第7話 勝負

 火山の中は魔物が多く、倒しているとタイムロスになるため、相手をせず駆け抜けた。

 一時間は走ったと思う。

 ゴツゴツした岩場が多かったため、移動が大変で結構疲れたよ。

 アレクセイからもらった地図を見ながら進むリヒト君のあとをついて行くと、大きな空洞にでた。

 奥には溶岩が流れていて、すごい熱気だ。暑い!


「目的地についたの?」

「あ、はい。多分ここに呪炎花が咲いていると思うんですけど……」


 リヒト君がキョロキョロと辺りを見回す。


「あ、花がありました! マリアさん、あれですよね」

「そうね、あれよ! でも……」


 呪炎花はあったのだが、川のように流れる溶岩の向こう岸に生えていたのだ。

 かなり距離があるし、飛び越えるのは無理だろう。

 これだけの溶岩を氷らせることは不可能だし、溶岩の上を渡る術もない。


「向こう岸に出るルートを探さないと……」


 リヒト君と周囲を見渡していたその時——。

 ドオオオオオオンという轟音と共に岩壁が崩れた。


「何!?」


 崩れていく岩壁の間から、炎が噴きだしている。

 あの炎は……。


 現れたのは、別ルートで進んでいたアレクセイだった。

 アレクセイはこちらに気づくと、ニヤリと笑った。


「そんな……」


 呆然としていたリヒト君が、アレクセイに向かって叫んだ。


「この地図だとそこに道はないですよ! それに溶岩が流れていることも載っていませんでした! 僕に偽物の地図を渡したんですか!?」


 リヒト君の叫びを聞くと、アレクセイは笑みを深めた。


「俺が持っているのはお前が持っている地図と一緒だ。スタート前に同じものだと確認しただろう? 溶岩のことは載っていないが、地図を見れば予想できたはずだよ」


 リヒト君が握りしめている地図を覗き込む。

 私もリヒト君の邪魔はしないよう、気を付けながら覗いてみる。


 あー…たしかに。

 ここに溶岩が流れていることは描かれていないが、近くに溶岩が溜まっている場所があることは描いてある。

 火山のダンジョンだとよくあるんだよね。

 溶岩が地図に描かれていないところを流れていたり、吹きだしてきたりすることが。

 固まった溶岩で地形が変わっていたりすることもある。


 火山だけじゃなく、ダンジョンの地図が正確ではないというのはよくあることだ。

 それを説明すると、リヒト君は顔を顰めた。


「でも……。地図にない道を知っていたのはなぜですか?」

「フレイムリザードがいただろ? 奴らはここにずっと住み着いている魔物で知能も高く、よく待ち伏せて狩りをするんだ。だから侵入者の多くが目指す場所に先回りして、待ち構えるだろうと読んで……あとを追ったらここにたどり着いたというわけだ」

「…………」


 アレクセイの説明を聞いて、リヒト君は黙り込んでしまった。

 そんなリヒト君に向けて、アレクセイが大人の余裕を見せながら微笑んだ。


「君はまだ経験値を積んでいる途中だ。君と同じ歳だった頃の俺と勝負をしたなら、君の圧勝だったよ。大したものだ」

「……負けちゃった」

「リヒト君……」


 リヒト君はとてもくやしそうだ。ああっ、目に涙が溜まっている!

 口を出さずに見守っていたけれど、助言した方がよかったかも……!


「団長! 部下を放置して全力疾走したくせになにを偉そうにしているんですか!」


 暗い空気になっている私たちの耳に、突然怒声が入ってきた。

 アレクセイの方を見ると、セラとエメルがアレクセイに怒鳴っていた。

 あ、追いついていたんだね。


「そうですよ! 少年相手に本気をだし過ぎていて、私は大いに引きました! 騎士団長として以前に、一人の大人としてどうなのでしょう!」

「そうですよ! ちょっと顔がいいからっていい気になるな!」


 エメル、それはただの普段から抱いている僻みじゃない?


「いや、だが……勝負の厳しさを……本気をだすのは礼儀で……」

「自分が負けたくないだけでは? そんなんだから変な女性にばかり引っ掛かるんですよ!」

「ぐふっ……」


 あなたたち、上司相手にそんなことを言っても大丈夫なの?

 私はちょっとすっきりしたけれど!

 アレクセイのファンだけれど、リヒト君に悲しい思いをさせるのは許せないもの!


「そうよ! もっと言ってやれー!」

「あまり責めるとかわいそうですよ。……ふふ、騎士団長さんすごく叱られていますね」


 拳を振り上げてセラとエメルを応援すると、リヒト君が笑ってくれた。

 よかった! リヒト君には笑顔でいて貰わないと!


「くやしいですけど、本気をだしてくれたみたいなのでよかったです。勉強になりました!」

「リヒトく~~ん!」


 ああっ、なんていい子なの!

 やっぱりリヒト君が最高!

 圧倒的最推しです!


 散々責められたアレクセイがしょんぼりし始めたその時、洞窟の天井からパラパラと砕けた石が落ちてきた。


「……なんか嫌な予感」


 そう呟いた直後、洞窟内に「ドオオオオン!!」と大きな地響きがした。

 洞窟全体が揺れ、溶岩が広がり始める。これはまさか……!


「樹竜が暴れだしたみたいだな。呪炎花をとって、急いで戻るぞ!」


 呪炎花を持ってすぐに駆けだしたアレクセイをセラとエメルが追いかける。


「リヒト君、私たちも行こう!」

「はい!」

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