第14話 勝手
翌日。身支度を終えた私とリヒト君は、借りていた家を出た。
シャールカには別行動を取ると告げていたのだが……。
村を出るために通りがかった広場で、私たちを待ち受けていたのは、シャールカと数人の村人たちだった。
スルーして行きたいところだが、通せんぼをするように立っているのでコミュニケーションを取るしかない。
「あの……何か?」
訝しむ私とリヒト君の前で、杖をついたお爺さんが挨拶を始めた。
「光の勇者様にご挨拶が遅れて申し訳ありません。呪われていた樹竜を救い、この村も救ってくださったのはあなた様だと聞きました。我々をお救いくださりありがとうございました」
お爺さんの言葉に合わせ、村人たちが頭を下げた。
「はあ……」
「ど、どういたしまして……」
深々と頭を下げられて、つい私もリヒト君もお辞儀をしてしまったけれど、これはいったいどうなっているの?
シャールカが村人たちに、リヒト君が光の勇者様であることを教えたということは分かった。
このお爺さんはおそらく村長なのだろう。
「それで……。勇者様方は、更に我々に助力くださるとお聞きしました」
「…………は? 助力って何?」
村人だけでは対処が難しいようなことは、騎士団の人たちが帰る前に対処していた。
わざわざ私たちが助けなければいけないようなところがあっただろうか?
周囲の森には多少魔物がいるが、それはこの村にとって普段通りのことだ。
脅威となるような強い魔物はいないし、これまで通りに過ごしていれば何の問題もないはずだ。
「いや、あの……魔物を倒したり、狩りで食料を確保してくださったり、できる限りをしてくださると……」
私たちのきょとんとしている様子を見て、村長はうろたえながらシャールカを見た。
……なるほど。
リヒト君の正体をバラした上に、「困ったことがあったら勇者様が助けてくれます」的なことを言ったのだろう。
「少々お待ちくださいね」
私は村長たちに笑顔を向けると、リヒト君と共にシャールカを少し離れたところまで連行してた。
「あなたね! 今日、私たちは用事があるって言ったでしょう!」
「そうですよ。勝手に話を進めてしまっては、僕たちも村の人たちも困りますよ」
二人で抗議をしたのだが、シャールカは悪びれることもなく、笑顔で私とリヒト君に言い放った。
「勇者様の用事は私がすませて参りますので、お二人は村の方々を助けて差し上げてください」
「は?」
「え?」
えー……。なんなの、この人!
人の予定を勝手に決めるなんて!
驚きすぎて私たちは一瞬ぽかんとしてしまったが、呆けている場合じゃない。
「私たちの用事をあなたに頼むことはできません。どんな用事かも分からないのに、勝手なことを言わないで!」
「どうしてですか? 私にできないことですか? でしたら、その用事は後日にしていただけませんか?」
「いただけません!!」
きっぱり拒否をすると、にこにこしていたシャールカの顔が一気に険しくなった。
「その用事は、人助けよりも大事な用事ですか!」
「はいー?」
……あ、だめ。イライラしてきた。
リヒト君の前で怒鳴ったりしたくないのに!
「私たちにとっては大事よ」
「勇者様にとっては人助けが一番大事なんじゃないですか!?」」
「はあああ?」
せっかく我慢していたのに……。
リヒト君に向けて放った言葉を聞いて、私の中の線がプチンと切れた。
「人助けならしたわよ! 樹竜を救って助けたじゃない!! でも、何から何まで助けるわけにはいかないわよ! 村の復興が進みやすいように、ある程度は騎士団が帰る前にやっていってくれたでしょう!? 自分たちの手でできることはやって貰わないと! あなたの考えをリヒト君に押し付けないで! 村の力になってあげたいって考えは素敵だけれど、やりたいなら自分でやりなさい!」
「…………っ」
私の怒りの抗議を受けて、さすがのシャールカもたじろいだ。
だが、まだ引き下がるつもりはないらしく、怯みつつも言い返してきた。
「た、確かに、騎士団が色々片付けて行ってくれましたが、もう帰ってしまったじゃないですか! 近くの森には魔物がいますし……。復興で忙しい今、村人の安全にも配慮してあげるべきだと思います! 目の前に困っている人がいるのだから、手を差し伸べるのが勇者様なのです!」
もっともらしいことを言っているが、勇者は自分を犠牲にしてでも民につくせ! と言っているようで私は受け入れられない。
魔物のことだって資材を得るために森に入ったりするだろうけど、対策次第でなんとでもなる。
魔物が出る場所や時間帯を避ければいいし、出たとしても村人で対処できるレベルの魔物だし。
「……マリアさん、今日はお手伝いしますか? 魔物は倒してあげます?」
「しなくていいよ!」
こっそりと話しかけてきたリヒト君に、私は全力で拒否した。
優しいリヒト君が折れそうになっているけれど、私は絶対に嫌です!
