言の葉のひとひらずつが紡ぐ玉響が美しい。繊細艶美なダークファンタジー。

人形に生命を吹きこむ人形師。
彼は寿命と引き換えに、無機物に命を宿します。
人形は【物】ではなく、【者】として生きます。

人形に生命を吹き込む術を誰にも教えず、純粋なまま、此の世を去ってしまう人形師。
穢れなきゆえに伴う痛みと悲しみ、あるいは幸せの在り方を、此の世に残された者の生きざまを通して考えさせられます。

善意しか知らなかった人形師の魂を宿した人形たちは「純粋」で、悪意を持ちません。
疑いを知らない「純粋」が悪意に染まるとき、人形は無慈悲な殺戮の道具になります。
残酷な舞台で暴走するしかなかった人形の魂。
その悲哀と遣る瀬無さは、人間の生きる舞台に通じる感情であり、皮膚感覚に訴えかけます。
この物語には、包帯を巻いた人物が登場します。私たちの皮膚が包帯という防護膜の役割を果たしているのだとしましたら、その内側へ這入り込んで心を刺激するかのような文章を読みました。痛みを伴いつつ真に美しい言葉の結晶を此処に見たように感じられたのです。

善意と悪意。幸福と絶望。光と影。
相反する概念が人形の魂と共に揺れ動く幻想劇の舞台へ、ようこそ、おいでください。

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