第13話 推しも押しも強い

 彼女の申し出に即答できなかった。

 悪い人ではなさそうなので、友人としてなら受け入れられるが、仲間となるとすぐに答えはだせない。

 リヒト君の力になってくれる人が増えるのは良いことだと思うけれど……。

 シャールカも私たちのそういう心情を察知したのか、「ぜひご検討ください!」と一歩引いてくれた。

 話が終わり、今日のところはさようならだと思ったのだが……。


「リヒト様、精霊召喚はできるのでしょうか!」


 シャールカは当然のように私たちが泊っている家についてきた。

 押しが強い!

 一歩下がってくれたと思ったら、全力タックルしてきたこの感じ!

 嫌いじゃない! でも、さすがの私も驚きです!

 今はお茶を飲んでリラックスタイムなのだが……。


「リヒト様、精霊召喚はできるのでしょうか!」


 シャールカはずっと、リヒト君になぜなぜ期の二歳児にも負けない勢いで質問をしている。


「むむ……」


 リヒト君を占領され、私は寂しい。

 泊るところがないというのなら分かるが、宿は確保していたという。

 それなら私はリヒト君と二人きりを満喫したかったです~!!


 でも、リヒト君とお近づきになりたい気持ちは分かる。とてもよく分かる。

 私はストーキ……ずっと、陰ながら見守ったくらいだ。

 リヒト君を独り占めするという贅沢を今まで味わってきたので、今日は我慢しよう。

 あ、でも、シャールカが仲間になったらもう贅沢時間は終わり……!?

 勇者として活躍していくリヒト君のためにも、私はリヒト君離れをするべきなのかもしれないけれど……お姉さんは寂しすぎます!


「マリアさん? どうしたんですか?」


 しょんぼりしていると、リヒト君が声をかけてくれた。

 シャールカの質問攻めにあっていたのに、私を気にかけてくれるなんてやっぱり天使だ。

 おかげでお姉さんは元気が出ました!


「なんでもないの。えーと、リヒト君たちは精霊の話をしているの?」

「あ、はい。精霊召喚の話です。できるって話をしたら、シャールカさんがこんなになっちゃって……」

「えっ」


 困り顔のリヒト君に促されて見た先にいたのは、目を見開いたまま固まっているシャールカだった。

 ぴくりとも動かない。

 あのー……生きてますか?

 ホラー映画に出てきそうで怖いのですが!


「精霊召喚ができるなんてすばらしいですっ!!!!」

「!」


 シャールカは突然動き出し、そう叫ぶとリヒト君を拝み始めた。

 心臓に悪いので急に動かないで欲しい!

 びっくりして今度は私とリヒト君が固まってしまった。


「歴代の勇者様の中でも、はっきりと精霊召喚が使えた、と記録されている方はいません! 精霊召喚についての記録はありますが、本当は不可能なのでは? と疑問の声が上がっているくらいです!」

「そ、そうなの?」

「はい!!!!」


 シャールカの熱量と声量で、精霊召喚がどれだけすごいことなのか伝わってくる。


「普通は精霊様のお姿を拝見することもできませんし、お声が聞こえた場合は『お告げ』として取り扱います。それほど神聖視されている精霊様を呼び出せるなんて! ……はっ! リヒト様は、もはや勇者様ではなく…………神様なのでは?」

「…………っ!! 私もそう思う!」


 私も常々リヒト君を天使……いや、神だと思っていました!


「僕は神様じゃないです……普通の人間です……」


 私とシャールカにキラキラとした目を向けられ、照れているリヒト君が可愛い。

 少なくとも私の中で神の位置にいることは間違いない。


「いえ、普通の人間は精霊召喚なんてできません! それに、先ほども言いましたが、他の勇者様でもできません!」

「え? でも、アレクセイさんは精霊と話していたような……?」


 確かに樹竜の件の際、精霊とコミュニケーションを取っていた。


「ええ。勇者様なら精霊様と交流を図ることはできると思います。でも、呼び出して従わせる『精霊召喚』とはまた違います。それに、精霊召喚で呼び出された精霊様は、私のような普通の人間の目にもお姿が見えるらしいです。ですので……」


 シャールカはそこまで言うと、ちらちらとリヒト君に目を向けた。

 さすがに何を言いたいか、私もリヒト君も察することができた。

 精霊召喚をしてみて欲しいようだが……。


 リヒト君が私に、「どうします?」と視線で救いを求めてきた。

 私たちはカトレアやダグがどうなったかを見たこともあり、精霊召喚を使うことには迷いがある。

 少しずつ精霊召喚の修行はしてきたし、精霊がリヒト君を裏切ることはないと思うが、精霊という存在を人間が扱うことができるのか。

 何かあったときに精霊を抑えることはできるのか。


 危険性がある以上、大丈夫だと確証が持てるまではなるべく精霊召喚は控えようということになっていた。


 シャールカに見せるかどうかは、リヒト君の判断に任せたい。

 その合図を送ろうと思ったのだが……シャールカの見せてくれ圧がすごい!

 キラキラした目が、ずーとリヒト君を脅迫している。

 この様子だと、断って今は引いてくれても、見せるまで追いかけられそうだ。

 それなら今見せて納得して貰った方がいいかもしれない。

 勇者について詳しいようだし、見て貰ったら何か分かるかも……?


「コダマくらいならいいんじゃないかな……」

「そ、そうですね」

「コダマ! 光の精霊コダマ! 姿は見えませんが、どこにでもいるという……光の精霊の中では一番身近な存在ですね!」


 やはり精霊についての知識もあるようで、鼻息荒く話している。

 さっきからずっと血圧が高い状態が続いていると思うが、大丈夫だろうか。

 そろそろ心配になってきた。


 シャールカの視線の圧力に急かされ、リヒト君がコダマを呼び出した。

 コダマは「白い火の玉」という感じの姿だ。

 リヒト君の呼び出しに応え、姿を現したコダマは3つ。

 コダマたちは、リヒト君の周りを嬉しそうにふよふよと浮かんでいる。


「すごい……精霊様だ……。私にも見えます!!!! 精霊様、お目にかかれて光栄です!」


 シャールカの挨拶を受けたコダマたちは、顔がないから表情は見えないが、喜んでいるのは分かった。

 気分がよくなったのか、シャールカの周りをふよふよと漂っている。

 むむっ……私にあんなに懐いてきたこはないのに……負けてしまったわ!


 密かに悔しさを噛みしめていると、シャールカに聞こえないようなひそひそ声でリヒト君が話しかけてきた。


「マリアさん」

「ん? どうしたの?」

「明日の予定ですが……シャールカさんも一緒に行くんですか?」

「え? あー……」


 明日は例のクエストがある場所に向かうつもりだが、私たちの拠点を知られることになるので一緒に行くかどうか迷う。

 この勢いだと、必ずついてくると思うが……。


「リヒト君はどうしたい?」

「ええっと……。マリアさんがやったことがないクエストの場所なんですよね? もし何かあっても、僕はマリアさんを守りたいので、シャールカさんには留守番しておいて欲しいです」

「リヒト君っ……!」


 ……こんなに私が喜ぶ最高点の答え、他にある?

 絶対にない!!!!

 歓喜でお姉さんは震えるよ! 恐ろしい子!

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