勇者だからと言って、リヒト君に行動を強制させるなんて許せない!
「じゃあ、お姉さんが作った強い武器を村の人たちにも売ってあげるのはどうですか? それだと、村の人でも余裕を持って魔物を対処できると思いますし……」
「強い武器? あ、騎士たちが持っていたものですね」
相談していた私たちの間にシャールカが入って来た。
あなたには話していません!
イライラを隠せない私に、笑顔を取り戻したシャールカが話しかけてきた。
「彼らが持っていたものを少し拝見しましたが、あの武器は素晴らしかったです! 村は今、復興で出費が多く金銭面で厳しい状況ですし、差し上げてはどうでしょう!」
無償で働いて、無償で物を提供しろ?
そろそろドロップキックを入れてもいいですか?
私はお金で困っていないから無償提供することは構わないが、今回はあげるわけにはいかない。
「リヒト君、ごめんね。その案には頷けないわ。村の人に強い武器を売ることはできないの」
「どうしてですか?」
「騎士団の人には売ったのでしょう!?」
リヒト君に説明したいのに、先にシャールカが突っかかって来た。
ああもう~~~~大人しくしていてよ!
「私が武器を売った騎士たちはそれなりに実力があったわ。だから彼らに扱えるレベルの武器を売ったの。でも、この村には彼ら程の腕がある人はいないの。価値の武器を持っていても上手く扱えなかったり、強奪するために狙われるかもしれないし、逆に危険だわ。それに、強奪するような連中に攻撃力が高い武器が渡るのもまずいでしょう?」
「……そうですね」
私の説明を聞いてリヒト君は頷いた。
「考えもなしに余計なことを言ってすみません」
「…………」
シャールカも納得していない顔をしているが何も言わない。
私が言ったことを理解はしたようだ。
だったらもうこの話は終わり!
私たちは予定していた目的地に向かおうと思ったのだが……。
「あの!」
少し離れていたところでこちらの様子を見守っていた村人の一人が駆け寄って来た。
二十歳前後の青年で逞しい体つきだ。
「俺は村の自警団の団長です。俺は村で負け知らずです! 炎の勇者様には敵いませんが、騎士様方と同じくらいには戦えると思います!」
「そうですか。がんばってください」
私は何も考えず、条件反射で答えていた。
いや、だって……。
確かに細身の人が多い村の中では恵まれた体格だし、自警団の活動で森の魔物を倒したり、もめ事を解決したりして自信はあるのだろう。
でも、どう見ても騎士に敵うことはない。
自分の実力が分からないということは、その程度の者だということだ。
「先程のお話が聞こえてきたのですが……俺ならレベルの高い武器でも扱えると思います!」
「無理です」
今度も条件反射で即答だ。
すると、今までかしこまっていた青年が顔を顰めた。
プライドが高そうなので、「無理」と言われて腹が立ったのだろう。
私だって腹が立っているわよ!
早くリヒト君と二人で楽しくお喋りしながら目的地に向かいたい。
今日は行儀が悪いけれど、お菓子を食べながら歩くんだから!
リヒト君で癒されたいから、手をつないでくれないかなあ。
今度こそ出発! と思ったのだが、またもや腕を掴まれて引き留められた。
「じゃあ、手合わせして貰えませんか! 俺が勝ったら武器をください!」
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