第25話 再会

 冒険者達に『強盗』についての話を詳しく聞いた。

 冒険者達はここより進んだ一つ下の階を攻略していたが、敵との連戦で体力を消耗したため、休憩中のところに大所帯の一行が通りがかったらしい。

 何ごとかと見送っていると、一行の中心にいた偉そうな女が話し掛けて来たそうだ。


『あなた達、私達の攻略を手伝いなさい。私達、力を温存しておきたいの。露払い要員として加えてあげる。報酬なら支払うから安心するといいわ』


 失礼な態度や物言いに冒険者達は怒り、当然断った。


『じゃあ、あなた達の武器やアイテムを寄越しなさい。何か私の役に立つことをするのが礼儀というものでしょう?』


 これには面倒なことにならないようにと我慢していた冒険者達も憤り、謝罪をしろと詰め寄ったが――。


『大人しくしていなさい』


 そう言い放った女の魔法により、動けなくなったそうだ。

 そして女に従っている連中が冒険者達の所有物を回収していったらしい。


「なるほど。間違いなく『強盗』ね。クズい」


 女は間違いなくカトレアだろう。


「姫っていうか……もはや賊」


 私の呟きにリヒト君も頷いた。

 そして動けないため冒険者達に捨て台詞を吐いていったという。


『覚えておきなさい! この方が……ルイ様が今から大精霊の武器を手にする勇者よ! 役に立てることを光栄に思いなさい!』


 わあ……その様子が凄く目に浮かぶ。

 らしいといえばらしい行動と言動だ。


「あんなことする奴らが勇者一行なわけねーだろ! 強盗だ! って叫びたかったんだがな、上手く話すことも出来なくてね」

「本当に悔しい。あんな奴らが大精霊の武器を手に入れるなんて絶対に嫌!」

「君!」

「は、はい!」


 突然冒険者達の視線を一斉に浴びて、リヒト君は驚いた。


「君のような子に勇者になって貰いたい!」

「ああ! 君達はこの先に進むんだろう? だったらあんな奴らに負けないよう頑張ってくれ!」

「皆さん……」


 囲まれての激励にリヒト君は照れているが嬉しそうだ。

 私もにこにこしてしまう。

 うんうん、あなた達は見る目があります!


「エルフの姉さん」

「はい? 私ですか?」

「おう! あんただ! あんた、食堂でみんなに奢ってくれた太っ腹な姉さんだろ!」

「ファビュラスなハーフエルフと言ってください!」


 太っ腹は嫌。

 ちゃんと意味は分かっているけどメタボって言われているみたいで嫌!


「あの時店にいたの?」

「ああ、あん時はごちそうさま! この先の攻略については何も出来ないが、大精霊の武器を手に入れたら祝おう! 今度は奢らせてくれ! ……って、お?」


 冒険者の男が私の肩に腕を乗せていたので重かったのだが、軽くなったと思ったらリヒト君が男の腕を下ろしていた。


「お姉さん! 気をつけなきゃだめじゃないですか!」

「何を?」

「だから!」

「?」


 頭の上に盛大にハテナを浮かべる私に男が笑い声を上げた。


「なるほど! お姫様を守る騎士か」

「!」


 吃驚しているリヒト君の顔が赤い。

 姫? 騎士?

 私達のことを言っているのなら……!


「リヒト君は確かに可愛いけれど、お姫様じゃないわよ! 王子様……じゃなくて勇者様!」


 中性的な美しさに惹かれるのは分かるが、リヒト君が恥ずかしがっているでしょ!

 私が騎士というのは受け入れましょう、素敵!


「少年、苦労しそうだな……」


 え? リヒト君、どうして苦笑いなの?

 リヒト君に苦労なんてさせません!


 話を聞き終えると冒険者達とは別れた。

 上の階は私達が根こそぎ倒してきたし、再び魔物が湧くまで時間もあるだろうから安全に帰ることが出来ると思う。

 念のためエンカウント率を下げる聖水もあげたし大丈夫だろう。


 中層になるとより広くなり、下に降りるまでの道のりも長くなる。

 とはいえ、内部構造が変化するダンジョンではないので最短ルートを覚えているし、私とリヒト君を手こずらせるような魔物もまだいない。

 あっという間に中層のボス、フォレストコングの元に辿りついた。

 リヒト君の『お願い』はまだ効いているようで銀色である。


「あら、倒されていないのね」

「倒されていない?」

「ダンジョンの魔物はすぐには復活しないの。特にボスは時間が掛かる。一日はかかるわ」

「じゃあ今日は誰も……カトレアさん達もまだ来ていないってことですか? あ、無視して進んだとか?」

「ううん。倒さないと進めないの」

「じゃあ僕達、どこかで抜かしちゃったんですね?」


 私達は最短ルートで来たがカトレア達は迷っているのかもしれない。

 大所帯で動いているようだし、移動も遅そうだ。

 リヒト君の言うようにどこかで追い抜いてしまったのだろう。

 これでもう勝ったも同然!

 相手にすらならなかったわね、ふふ……。


「とにかくフォレストコングを倒さないと!」

「そうね」

「お姉さん、僕一人でやってみていいですか?」

「え?」

「前はお姉さんに守って貰っただけなので。自分一人でやってみたいんです!」


 強くなっていることは確かだけど、前に戦ったことがある相手だと成長がはっきり分かるものね。

 試してみたい気持ちが分かる。


「うん。じゃあ、お願いするね!」

「お姉さんは休憩していてください。あ、ここにどうぞ」


 白銀シリーズのロングコートを脱いで地面に敷き、そこに座ってと促される。

 リヒト君ってばなんて紳士なの!

 お姉さん今日一番のトキメキを感じました!


「あ、でも防御力が下がるから着ていた方が……」

「大丈夫です」


 そう言ってにっこりと微笑む笑顔にまたきゅんとする。

 多方面に成長するリヒト君の進化ぶりが恐ろしい。


「ありがとう。頑張ってね!」


 お姉さんは推しを応援するファンとなり、心のうちわを両手に持って見守ります!


 リヒト君は私の戦い方もちゃんと覚えているようで、フォレストコングの行動に合わせた回避もばっちりだし、攻撃力についても問題ない。

 というか、私より早く倒しそうでお姉さんはちょっと複雑だ。

 仲間兼保護者の立場が……!


 そして何より素晴らしいのがリヒト君は時折こちらを見てにこりと微笑んでくれる。

 ファンサービスも忘れないなんて!

 お姉さんはリヒト君を一生推す!!


「わあ、もう終わりそう……」


 フォレストコングが瀕死時の行動をとっている。

 楽しいリヒト君の公演が終わってしまう。

 毎日見たいな、この公演。

 エターナルチケットが欲しい。


 なんてことを考えているうちに本当に終わりのようだ。

 リヒト君が最後の一撃を繰り出そうとしているのが見えたので立ち上がり、コートを拾おうとしたその時――。


 私の横を何かが猛スピードで通り過ぎて行った。


「何!?」


 それは真っ直ぐにフォレストコングへと向かい、リヒト君のトドメの一撃よりも早くフォレストコングに到達した。

 驚いているリヒト君の顔と共に見えたのは、フォレストコングの額に刺さった剣。

 謎の剣により、フォレストコングは息絶えた。

 それはつまり…………。


 ああ、あの時と一緒だ。

 腹立たしい記憶が蘇る。


「経験値、もーらい」


 あまり日にちは立っていないのに、久しぶりに聞いたようなその声は……。


「ルイ君……」

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