顔がぱあっと明るくなった。
よかった、リヒト君も乗り気のようだ。
ああっ、リヒト君とおうちのインテリアを考えたりするは楽しいだろうなあ!
それぞれの私室も必要よね。
リヒト君には自分の部屋を好きにコーディネートさせてあげたいという気持ちと、私が全部用意したい! という気持ちがぶつかる。
……あ、そうか! 両方作ればいいんだ。解決!
でも、勇者のリヒト君が居を構える場所は色々と気をつけなければいけない。
その場所を管理している国や組織が「光の勇者はうちのものだ!」」なんて言い出したら面倒だ。
慎重に選ばなければいけないと思っていたのだが、私は先ほど、良いことを思い出したのだ。
「あのね、私たちの拠点にちょうどいい場所があるの!」
「ちょうどいい場所、ですか?」
「うん。私がやったことがないクエストで行く場所なんだけど……」
そのクエストはギルドから受注するものではなく、特定の場所に行くと発生するイベントクエストだ。
内容は「呪われて閉ざされたお屋敷を解放しろ!」というものらしい。
私はこのクエストをしていなかったため、フレンドから話を聞いただけなので詳細は分からない。
でも、情報がなくても、リヒト君がいれば解けない呪いなんてないし、どんなことが起こっても目的は達成できるだろう。
クリア報酬では、屋敷の主の証である鍵を貰うことができる。
鍵の入手後は、屋敷を自由に出入りすることができるようになるのだが、それ以外には何も特典はない。
だから、ゲームをしていた頃の私は、別にやらなくてもいいクエストだと判断していた。
後に、「鍵を手に入れて屋敷を訪れると、稀に奇妙な魔物と遭遇する」という噂を聞いたので、暇なときにやってみようかなと思ったのだが、結局出来ず終いになった。
前世でできなかったクエストをするのはわくわくするし、何よりも魅力的なのは「鍵を持っている者しか屋敷を見つけられず、入ることはできない」ということだ。
これだとリヒト君と関係を築きたい面倒な人たちが押しかけてくる心配もない。
私たちの拠点としてベストでしょ!
それをリヒト君に説明すると、再び大きく頷いてくれた。
「マリアさんが知らないところだなんて気になります! 行きましょう!」
「うん! 明日の予定は決まりね!」
「そうですね! あ、でも、お屋敷? って、勝手に貰ってもいいものなんですか? 元は誰のものなんですか?」
リヒト君にそう聞かれ、私はきょとんとしてしまった。
「誰だろう? ごめんね、分からないわ」
「うーん……屋敷の持ち主さんがいるんだったら、勝手に使っちゃだめですよね? 呪いから逃げていただけで、屋敷が使えずに困っていたかもしれないし、鍵は返してあげないと……」
「!」
確かにリヒト君の言う通りだ。
私はクエストで鍵を入手することにより、屋敷の主と認められるのだから、屋敷の権利は自分のものになると思い込んでいた。
ゲームでは「そういう設定の屋敷がある」というだけの話だが、現実となった今では、実際に「屋敷を建てた人」はいるのだ。
だから屋敷の所有権を持つのは「鍵を手に入れた人」ではなく、その「元々の所有者」であるべきだ。
「そうね! リヒト君の言う通りだわ! お姉さん、ゲーム脳で考えて、現実的にみていなかったわ……ごめんなさい」
「あ、でも、ほんとに持ち主がいない場合もありますし、もしかしたら持ち主さんが今も屋敷にいる可能性もありますよ。それに、屋敷が使えなくて困っている人がいるのなら助けてあげたいし……。とにかく、詳しいことが分からいないので行ってみませんか? 僕たちのおうちについては、状況が分かってから考えることにして」
「……そうね。うん!」
屋敷をゲットできるかは置いておいて、知らないクエストを現実でやってみるのは楽しみだ。
それにしても、僕たちのおうちって言葉、いい響きだわ……!
うっとりとしていたその時、背後から誰かが近づいてきた。
「あの!」
声を掛けられ、私とリヒト君は揃って振り返った。
するとそこにいたのは、チョコレート色の髪をポニーテールにしている、私と同世代に見える容姿の女性がいた。
紺色のダボッとしたローブを着ているので、魔法使いに見える。
「ご無沙汰してます」
そう言って微笑んでくれたが……誰だっけ?
確かに見覚えはあるのだが思い出せずにいると、隣にいるリヒト君が教えてくれた。
「ジークベルトさんと一緒にいた方ですね」
「ああ!」
ドルソに行く前に会った人で、食堂で一緒に昼食をとったことを思い出した。
テンパっていたジークベルトと黙々と食べていたなんとかクマ――。
あの場で一番しっかりしていた人だ。
「はい、シャールカと申します。勇者様に覚えて頂いていて嬉しいです!」
「!」
私とリヒト君は思わず顔を見合わせた。
この人、リヒト君が勇者だと知っている?
「あー……その、ですね」
私たち様子を見て、疑問に思っていることが伝わったようで、答えを教えてくれた。
「樹竜の解呪をしている場に居合わせたのです。私はたまたま近くに滞在していたのですが、慌ただしく駆け回っている騎士たちの姿を見ていたので、力になれることはないかと思い、駆けつけていました」
「そうだったんですね」
リヒト君がそう笑うと、シャールカはキラキラした目でリヒト君を見た。
「はい! ずっと、あなたにはもう一度お目にかかりたいと思っていたので嬉しいです!」
興奮しているようで、大きな声を出したシャールカに、私とリヒト君はびっくりしてしまった。
「ぼ、僕にですか?」
「ええ! リヒトというお名前にその容姿……。以前会ったときから、あなたは光の勇者様なのではないかと思っておりました! 私、子供の頃から勇者についての記録を読むのが好きで、いつか本物の勇者様――中でも、光の勇者様にお会いするのが夢だったんです! 握手してください!」
「えっと……」
リヒト君が光の勇者だということは、徹底的に隠してきたわけではないが、面倒なことが起こらないように、名乗ったりはしてこなかった。
正体を分かっている人から見ると、リヒト君はどこからどう見ても光の勇者だ。
でも、何も知らない人は、まさか身近にそんな存在がいるとは思わないようで、今まで面と向かって「光の勇者様ですよね!」なんて言われたことはなかった。
初めてファンの突撃を受けて、リヒト君はあたふたしている。
「ふふ、してあげたら?」
「あ、はい。僕なんかの握手でよければ……」
「なんか、だなんて! 光の勇者様と握手できるなんて、光栄です! ああ、もう手を洗えません!」
…………。
なんだろう、この親近感――。
この人、私と波長が似ている……。
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