本物の方の勇者様が捨てられていたので私が貰ってもいいですか?

花果唯

プロローグ

グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!


 森の厄災フォレストコングが咆哮をあげる。

 生い茂る草木がビリビリと震えるが――ここはダンジョンの中だ。

 まるで屋外のように天井は高く、視界の限りに自然が広がっているが確かにダンジョンの中なのだ。

 フォレストコングが敵に死の宣告を与えるかのように胸を打ち鳴らすと、その振動でフロアが揺れた。

 木々にとまっていた鳥達が羽ばたき、逃げていったのを皮切りに戦闘が始まった。


 フォレストコングに対峙しているのは私一人。

 本来はパーティを組んで倒さなければいけない敵だ。

 だたかだか二十歳そこそこの小娘である私一人では到底倒せないはずだが……問題ない。

 実際に今までも生活費稼ぎに何度か倒している。


 ……と、こんなことを考えている間にもフォレストコングが巨体を高速回転させ、地響きと砂埃を引き連れて突っ込んで来た。

 だが、分かっていたことなので難なくかわす。

 私が一人でも余裕なのは、フォレストコングがどんな行動をとるか詳細を知っているからだ。

 何故知っているのかというと、前世でプレイしたゲームで何度も対戦したから。


 この高速前転で突っ込んできた後、フォレストコングはふらつく。

 わざわざ相手に隙を見せる攻撃を出すなんて馬鹿だなあと思うが、それは戦闘を派手にするための仕様だと思うので仕方ない。

 フォレストコングに罪はない。

 「ご愁傷さま」と呟きながらも遠慮無く剣で叩き斬る。

 このふらついている間に物理攻撃を入れると倒れ、少しの間無防備となるスタン状態に陥らせることが出来るのだ。

 狙っていたとおりにスタンになったのでここぞとばかりにガンガン斬る。

 私は魔法の方が得意なのだが、攻撃力の高い魔法の発動には少し時間がかかる。

 スタン時間は短いので斬り込んだ方がダメージを与えられるのだ。

 スタン状態から回復して動き回り始めると距離をとり、遠距離魔法でダメージを与える。


 私は難なく対処してしまっているので忘れそうになるが、フォレストコングは腐ってもこのダンジョンの中層ボスで弱点属性はない。

 雷系の魔法だと稀に麻痺状態になり動きが鈍くなるので雷系を打ち込んでいく。

 暫く続けていると、立ち止まったフォレストコングがまた胸をどんどんと叩きだした。


 次の攻撃は――土の中から槍のように変化した鋭利な木の根が無数に突き出してくるはずだ。

 貫通の効果があるので当たると防御していても相当ダメージを受ける。

 モズの早贄状態にはなりたくないので回避出来るルートを辿りながら、更に次の行動を予測する。

 恐らく眷属の魔物を召喚するだろう。

 召喚されても倒すことは出来るが時間がかかってしまうので面倒臭い。

 特に飛び回る鳥系魔物が鬱陶しいのだ。

 召喚魔法を使っているところにダメージを入れると阻止することが出来る。


 案の定召喚を始めたのですかさず叩き斬り、詠唱をキャンセルさせた。

 さあ、また地道にダメージを入れていくかと構えたが、フォレストコングは耳をつんざく雄叫びをあげて倒れた。


「あれ?」


 どうやら今のは断末魔の叫びだったようだ。

 思っていたよりもあっさりと倒せてしまった。


「私、またレベルがあがったのかな?」


 もうフォレストコング程度では上がらないレベルになっていたと思うのだが、積み重ねていた経験値が溜まったのかもしれない。


「こんなに強くならなくてもよかったんだけどなあ。悲しいほど一人で生きていけるなあ」


 人生二回目。

 ハーフエルフのマリアベルとして生きている今世でも、順調にぼっちライフを歩みそうだ。

 泣けちゃう。

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