人形に生命を吹きこむ人形師。
彼は寿命と引き換えに、無機物に命を宿します。
人形は【物】ではなく、【者】として生きます。
人形に生命を吹き込む術を誰にも教えず、純粋なまま、此の世を去ってしまう人形師。
穢れなきゆえに伴う痛みと悲しみ、あるいは幸せの在り方を、此の世に残された者の生きざまを通して考えさせられます。
善意しか知らなかった人形師の魂を宿した人形たちは「純粋」で、悪意を持ちません。
疑いを知らない「純粋」が悪意に染まるとき、人形は無慈悲な殺戮の道具になります。
残酷な舞台で暴走するしかなかった人形の魂。
その悲哀と遣る瀬無さは、人間の生きる舞台に通じる感情であり、皮膚感覚に訴えかけます。
この物語には、包帯を巻いた人物が登場します。私たちの皮膚が包帯という防護膜の役割を果たしているのだとしましたら、その内側へ這入り込んで心を刺激するかのような文章を読みました。痛みを伴いつつ真に美しい言葉の結晶を此処に見たように感じられたのです。
善意と悪意。幸福と絶望。光と影。
相反する概念が人形の魂と共に揺れ動く幻想劇の舞台へ、ようこそ、おいでください。
人に買われたその人形は、人の言葉を解し、話し、痛みを感じる生きた人形。
その人形を買うときに、一枚の契約書に署名する。
後に人形師は探し求める。自らが売った人形たちの行く末を見るために。
そして見る。数多の契約違反に晒されながらも、買い主に逆らうことなく従い続けるその姿を。
初めは人形を救いたかっただけだった。だが、その感情が行動が悲劇を生んだ。
罪を背負った人形師は、同じ過ちを繰り返すまいと壊れかけた人形の元へ――
人形に罪は無い。悪しき思いを抱きしは人間。
自分もその一人だと戒めながら、人形師は美しき人形と共に旅をする。
善も悪もなく、ただ純粋に買い主の命に従う人形たちの生き様を胸に刻むため。
これは、そんな物語。
詩のように綺麗な言葉で綴られた残酷で美しい物語。是非ご一読を。