第28話 待っていてリヒト君!
「見るからに光属性弱点ですって姿ね!」
距離を詰めながら光属性の武器を取り出す。
白牛王の大斧。
その名の通りの大斧で、重く巨大だ。
力の能力値が高くないとまともに使えないので、私も実践で扱えるようになったのは割と最近である。
ハーフエルフの細身な私が持つと違和感しかなく、似合わない。
いや、ここはあえてギャップ萌えだと言って欲しい。
というか、リヒト君に「お姉さん、凄いです!」って言って貰いたい!
天使の笑顔で癒やされたい!
ああリヒト君っ、お姉さんすぐに行くからね!!
「はあ、やっぱりずっしりくる……重いわね」
これだけの重量があるとやはり素早さは大幅に下がるが、攻撃力は飛び抜けて高い。
「回避は捨てた今回には適した武器でっ……しょ!」
反撃の隙を与えないため、連続技で斬り込んでいく。
この白牛王の大斧には、斬り続けると攻撃力が増していく効果もあるので、途切れることなく斬り込んでいきたいが、十回程攻撃すると反撃を食らった。
まともにフォレストコングに殴られたのは久しぶりだ。
乙女を殴るなんて許せない大猿だわ!
体力がごっそりと減り、思っていたよりもダメージが大きくて驚いた。
今のリヒト君なら持ち堪えることが出来ると思うが、ルイだったら即死だろう。
「痛いけど……死ぬほどじゃないわね!」
五、六回連続で食らえばまずいと思うが、そこまで追い込まれることはないはずだ。
反撃は回避することも出来るが、避けると動きを捉え、次の攻撃に入るまで時間が掛かるので面倒臭い。
こんなこともあろうかと、最初から常に回復する魔法もかけているから大丈夫。
反撃を受けた後もすぐに斬りかかり、移動することなく連続で斬り続ける。
着実にダメージを与えられているようだし、倒れるまでこれを続ける。
その名もごり押し作戦!
魔法も試してみようかと思ったが、このままフォレストコングと「斬る」と「殴る」の応酬をしていた方が早く終わりそう……というか終わらせる!
八回ほど繰り返したところで外野から私に回復魔法が飛んできた。
大神官様がかけてくれたようだ。
かけていた回復魔法の回復スピードでは受けたダメージを治しきれず、私の体力も減ってきていたので有り難い。
下手に回復されると邪魔なので、見極めたタイミングで回復してくれたのも助かった。
顔の良い大神官なんてお飾りかしら、と少し思ってしまっていたことを謝りたい。
余裕がないから感謝はあとで言うが、一瞬目を向けるとにこりと微笑みを向けてくれた。
やっぱり顔が良いな……。
うん、苦手だ!
「美人と魔物が戦っているのに、ゴリラ対ゴリラに見えてくるから不思議だよね」
「……聞こえていたらどうするんですか。あの大斧が飛んできても知りませんよ」
「そうなったらお前が守ってくれるだろう?」
「無理ですね」
「即答するな。……おや、君。近づくと危ないですよ」
「…………」
「戦闘に見入ってしまっているな。ゲルルフ、ふらふら歩いて行かないように見ていてあげてくれ」
「はい」
黒フォレストコングの体力が限界に近づいて来たようで変化があった。
動きが速くなり、白牛王の大斧での連続攻撃が出来なくなった。
そして距離をしまう。
このまま追いかけても鬼ごっこ状態になってしまう。
「面倒臭ああああいっ!」
早く追いかけたいの!
苛々が限界を突破したので、普段の魔力重視の装備に戻し、光属性の広域魔法を連発した。
これだったらどこにいても当たるでしょ!
魔法に関しては威力も魔力量も自信がある。
黒フォレストコングの体力もあと少しだろうし、空っぽになるまで打ち続けたらいけるはず!
「さっさと果てろ~!!!!」
「……ここは地獄か?」
「フォレストコングが憐れになってきました」
「すげえ……すげえ!!」
魔力が底をつきそうになったところで黒フォレストコングの動きが止まった。
倒せたかな?
念のためこの隙に魔力を回復したが、杞憂に終わった。
フォレストコングの身体が黒い靄となり、消えていった。
いつもと違うなあ?
そもそもどうしてリヒト君が倒したのに復活していたんだろう。
カトレアが何か仕掛けてきたのかもしれないが、どうやって?
