第4話:暴走の原因

「で、条件は粗方解ったと。」


 あの夜勤の数日後。

 チーフに頼まれたレポートを書きながら、コールがあったまーくんと音声通話で会話している。


 ちなみに、VRフィールドでの物書きは、サポートAIに口述筆記してもらう方法もあるが、VRフィールドならではの入力デバイスも各種多様に開発されている。

 ただ面白いのは、入力しづらい様に配列されたというQWERTY配列の呪縛は未だ健在で、基本配列にしてるデバイスは多い。

 自分は、外部ディスプレイでの入力は昔ながらのキーボードを使っているが、VRフィールドでは球状の文字入力デバイスを愛用している。

 左右から掴む様に球状のデバイスをホールドし、手首のひねりと十指のタップで文字入力できる為、アームレストに腕を預けて入力でき、長時間使っても疲れない利点がある。


 とは言え、軽量化されたとは言え、ヘッドマウントディスプレイを付けてのVRフィールドでの長時間の物書きは、肩が凝るのでなるべく避ける様にしている。

 だが、VRフィールドでの物書きは、外部ディスプレイに比べて同時閲覧出来る資料の数が段違いに違う事と、アスカやチドリのサポートが受けられるので、さらに軽くて手頃な価格のディスプレイが出ないかと期待している。


 しかし、システム診断やハウンド案件になると長時間使っていても、ヘッドマウントディスプレイの重さが気にならないから不思議である。


 チーフから依頼されているレポートは、どちらかと言うと記入項目がチェックリストとコメントのみで構成されている為、音声通話で話しながらでも進められる。


「おぅ、あそこの会社の担当はこっちコンピュータの知識は疎いのに、行動力は有ってな。他の会社にも聞いてみたらしい。すると出るわ出るわ。あちこちでコンピュータが暴走して壊れる事象が発生していたらしい。」

「ほぅ。で、共通点が見つかったと言う訳か。」

「そう、どれも大手問屋のシステムに接続したタイミングだったらしい。」

 なるほど、大手の取引先だと『お宅のシステムに繋いで壊れました』とは、言いづらいな。


「その問題の問屋のシステムは発注システムらしい。問屋が発注するオーダーを各社メーカーがWebで確認する仕組みで、その画面に繋いだ時に暴走する事態が発生したらしい。ただ、毎回暴走する訳でもないから、この前のクライアントは暴走した原因はコンピュータのスペック不足と思ったらしい。」

「で、取った対処が?」

「そう、その会社で一番スペックの高いコンピュータを使う事にした様だ。まぁ、当たり前だがスペックの高いコンピュータには、重要なシステムが動いているよなぁ。壊れると会社が傾く可能性もあった訳だ。」

 なかなか行動力が伴う過激な所らしい。


「まぁ、壊れなくてよかったな。」

「おぅ、随分感謝していたよ。直接お礼も言いたいって大変だったが、断っておいた。」

「当たり前だ。」

「おかけで契約が取れまして、定常監視のクライアントの一社となりましたとさ。次回の夜勤はリストに入っているから、詳細は現場から引き継いでおいてくれ。」

 まぁ、あそこの担当とは技術的な話はなかなか難易度が高い様だから、トラブらない事を祈るのみだ。


「で、話は戻るが、前回対象のコンピュータカガミをチーフに見てもらって、暴走の原因調査をしてもらった。」

「『マイニング』か?」

「なんだ?チーフから話を聞いたのか?」

「いや、こっちから情報を提供した。」

 そう、前回の作戦でアドレスを重複させた際に、チドリが作った仮想コンピュータが受け取ったパケットが、マイニングの可能性があるアドレスを含まれていた訳だ。

 とりあえず報告書のコピーと一緒にチーフへ手がかりになりそうなデータを送っておいたが、やはりチーフへ解析調査の依頼が行ったらしい。


 さて、『マイニング』について話すに当たって、まず宇宙開発について知っておく必要がある。


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