第5話:データ検索

 自分の指示に伴って、ベガがVRフィールドの中央に転移される。

 ベガの転移にあたり、寝かせていたカプセル状の長椅子から背もたれがないスツール状のチェック作業に支障が無いデザインの椅子に変更されている。


 ベガを改めて良く見ると、着ている衣装スーツは脇まで大きく開けている白地のノースリーブに、身体のラインにフィットしたベストの様なワンピース。長めのタイトなスカートに挑発的なスリットが入っており、ダークパープルに赤いラインが入ったカラーは、外資系のメーカーのコンピューターの様だ。

 そして、長めのポニーテールをまとめるのは、業務級ビジネスクラスの特徴でもある四角い小さい帽子の様な髪飾りがのっている、挑発的な顔立ちのナビゲーターだ。


 ベガの起動は終わっている様だが、青ざめた顔色に生気のない瞳。心なしか息も苦しげな気がする。

 これは完全にダメだなぁ。サイバーネットから切り離していて良かった。

 さて、こうなってくると、勝利条件が変わってくる。


 ベガがすでに悪質なコードを仕込まれている所をみると、先に停止したアルタイルにもすでに仕込まれていると判断して良いだろう。そのようなコンピューターで業務をする訳にもいかないので、アルタイルもベガもリストアするまではサイバーネットにつなぐ事は出来ないだろう。となると、唯一残っているデネブをクラッカーから守りきる事が勝利条件となる。


 そうなると、自分たちもいつまでもフェノンで肩代わりする事にもいかないので、やはり一旦こちらから仕掛けて、クラッカーには諦めてもらうのが一番だろう。

 クラッカーが仕掛けてくるポートスキャンの情報を確認すると毎回発信元を変えているので、それなりに手慣れた相手だと推測出来る。そのような相手だと引き際もわきまえていて、不利と感じた瞬間に痕跡を残さず撤退するはずである。

 ただし、こちらもハウンドとしてのプライドがあるので、スキを見せればそのまま喉元に食いつくつもりだ。


 程なくモノリスの主もクライアントとの会話が終了した様で、フィールドに復帰してきた。

「今から3分後に作業を開始だ。」

「了解した。3分程度ならあっと言う間だな。準備してしまおう。アスカ、マニピュレーションモード。スーパーバイザーで行くぞ。チドリ、ホームポジションにセット。」

「了解!マスター。」

「ホームポジション確認。モーション同期します。スーパーバイザー、準備完了しました。」

 チドリと自分は、おなじみの手術前の外科医の様なポーズをとり、同期が完了する。


「エンゲージ完了。ではでは、失礼しま〜す。」

 チドリは作業時の定位置である対象ナビゲーターの背後に立ち、ベガの身体にタッチする。

「くぁんっっ!」

 DoS攻撃のダメージが抜けきっていないのか、アクセスだけで声をあげる。


 今回は経験上ベガの様子から、悪質なコードが埋め込まれていると推察されるので、優先的にこれを探す方針となる。

 ガイドモニターを確認しつつ、ベガにアクセス。先ずは左手の人差し指と中指をベガの眉間に接触して今のログイン情報とシステムの負荷を確認する。


 すでに作業用に発行されている管理者権限を利用し、実行アプリのアカウントを確認していくが、特に不自然なアカウントは存在しない。自分もそのままのアカウントで作業しても問題ないだろう。


 今度はストレージに保存されているデータを捜索すべく、右手を胸の膨らみにタッチする。

 ノースリーブの脇から下着ブラが見えやしないかと思うが、さすがはVRフィールド。現実世界なら支える為に存在するストラップやサイドのベルトが存在しないカップのみの下着ブラが胸を覆っている。

 ノースリーブからラインがはっきり見える形の良い胸から手のひらには、ストレージの容量に対して適正なデータ保存量である証である感触が返ってくる。胸全体を満遍なくアクセスし、ストレージに保存しているデータを一つ一つチェックしていく。



 ガイドモニターを見ながら一通り保存されているデータを巡回し終えた頃には、気をつけたにも関わらず負荷をかけてしまったのか、脱力する様にベガは後ろに立つチドリに背中を預けている。

 上気して上がる顎から胸元のラインが艶めかしい。

 だが、ストレージを弄る指に気になるデータの反応はなく、やはり目的の物はデータベースアプリの中に保存されている様だ。


「ストレージに直接保存されているデータは、該当が無いようだねぇ。」

 集中してモノリスの存在に忘れていたが、奴もトレースはしていた様だ。


「いよいよ、“ゴスペルDBデータベース”だねぇ。相変わらず過剰なアカウントが用意されているよ。そろそろ深夜の時間帯だが眠気で集中力を切らさない様にしてくれ。」

 数少ない斑鳩のエッチな仕様の良い所は、多少深夜に作業時間がかかったとしても、アドレナリンが出まくって眠くなりにくい点である。


「ひぃんっっ!」

 今度はストレージの中に格納されているデータベースの領域に管理アプリからアプローチをする為に、胸を強めにタッチする。

ベガが悲鳴を上げるが、まだシステム停止までには大分余裕はありそうだ。


 右手の親指と人差し指でデータベースのアクセス権を制御するポイントに接触しながら、残りの三本の指でデータを参照する。

コンピュータのアクセス権とデータベースのアクセス権を順次切り替えながら、右手の三本の指でデータを探っていくが、やや持て余し気味のボリュームに、探る指の動きが次第に雑になってくる事を自覚する。



 揉み方を人差し指と中指の間にポイントを挟みデータベースのアカウントを切り替え、手のひら全体でデータを参照する様に変えてみると、作業の効率が上がり中々良い。ベガの反応も苦しげな表情が和らぎ顔が赤みがかっていく様で、くいしばる口から漏れる声も同様だ。


 だが、順調にチェックが終わっていく反面、何かが引っかかる。

 効率を優先するあまり、目的と手段をはき違えていないか?


「マスター、何かあったの?」

 右手の動きが鈍くなったのを察したのか、チドリが声をかけてくる。

「チドリ、もう一度やり直す。アスカ、チェックリストを再作成してくれ。」

「アカウントの半分が終わっていたのに、どうしたのかい?」

「作業を急ぎすぎた。もう一度慎重にやり直す。」

「そういうことかい、なら仕方ないねぇ。」


 みんな淡々と自分の判断を受け入れて、付き合ってくれる様だ。

 が、一人だけ驚愕した表情の人が存在した。

 ごめんね、ベガ。なるべく早く終わらせるよ。

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