冬に捕らわれた人々の心に、春が芽吹く時が来た。

 これは季節の調停者である季環師の物語。この物語の中で、季節は生き物であり、殺されたり、生まれたりする者なのだ。それは単なる季節の擬人化ではなく、本当に人間のような存在として、物語に登場する。ハイファンタジーというと、ヨーロッパ風だったり、中華風だったり、ウェスタン風だったりするが、この物語はずっと《冬》の町だ。これだけでも、今までになかったファンタジー作品であることは、言うまでもない。
 季環師のセツが訪れたのは、長い間《冬》が留まる雪の町。ここには《春》が訪れるはずなのに、もう何十年も《冬》がいる。雪国の暮らしぶりが見事に描写され、冬の世界観に圧倒される。温泉を利用した流雪溝や、樹氷の表現などがリアルで、そこに住む人々の生活が感じられる。雪国特有の閉鎖的な人々の様子や、頑なな人々の心までもが、上手く表現されていて、驚いた。そこに巧く「冬患い」や「春の祟り」など、この物語の鍵となる表現が織り込まれている。
 そして季環師のセツには相棒と呼ぶべき《光季の姫》がいる。空を駆け、セツを助け、まるで妖精のような美しい少女だ。しかしこの《姫》は他の《季節》たちが敵わないほど、強いのだ。
 さらに、キーパーソンとなるのは、冬の町で唯一よそ者のセツに優しく、春を待ち焦がれる娘・ハルビアだ。このハルビアの家系が春に祟られているとされている。そして、ハルビアを取り巻く人々が、セツと接点を持ちながら、物語は進んでいく。マレビト的なセツとパラドクス的存在のハルビア。
 
 果たしてセツは季環師として、人々を《冬》から解放し、《春》を呼ぶことが出来るのか?

 異世界ファンタジーやハイファンタジーが苦手な方、飽きてしまった方にもお勧めの一作です。

 是非、ご一読ください‼

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