春が待ち遠しいこの季節に

「季節を殺す」とはどういうことだろう……?
執筆をなさっているときからずっと気になっておりました。
そして読み始めると期待以上にこの世界に引き込まれました。

 季節の循環を生業とする者が、春を封じ冬に閉ざされ続ける町を訪れる……。

 不思議な設定であるのに、そこに息づく人々が確かにいると感じられる描写は、すんなりと読む人を物語りの中へ誘うでしょう。
《冬》の町に住む人々は助け合い、つましく暮らしています。想像できる風景は西洋風であるのに、どこか日本の雪国のような趣も感じました。

 この物語における季節のありようには、厳かで慈愛に満ち、胸を打たれます。最初は神のような存在かと想像していたのですが、そう喩えるにはあまりに清らかで純粋なものでした。生き物の形をしていても、決してわたしたちの知る生き物なのではない、美しすぎて恐ろしいと感じるほどでした。
 対して「季節殺し」の真実が詳らかになるにつれ、浮き彫りになる人の業、愛故の罪は生々しく痛ましい。
 そして季環師であるセツは、人でありながら人であることを手放したような存在に見え、妖精のようなクワイヤはときにセツよりも人のように豊かに感情を表すところが興味深かったです。

 大人のための幻想譚でもあり、自然の厳しさと美しさや人としてのあり方を問う童話のようでもあります。

 春が待ち遠しいこの季節に読むと、一層この物語に愛着を覚えます。
 いつか、ここには描かれていない季節の物語も読んでみたいです。

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