リヒト君に何もしていないといいが……。
「エルフのお姉さん凄えな! めちゃくちゃ強えじゃん!」
「はいはい、行くよ!」
何故か興奮した様子のルイが駆け寄ってきたが、構わず先に進む。
ゲルルフも早く大神官様という荷物を背負って追いかけて来て。
あ、あと「ゴリラ」って聞こえていたからね。
私、忘れないから。
「待ってくれよ、師匠!」
「は? 師匠?」
「弟子にしてくれ!」
息を切らせて一生懸命ついてくるルイが叫ぶ。
「嫌」
「なんでだよ! あいつだけずるいだろ!」
「リヒト君は弟子じゃありません! 大事な仲間です」
「じゃあオレも……」
「嫌」
「何で……」
「何故なら嫌だから。それに泥棒は嫌い。せめてリヒト君から奪った経験値を返してから言いなさい」
「なっ……経験値なんてどうやって返せばいいんだよ!」
「無理ね。あなたはそういう取り返しのつかないことをしたってことよ! はい、もう無駄口叩かない! 置いていくわよ!」
「…………っ! オレは諦めないからな!」
スピードを上げたが、ルイが必死についてくる。
ちょっとは根性あるかも?
何故その根性をリヒト君と共に発揮しなかったのだ。
異世界転移同士支え合えていたら、リヒト君は悲しい思いをしなくて済んだのに!
むかっとしたのでスピードを上げてやった。
大人気ない?
知ってる!
でも嫌われても痛くも痒くもないルイ相手だからいいの!
そんなことより、リヒト君はどこなの!?
飛ばされた場所まで戻ったがリヒト君の姿はなかった。
思い当たるのは……。
「大精霊の武器か」
リヒト君を連れて向かう場所となればそこしかない。
一緒に手に入れましょう、みたいなことも言っていたし……。
「どうやら愚妹と勇者様は、大精霊の武器が眠る場所にいるようですね」
追いついてきた大神官様が話しかけてきた。
もちろんゲルルフの背中から。
「そうみたいね。行きましょう」
すぐに奥へと足を進めた。
どうやってリヒト君を移動させたか気になる。
カトレアは人を操る手段があるようだったし、リヒト君も操られてしまっているのかもしれない。
操られていなくてもリヒト君は優しいから、たとえゴロツキ冒険者でも人質にされたら言うことを聞いてしまうだろう。
「この先の道のりもご存じのようですね。大精霊の武器の在りかもご存じでしたか」
「ええ。ダンジョンの最奥まで行ったことがあるから知っているわ。私は選ばれなかったわね。何もなかったもの」
大精霊の武器は相応しい者の前にしか現れない。
私は転生なんてものをしているし、もしかすると選ばれるのでは!? なんてドキドキしたが、何もなくて「ですよね」と一人で呟いた。
誰にも見られていないのに恥ずかしかった。
「そうでしたか」
「驚かないのね?」
「驚いていますよ? 武器まで辿りついていたとは……流石です。ねえ、ゲルルフ?」
「…………」
土気色の顔で「話しかけるな」という顔をしているのでそっとしておいてあげよう。
「おや? あれは……」
大神官様が前方を見て声を上げた。
つられて見ると、そこには蛍のような白い光が漂っていた。
リヒト君を追いかけまわしていた光の精霊達だろう。
いつもはほわほわと揺れていたのだが、今は忙しなく動き回っている。
まるで焦っているような、怒っているような……?
とにかく良くないことが起こっているのだという印象を受けた。
リヒト君に何かあった!?
更にスピードを上げ、精霊達の間を通り抜けた。
「これは……?」
やっと辿りついたダンジョンの最奥。
私が来た時にはドームのような広い空間に、神殿だったことを匂わせる遺跡があっただけだったのだが……。
記憶にあるのはほぼ灰色一色だったのだが、今は「ここは楽園かな?」と思うような光景になっている。
ボロボロで崩れていた遺跡は純白の汚れ一つ無い神殿に。
神殿の周りには色とりどりの花が咲き誇っている。
「リヒト君!」
神殿の前にある六本の柱に囲まれた広場にリヒト君の姿があった。
よかった、怪我はなさそうだ。
でも呼んでも反応はなく、ジーっと前を見据えている。
どうしたのだろう。
「……本当に理人だ」
「?」
ラストスパートした私に振り切られ、少し遅れてやってきた大神官様がリヒト君を見て立ち尽くしている。
ゲルルフは座り込んでいる……というか地面に崩れ落ちているという感じだ。
「あの髪は? 目は? ああ、でも理人だ……」
「大神官様?」
何かぶつぶつ言っているなと思い、顔を覗き込む。
「……ええええ?」
大神官様は瞬きもせずジーっとリヒト君をみつめたまま泣いていた。
ぽろぽろと涙を零す……という程度ではなく、滝のような涙の大号泣だ。
急に何?
情緒不安定なの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます