季節殺し

作者 夢見里 龍

季節はかくも美しい。慈愛につつまれた琳琅珠玉のハイファンタジー

  • ★★★ Excellent!!!

冬に閉ざされた町には、見たことのない春に憧れる車椅子の少女がいました。
ふたりの旅人がその町を訪れたところから物語は始まります。
温和な雰囲気の青年と、触れると壊れてしまいそうなほどの繊細な美を持つ気高い少女。
この青年は「季環師」で、この氷の地の春を巡らせるためにやってきたのでした。
そして少女の正体は――

感動でいっぱいになりながら読了して、レビューをなかなか書けず数か月……考え続けました。
このお話が大好きです。美しくて、輝いていて、魅力的に息づき生きている物語です。
だからこそ、言葉にするとこの感動が陳腐なものになってしまいそうで、どのように言い表せば良いのだろうと悩みました。己の心を震わせてくれる素晴らしいお話ほど、言葉が追い付かなくて、「すごかった!」「みんな、ぜひ読んで!」としか言えなくなるのです。

【とても美しい光景を見て、とても魅力的な人たちに出会って彼らのことがすっかり好きになってきた】

大好きな物語に出会った時の大きな感動を正確に言い表すのなら、私の場合、この一文に尽きる気がします。

美しく繊細な言葉づかいと描写に定評のある作者様です。今作も、それが如何なく発揮されています。
風景や植物、そして少女の描写の美しいこと……。これはとても私の言葉では説明できない部分なので、ぜひ多くの方に実際に手に取って読んでたしかめて欲しいです。すさまじいほどの描写力に圧倒されます。

まるで実在の地を取材して描いたかのような生活描写も、物語世界に心を引き込んでくれます。
日々の生活の様子、人々やその地の息づかい。異国を舞台としたファンタジーを読むときに、とりわけ心惹かれる部分です。
さらに登場人物の心の動きが極めて自然な点も、この小説を生き生きとしたものにしているのではないかと思います。
ファンタジーがお好きな方、とりわけ「昔ながらのハイファンタジー」「世界観のしっかりした国内外ハイファンタジー」を愛好する方に強くおススメしたいです。

非常に甘美な描写が印象的ですが、物語は時に凄惨です。登場人物たちの生きざまは、甘やかなものではありません。
それでもこのお話からは、胸の悪くなるような残酷さを感じないのが不思議です。彼らはあんなにつらい運命を背負っているのに。むしろやわらかなあたたかさで心地よく包んでくれます。
これは、一つ目に主要人物たちが「慈みと赦し」の心を持っているため。
二つ目に、作者様の「何を描いて何を描かないかの選択」が非常に巧みであるためだと考えます。
その取捨選択のバランスが見事なため、「凄惨な事件が描かれていながら、あたたかで心地よい読後感に包まれる」という素敵な読書体験を頂けたのではないかと。本当に読んでよかったと思えるお話になっているのではないかと。そう感じました。

いろいろと書きましたが、本当はひたすら、【セツとクワイヤさん大好き! このコンビ最高! 綺麗であたたかくて感動するお話なのでみんな読んで!】
と情熱のままに叫ぶのがしっくりくる感じです。
主役であるセツとクワイヤさんは、ときには想いあう恋人のようにも見え、またときには保護者と子供の関係にも似ていて、さらには幼い主と従者のようにさえ感じられもして、でも言葉で括ることのできるどの枠にもあてはまらない……すごく魅力的な関係のふたりです。

とにかく彼らが、この物語が、大好きなのです。

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