概要
《夏》には燃えるような日差しに勢いよく緑を繁らせて、赤や黄に錦をなす《秋》が終わると雪が舞い、《冬》が終わるまで大地は静かに眠りにつく。そうして待ちこがれた《春》になれば、若葉が芽生え、美しい花が咲き群れて、大地を埋めつくすのだ。
季節は循環する。それが、理である。
だが、時にはその循環が妨げられ、季節が滞ることがある。
季節のとまった地域を訪れて、季節の循環を修正するものがいた。
季環師 KIKANSHI
季環師は季節と人を結ぶ調停者である。
季節とは生きものである。それらは生物のかたちを取り、それぞれの地域に生息している。ある地方では冬は氷に覆われた狼で、他の地域では美しい女の姿をしているという。地域ごとに異なるかたちをした季節がおり、そうした季節はみずからの出番が巡っ
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!確かにそこには《季節》が居た。
季節という概念を視覚化できたのなら、それはどのようなものだろう。
作中には《季節》がまるで生物のような風体で登場します。
物質化していても、春はまさに春だし冬はまさに冬で。その季節特有のありさまを見せてくれます。
そして思い至ります。確かに私は季節を『見て』いたのに、それを忘れていただけなのだと。
その忘れていた季節を、丁寧に美しく芽吹かせた描写は圧巻です。私はこれほどまでに美しい風景を、まるで見えていなかったように生きてきたのかと思い知ります。
「でもこれはファンタジーのお話だから」と割り切れないのは、そこに描かれる季節の表情があまりに見慣れたものだったから。ファンタジーなのに、読めば脳内…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ほんもののことば
季節を調停し、季節の流れを”あるべき姿”に変える力をもつ、セツ。
彼は『季環師』として世界の各地を旅していた。
セツが『季節の声』に呼ばれ、ともに生きる少女クワイヤと訪れたのは『冬の砦』を越えた先にあった小さな町。そこでは季節が失われており、厳しい冬の息吹だけが町中を吹き抜けていくのだった――。
私は本作の筆者、夢見里龍さんの友人です。友人の書いた小説がどんなものかと思い遊びに来ました。彼女は日頃、ことばに対して高い意識をもっています。「うつくしいことばをさがしている」とも言っていました。そしてただ茫洋と探しているだけではなく、彼女は結果を出しています。あの名門電撃小説大賞の最終選考候補者…続きを読む - ★★★ Excellent!!!季節巡る、愛と幻想の物語
冬に閉ざされた街の中で紡がれる、春を巡るお話。
幻想という概念をそのまま紡いだかのような筆致は、感覚鈍る冬の冷たさや、命巡る温かい春の風をありありと感じさせます。
独創的な世界観は、作者様が表現したい幻想を余すことなく、かつ独特に表現しきっています。
際立った季節という概念を生かす殺すという、普通であれば思いつかない壮大な設定。
それを書き切る高い描写力。描かれるキャラクターたちと、愛という強い感情。
すべてを美しくまとめ上げる夢見里様の描写技術や構成力に感嘆するばかり。
ほんの少しのつもりが、つい夢中になって読み進めていました。
美しいものや幻想譚を愛する方であれば、是非とも一度読ん…続きを読む - ★★★ Excellent!!!死に絶えた季節を巡る、美しい物語
麗らかな春、力強い夏、色づく秋、凍てつく冬ーー。
私たちの世界にも当たり前のように存在する『季節』を巡る物語。
舞台は、『春』が死に絶え長きにわたり『冬』に閉ざされた街。そこへ、美しい少女を連れた不思議な旅人が訪れる。彼によって徐々に暴かれてゆく、『冬』に閉ざされた街の壮絶な過去。そして、『季節殺し』とはーー。
大変美しい物語でした。長きにわたる冬の中で、独自の暮らしを構築している人々のたくましさ、春を願う心優しき少女、街を守ろうとした人々の決意、季節を愛し愛される旅人、そして、生きた『季節』たち。その全てが美しく、儚げで、とても心を打たれました。
美しい文章や物語、幻想的な物語がお好き…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ファンタジーかくあるべし
細かい小道具や、料理、農作物、家の構造にその土地の歴史とそこから派生した習慣や思想、そしてそこに棲まう人々。
この物語の世界観には、まるで筆者の夢見里 龍さんがまるで実際にその世界を長い年月をかけて観測してきたかのような説得力があります。
情景描写の精細さもその強い説得力に一役買っています。
吹き込む空気の甲高い音。慈悲も悪意もなくただ降り積もる雪の持つ力。そして黄金色の陽光と、それを受けた者の表情。
瞼を閉じればありありとその情景が思い浮かぶような文章は、それだけでほぅと息を漏らしてしまいそうなほどに耽美です。
時計の針が何周もし、陽が何度も沈んでは昇り、人の世では改革が続き、足は幾度…続きを読む - ★★★ Excellent!!!全ては愛ゆえに、《春》は眠り《冬》は守る――
常世の冬に守られた町。
その町の住人たちは《春》を知らなかった。
ただ、そんな中でハルビアだけはまだ見ぬ春に恋い焦がれていた。
そこへやって来たのは季環師の青年と妖精と見紛う美しき少女。
青年は言います。雪深い町を前に、今の季節は《春》だと。
自分は留まり続ける季節を巡らせるためにやって来たのだと。
しかし、《春》を見たいと望む少女の願いを知りながら、村長たちは余計なことはするなと秘密裏に動き出します。
何故町は冬に閉ざされたのか。《春》を殺したのは誰なのか。
物語はその秘密を探る物語。
その世界を綴る文章は、雪国特有の冷たさを伝えて来ます。痛いほどの冷たさ。その中で身に染みる建物の中の…続きを読む - ★★★ Excellent!!!春が待ち遠しいこの季節に
「季節を殺す」とはどういうことだろう……?
執筆をなさっているときからずっと気になっておりました。
そして読み始めると期待以上にこの世界に引き込まれました。
季節の循環を生業とする者が、春を封じ冬に閉ざされ続ける町を訪れる……。
不思議な設定であるのに、そこに息づく人々が確かにいると感じられる描写は、すんなりと読む人を物語りの中へ誘うでしょう。
《冬》の町に住む人々は助け合い、つましく暮らしています。想像できる風景は西洋風であるのに、どこか日本の雪国のような趣も感じました。
この物語における季節のありようには、厳かで慈愛に満ち、胸を打たれます。最初は神のような存在かと想像していた…続きを読む - ★★★ Excellent!!!冬に捕らわれた人々の心に、春が芽吹く時が来た。
これは季節の調停者である季環師の物語。この物語の中で、季節は生き物であり、殺されたり、生まれたりする者なのだ。それは単なる季節の擬人化ではなく、本当に人間のような存在として、物語に登場する。ハイファンタジーというと、ヨーロッパ風だったり、中華風だったり、ウェスタン風だったりするが、この物語はずっと《冬》の町だ。これだけでも、今までになかったファンタジー作品であることは、言うまでもない。
季環師のセツが訪れたのは、長い間《冬》が留まる雪の町。ここには《春》が訪れるはずなのに、もう何十年も《冬》がいる。雪国の暮らしぶりが見事に描写され、冬の世界観に圧倒される。温泉を利用した流雪溝や、樹氷の表…続きを読む