第13話:検証モードの再解析

 チドリと同じ顔立ちをしたナビゲーター“ミラー”が持つ、2つのデータクリスタル。

「行きます。」


 発注システムに接続したコンピュータを暴走させたと思われるプログラム本体を確保したが、厳重に暗号化されていて現状では解析出来ない為、暗号解除して解析をする事にした。

 しかし、暗号解除した場合、カガミを簀巻にしていた大蜘蛛インセクトが現れる可能性が高く注意が必要である為、再びクラックアプリを検証するモード『モルモット』を起動して動作環境に保険をかける。



  ーー  パキン ーー


 ミラーが持つ、ウォーターが作ったデータクリスタルを起動すると、クリスタルが砕け中の子蜘蛛が這い出し、今度は聖域サンクチュアリーで確保したクリスタルに張り付く。


  ーー  ドクン ーー


 子蜘蛛の接触により聖域サンクチュアリーで確保したクリスタルデータの暗号化解除が始まり、徐々に大きくなるクリスタル。

 子蜘蛛はその大きくなるクリスタルに齧りつき、データを啜り上げ、脈動し、膨張するように急速にサイズを増していき、ミラーの両手には収まらなくなる。


  ーー キシャーーー!


 ミラーの顔を覆わんばかりの大きさに成長した蜘蛛インセクトは、ミラーの首筋に牙を立てんと飛びかかる。


 ガシっっっ!


 その飛びかかった蜘蛛インセクトを横から伸ばした手袋をした手が鷲掴みにし、その手から展開される解析用のプログラムパターン。

 今度は蜘蛛インセクトの情報を隈なく解析していき、進捗状況を表示するウィンドウのプログレスバーは軽快に伸ばしていく。


「解析完了しました。」

 チドリから今度は解析が出来たと報告を受ける。


 チドリが鷲掴みをする蜘蛛インセクトは、8つの節足を激しく動かすが、新たに転載された別のプログラムパターンが照射されると、蜘蛛インセクトは消滅した。

「処理の停止を確認しました。」


「お疲れ様。」

「しっかし、何度見ても慣れないわね。」

 チドリを労う言葉にかぶせる様に、本音を漏らすイズミちゃん。


「で、どうだった。」

「やはり、マイニングのプログラムでした。」

 自分の質問に対して、解析した情報をウィンドウに表示するチドリ。

 まだ生データに近い状態だが、明日の朝にでもチーフに渡せばブラッシュアップしてくれるだろう。


 Webデータの中にマイニングをする処理を密かに入れて、閲覧した利用者も知らない内にコンピュータのリソースを使ってマイニングをさせる方法が存在する。

 その手法については未だ賛否があるが、特徴としてはWeb画面を表示する一時的なプログラムである為、インストールするアプリと違って実行されたことについて利用者が気づきづらい点である。


 カガミに取り付いた大蜘蛛インセクト、対応した時は可能性でしかなかったが、寄生したコンピュータにどうやら暴走するまでリソースを使いマイニングを行っていた様だ。

 ただ、発覚がしづらい様に、キーとなるプログラムはウォーターが作って送信するが、別の場所、今回は聖域サンクチュアリーであるが、そこに本体のプログラムのデータを置き、データが無ければ暴走しない様な仕組みだった様だ。


 多分今回確保した本体のデータを解析すれば、マイニングのアカウント情報があるはずなので、クラッカー本人の情報に辿り着くことができるかもしれない。

 Webの画面情報にマイニングの処理を組み込む事はグレーだが、ウォーターを不正に改ざんした時点でクラッキングである。


 とりあえずファイヤには問題は無い様だが、クライアントにはウォーターに仕掛けられたプログラム子蜘蛛を除去する必要がある事を報告する必要がある。

 それと同時に対策としては、聖域サンクチュアリーにデータがセットされない様にするか、アクセス出来ない様にする事で、クラッキングアプリが起動しない様にする『キルスイッチ』代わりになるだろう。

 ただ、圏外なのでWCSCに訴えても如何ともし難い問題ではある。


「色々問題は残るが、あらかた完了したな。最後に聖域サンクチュアリーのデータを消しておこう。チドリ、頼む。」

「…………」

「どうした?」

「……マスター、データがない。」

「え?」

「私は消去してないのに、聖域サンクチュアリーにデータが無いの。」

「アスカ、ミラーが動かした以降、ウォーターが起動した記録ログはあるか?」

「無いです。」


 こちらからの時間外の不自然なアクセスで、クラッカーに気づかれたか?


 …………何か気になる。

 砂時計を見ると、まだ時間は5分残している。


「チドリ、ちょっとパケットビューイングを起動してくれ。があるか調べてくれ。」

「了解!」

「どうしたのよ?」


 調査が終わったはずなのに引き続き出す指示に訝しむイズミちゃん。


 本来パケットビューイングは、パケットを追う方が使い勝手がよく、今回のような使い方はあまり自分は行わない。

 チドリの戦略級ストラテジークラスのスペックを当てにした力任せの解析であるが、範囲が広すぎる為、解析の効率が良くない為である。


「マスター……」

 可視化するアスカの声が珍しくかすれる。

「結果を可視化致します。」

「あちゃ〜」

「やっぱり……。」


 そこに表示されたインターネットマップには、聖域サンクチュアリーにアクセスをしたと思われるポイントが各地に表示されており、全世界からアクセスが有ることを示している。


 ここで言える可能性は、このウォーターに仕掛けられたマイニングの組み込みが今回のクライアントだけの問題ではなく、全世界に広がっていると言う事を示している。

 しかも、問題の根源は、聖域サンクチュアリーにアクセスしたコンピュータではなく、そのコンピュータが更にアクセスしたどこかのWebサイトであり、辿っていく事が現実的に不可能である点である。


「しかし、この規模……。どこまで手を伸ばしているんだ。」


 全世界にポイントを示すインターネットマップ。

 狂気ともつかないこの規模に、どこか薄ら寒くなってくる。

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