第2話:基幹システムからのチェック
「とりあえず、基幹システムからチェックして行こうか。」
二人のAIナビゲーターに指示をだす。
その指示でアスカが、クライアントから渡された資料を元に抽出、リスト化したウィンドウを、自分の見える位置に移動させる。
リストを元にチドリに指示すればVRフィールド上に可視化されたネットワークである光の帯を渡りながら調査するのだが、このネットワークを可視化する処理だけでなく、ネットワークに繋がっているコンピュータのサポートAIを女性の容姿に表示するのも、アスカに搭載された斑鳩による機能だ。
そう、斑鳩によるキャラクター化されたサポートAIをAIナビゲーターと呼ぶが、何故かAIナビゲーターは全て女性なのである。
そしてこの斑鳩、一つの企業のコンピュータ全てをキャラクター化して可視化するだけでもかなりのリソースを使うのに、加えてコンピュータのグレード、スペック、メーカーなどのハードウェア情報や、OSや稼働アプリなどのソフトウェア情報の稼働状況を元に、顔や容姿、衣装や表情まで描き分ける上に、VRフィールド上で人間そっくりに動かす機能をもっている。この無駄とも言える仕様に、
当然、自分の二人のナビゲーターでも斑鳩によって処理されたサポートAIであり、一部カスタマイズしているものの、アスカ・チドリのそれぞれのコンピュータのスペックに反映して容姿が描画されている。
ちなみに
一方、フォーマルな印象を受ける衣装で表示される事の多い
今の構成でこそ、アスカよりハイスペックな
その事が理由か姉妹の様に同じ顔つきであるが、髪型が腰までの長い黒髪を持つアスカに対して、チドリは長めのボブと違っている。
そもそも、2つのコンピューターの仕事での使い方が違う事を反映してか、活発な表情のチドリに対してお淑やかな表情のアスカと、キャラ分けをする斑鳩の感情表示エンジンに改めてリソースの無駄使いを感じる。
自分の仕事は、斑鳩がキャラクター化したナビゲーターの様子や表情を見て回り、様子のおかしいナビゲーターを見つけて、その痕跡からネットワークの侵入者を調査する手法を取っている。
この手法はネットへの出入り口を監視して異常なデータを検知する一般的な方法と違い、場合によっては全てのシステムを見て回る必要があるなど、どうしても時間がかかってしまう欠点がある。
そのため今回の様に調査期間として一週間程度の時間をもらうことが多いが、クライアント側も一般の出入り口監視で行き詰まって依頼している事が多いので、時間がかかる事は了承済みだ。
どちらにせよ一通りコンピュータを見て回る事から、元々のシステム管理者としてのシステム診断をサービスとしてついでにやっていたりしている。
数値やグラフ化された稼働状況のモニタや、ましてや成人女性の顔色に至っては全然読み取ることが出来ないのだが、斑鳩によってキャラクター化されたナビゲーターの様子だと異常がわかってしまうのが不思議である。
さて、改めてクライアントのネットワークを見てみると、ネットワークの末端に表示される台座にナビゲーターが二人や三人立っていたり、スタンダードなデザインに意匠された装飾が追加された衣装を着ているチドリの様な仕様のナビゲーターがいる。これは、障害対策や負荷分散、システム強化などを目的とした二重化やクラスタを組んだ事を意味し、その様なシステムが相当数存在する事がわかる。
その様な対策を販売管理や契約管理など業務の中心に当たるシステムに対して取っている事やネットワークの状態から、それなりにシステム部門がしっかりした会社だと見て取れるが、外部のウィザードに委託して調査出来ない程、技術力が低い訳でもなく違和感がある。
とりあえず、依頼されたウィザードとしての仕事をこなすだけだと思考を巡らせている内に、目のハイライトが消えているナビゲーターを見つけた。
担当は清算システム。
台座に2人のナビゲーターが居るので、負荷分散か冗長化、もしくはホットスタンバイかもしれない。その片方がちょっと気になる。
イベントコンパニオンをOLの様な制服を足して2で割った様な華やかなデザインの服を着て、お揃いのベレー帽の様なつばの無い帽子かぶっている。
色は青。広い襟にはメーカーロゴが入っているので、国産メーカーの筐体の様だ。
ちなみに
過去には手組みだと思われるが、ビキニアーマーを着たナビゲーターやバニーガールなどを見たことがある。
そして、
そういえば、バニーには頭にウサ耳が付いていたと言うことは
……
「多分サービス診断の方の案件だと思うけど、チェックしょう。二人にはリスト順にアリス、ベティとネーミングね。」
実際は「一号機、二号機」で良いのだろうけど、斑鳩が女性で表示するので名前も女性名をつける様にしている。
「承りました。アリスとベティにアンカーします。」
三人の中心、先程クライアントのロゴが表示されていた位置に、2体のナビゲーターが表示される。
「どちらから調査致します?」
アスカの問いに、気になるナビゲーター方から調査することにする。
「アリスから行こう。チドリ、メモリチェック。立ち上がっているサービスの種類とログも確認してくれ。」
「了解です。失礼しま〜す。」
チドリがVRフィールド上を軽快な足取りで歩きアリスと一時的に名付けたナビゲーターに声をかけて背後に立つと、突如人差し指でアリスの腰から首筋までの背筋に指を這わす。
「ひゃん!」
突然の事にアリスは飛び上がる。ハイライトが無かった瞳に光が戻り、背後を振り返り確認としたアリスの胸を服の上からチドリはタッチする。
「キャンッ!?なっ、なに?」
突然胸を触られてパニクりながらもさすがはマルチタスクの機能のおかげなのか、ウィンドウを操作を続けるナビゲーター。
目の前で展開するレズの様な行為。
斑鳩が一般受けしないであろう最たる理由がこれ。メモリチェックにしろ、起動中のサービスの確認にしろ、ログの収集や確認にしろ、その他システム管理に関する極普通の作業が、ナビゲーター同士の接触となり、この様なレズ紛いの行動が発生となる。
困るのがクライアントに対しての報告書で、ログの提出について全力で拒否している。
その為、アスカやチドリの補助があるものの、今時ほぼ毎回夜を徹しての手書きによる作成に頭を痛めている。
アリスにしてみたら、仕事をしていたらセクハラにあった様なものだろう。
業務を停止する訳にもいかないので、目の端に涙を溜めてなすがままになっている。
ほぼ無抵抗のアリスの胸を揉んていたチドリの片手が胸から離れ、他に反応がある所がないかと触診していく。
ラグが多少発生した様だが、業務に影響が出る程ではないので無視をする事にした。
一通り接触を終えてアリスを開放したチドリは、怯えた表情を見せるベティの方に顔を向ける。
「次はこの
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