全ては愛ゆえに、《春》は眠り《冬》は守る――

常世の冬に守られた町。
その町の住人たちは《春》を知らなかった。
ただ、そんな中でハルビアだけはまだ見ぬ春に恋い焦がれていた。
そこへやって来たのは季環師の青年と妖精と見紛う美しき少女。
青年は言います。雪深い町を前に、今の季節は《春》だと。
自分は留まり続ける季節を巡らせるためにやって来たのだと。
しかし、《春》を見たいと望む少女の願いを知りながら、村長たちは余計なことはするなと秘密裏に動き出します。

何故町は冬に閉ざされたのか。《春》を殺したのは誰なのか。
物語はその秘密を探る物語。

その世界を綴る文章は、雪国特有の冷たさを伝えて来ます。痛いほどの冷たさ。その中で身に染みる建物の中の暖かさ。雪原の様子。冬の森。吐く息は白く世界は煌めく。
物語がクライマックスを迎える中での《春》が一時蘇ったときの描写など、冷たく痛い空気が溶かされ、温かく花の匂いが香る風が頬を撫でるかのような錯覚を覚えるほどに美しいです。
本当に、絵心があったなら、是非にも絵にしたい描写の数々が読み進めた読者の目に飛び込んで来るはず!

誰が悪いわけではなく。誰もが誰かを守るために立ち上がり決行した末に訪れた未来。変わることを拒絶した世界で、たった一人の《春》を待ち望んだ少女の願いが叶う様を、是非一緒に見守って下さい。

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