第9話 協力
村に戻り、空き家を借りてアレクセイと話を始めた。
セラとエメルは、騎士たちへの指示や後始末を押し付け……任されたため、外で忙しく動き回っている。
「闇の大精霊、か」
年季の入った椅子に腰かけたアレクセイが呟いた。
アレクセイには、闇の大精霊が魔王級の魔物を生みだしている可能性を伝えた。
ここがゲームの世界と同じであることや、私が転生者だということなどはまだ話していない。
「……心当たりがある」
重い息を吐いたアレクセイが背もたれに体重をかけると椅子が軋んだ。
「心当たり? 闇の大精霊と魔王級の魔物に繋がりがある、ということに?」
「ああ。以前魔王級の魔物を倒したことがあるのだが、その際に闇の精霊の気配を感じたんだ。上手く説明できないが……不思議な気配だった。君は倒したことがあるか?」
「僕はまだないです」
「そうか。じゃあ、あの感覚をどう説明したらいいかな……」
勇者にだけ分かることがあるのだろうか。
アレクセイは唸りながら考え込んでいる。
私も魔王級の魔物と対峙したことがあるが……。
「私は大精霊の武器を持っていないし、倒せなかったけれど、追い払ったことはあるわ。でも、その時は闇の精霊の気配なんて分からなかった」
倒せないことは分かっていたけれど、近くに町があったため、住民が避難するための時間稼ぎで戦ったことがあった。
避難が済んだら私も逃げようと思っていたのだが、魔王級の魔物は途中で忽然といなくなったのだ。
かなりダメージを与えることができていたから、逃げたのだと思う。
「……追い払ったことがある?」
「ん? うん」
アレクセイが顔を顰め、私を見ていた。
もしかして、嘘を言っていると疑っています?
「追い払ったというか、正確には途中でいなくなったの。それに、私一人で戦ったわけじゃないわ」
近くにいた冒険者がギルドの指示で集まっていたので、かなりの人数が集まっていた。
まともに戦えたのは極少数だったが……。
「あ、いや、すまない。君の発言を疑ったわけじゃないんだ。君の強さは目にして分かっているからね。ふと、勇者だから魔王級の魔物を倒せた俺と、勇者ではないが魔王級の魔物を退けることができる君、どちらの方が強いのかと考えたんだ。……そうだ、一度俺と戦ってみてくれないか!?」
「お断りします!」
キラキラした目を向けられたが、負けず嫌いのアレクセイに絡まれたら、勝っても負けても面倒なことになりそうだ。
うーん……私とアレクセイが本気で戦ったらどうなるだろう。
ゲーム知識チートがある私でも、生粋の勇者であるアレクセイと正面からぶつかったら敵わない……はずだ。
私とリヒト君が組んで戦うなら勝てる自信はあるけれどね!
リヒト君はまだ成長過程だし、何年かしたらリヒト君一人で倒してしまうかもしれない。
いや、そうなっているはず!
……って、ついついリヒト君を推す本能が走り出してしまった、今はまだ話さなければいけないことがある。
「闇の精霊については、他に気になっていることがあって……。人を操っていた道具からも、闇の精霊の気配を感じたの」
「人を操る?」
「ええ。それも、勇者であるリヒト君を操ることができたようなものよ」
「……今の僕なら操られません」
私の発言を聞いたリヒト君が、気合を入れて決意するように拳を握った。
凛々しい顔が素敵! 頼もしい!
またファン精神が突っ走ろうとしたが……今の自分の発言がふと蘇ってきてハッとした。
私ってば、わざわざリヒト君が操られたことを話すなんて……最悪だ!
「リヒト君! お姉さん、余計なことを言ってごめんね!」
「余計なこと? あ、僕が操られたことですか? 事実ですし、伝えておいた方がいいことだと思います。余計なことじゃないですよ」
「リヒト君……!」
そう言って笑ってくれるリヒト君は天使過ぎませんか?
「君たちは本当に仲がいい姉弟だな」
リヒト君の優しさに感激する私を見て、なぜかアレクセイが和んでいる。
「姉弟ではありません。前にも言いましたよ」
ああっ、その発言は「お姉さんじゃない!」と言われたときの傷が抉られる……!
泣きそうになる私に反し、アレクセイは否定するリヒト君にも和んでいる様子だったが、少しするとまた真剣な顔つきに戻った。
「勇者を操ることができるとなると、精霊の力が働いている可能性は高いな。色々と闇の精霊について調べる必要がありそうだ。もしかして、今回の樹竜のことも関係があるのか?」
「それは分からない。でも、あの樹竜の呪いが闇の精霊の影響を受けて、より深刻な状態になっていたのは確かだと思う」
呪炎花だけで完全に解呪できなかったのは、闇の精霊の力が働いていたのだろう。
どうしてそうなったのかは、ゲームではなかったことなので分からない。
「闇の大精霊が魔王級の魔物を生み出している――それが真実なら、闇の大精霊を放ってはおけない。もちろんこれから調査を行っていくが……。俺たちは共に、勇者としての役目を果たそう」
「はい! よろしくお願いします!」
アレクセイが差しだした手を、リヒト君が握った。
そうだよ、これを待っていたんだよ!
よかった……勇者が手を取り合ってくれて!
「マリアベルもよろしく」
「あ、こちらこ……」
アレクセイの手を握ろうとしたのだが、何故かリヒト君がもう一度アレクセイと握手をしていた。
「マリアさんの分も僕がやっておきますね」
「え? ありがとう?」
特に異論はないのでいいけれど、握手って代理がいるものだっけ?
そしてアレクセイはどうしてまた和んでいるの?
「マリアさん」
リヒト君がこそこそ話をしてきたので、耳を寄せる。
なになに?
「アレクセイさんって、悪い女性に騙されてばかりいるらしいですよ。近くにいたらトラブルに巻き込まれるから気をつけた方がいいそうです。でも、マリアさんのことは僕が守るから安心してください!」
「なっ」
地獄耳なのか聞こえていたアレクセイが顔を引き攣らせた。
もしかして、それで握手を代理してくれたの?
どうしてリヒト君がそのことを知っているのだろう……と思ったら、扉の隙間からセラの姿が見えた。
アレクセイを迎えに来ていて、待っていたのかもしれない。
セラは私たちが見ていることに気が付くと、ウィンクをした。
アイスソード料の情報をリヒト君にも話したの?
面倒なことを押し付けられた腹いせなのかもしれない。
「おい、セラ! 子どもになにを吹き込んだ!」
「あ、また! 僕はもう子どもじゃありませんよ!」
あ、また揉める予感が……。
リヒト君とアレクセイが勝負をするという予想外のことは起こったが、協力関係を築くことはできた。
炎の勇者を仲間にするというイベントは「無事クリア!」ということで!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます