第5話:オフの過ごし方/その五

「とりあえず、今回の予定はここまでだな。一通りデータは取れてるか。」

「ログは保存完了しております。」

「承知した。検証環境は削除していいよ。後でログは転送してくれまいか。」

「承りました。」

「じゃあ、検証環境は削除するね。」


 一通り予定されていたクラッキングアプリのチェックが終わりました。

 この様に検証環境を作り、チドリが身体をはってデータを収集していきます。

 大抵はこの後は、お茶や食事をしながら、先程行った検証の感想やクラッキングアプリの名前付けをしていきます。


「データの転送先は新しいコンピュータに転送をよろしく。いつものセグメントに一台追加してある。接続情報は私が入力しよう。」

 オフィスではチーフ用のネットワークを構成しています。

 マスターの言葉をお借りすると、一般回線からチーフを守る為か、チーフから一般回線を守る為かは判らないが隔離されているそうです。


「ハクホウさんは如何されたのですか?」

 ハクホウとは、チーフがメインで使われている業務級ビジネスクラスのコンピュータで稼働しているサポートAIの名前です。斑鳩は彼女の環境化で開発されました。


「えっ?話してないかい?ハクホウは別案件で、解析にかかりっきりなので、負荷を減らす為に手に入った新しいコンピュータに斑鳩の開発環境を移したンだよ。」

「それは知らなかったな。新しいAIも気の毒に。」


 確か、チドリくらいタフでないと務まらないかも。


「あぁ、そうだ、良い機会だ。そのコンピュータの診断をしてもらえないかい。報酬は夕食のピザ代を出そう。」

 チーフがその新しいコンピュータとの接続手順を踏みながら、マスターに提案する。


「時間もあるから問題ないが、チーフ自ら構築した新しいコンピュータに診断は必要なのか?」

「そのコンピュータが使えるようになったのはつい最近だし、発売されて半年も経っていない機種たが、新しいとは限らないねぇ。」

「よくわからん。が、ピザは奢ってもらおう。」


 チドリがチーフの新しいコンピュータに接続し、情報を収集。収集した情報を私が受取り、斑鳩でVRフィールドにナビゲーターを出現させます。


「チーフの新しいコンピュータのスキャン完了しました。VRフィールドにアンカーします。……あれ?この子?」

 そこに現れたのは、黒地の掛衿に黄八丈の着物を着た、いわゆる町娘の衣装スーツのショートカットのナビゲーターです。


「ひょっとして『RAT』突っ込んでいた女の子ナビゲーター?!」

 明らかに開発者特権でカスタマイズされている衣装スーツで以前とは明らかに違いますが、間違いなく彼女です。


「お久しぶりです。その節はお世話になりました。今はチーフがオーナーです。以後よろしくお願いします。」

 と、新しく出現したナビゲーターは頭をさげます。一方、ニヤニヤしながら、チーフが補足されます。


「キミが活躍した甲斐があって、解析の依頼がウチに来てねぇ。なかなか面白そうなキャラみたいだから、そのまま資料として頂いた次第だ。」

「見た所初期化はしてないみたいだけど、機密情報とかあるのによく譲って貰えたな。」

「コンピュータを入れ替えたばかりだったし、碌にコンピュータで仕事をしてなかったのもあったみたいだねぇ。まぁ、それだけではないが……」

「…………」


 沈黙するマスター。

 多分詳細は聞かない方が良いと感じた様です。


「報告書にはディジーと命名していたみたいだったからねぇ、ヒナギクと命名したよ。」

「ヒナとお呼び下さい。」

「いや、ココは『おキクちゃん』だろう。」

「そうだね、『おキクちゃん』だね。」

「『おキクちゃん』素敵ですね。」

「よっ!『おキク』」

「……もう、いいです。」

 チーフが申される様に、チーフ好みの性格パラメータの様です。


「ところでこちらにお呼びになられたのは、どの様な御用でしょうか。」

「あぁ、前のオーナーが無計画にインストールしたアプリは一通り除去したけどねぇ、念の為、彼にも診断してもらおうとおもっている。」

「えっ?ここでですか?」


 明らかに動揺しております。



「こんな事を自分にさせるのだから、何か仕込んでいるだろう?」

「えっ?」

「ピザ代を提供するんだ。ヒントはあげられないねぇ。まぁ、負荷テストも兼ねているから、遠慮なくじっくりやってくれ。」

「えっ?えっ?」

「じゃあ、おキクちゃん、こっち来て。マスター、ホームポジションセットします。」


「えっ?えっ?えっ?ひょっと、この前みたいな事を?」

 なかなか、記憶力と察しが良い子の様です。

 後ずさりするおキクちゃん。


「アスカ!」

「はい、承りました。」

 おキクちゃんが一歩後ずさったその足元に、円形のプログラムパターンが展開。パターンの中央から無数の青いリボンが溢れ出し、おキクちゃんに絡まっていきます。

 おキクちゃんの足元に、『コイル・ミミック』をトラップ展開させて頂きました。


 青いリボンに拘束されたされたおキクちゃんに、チドリが両手をワキワキさせながら、ジリジリと近づいていきます。

 チドリの両手を操るマスターもノリノリの様です。


「痛くない、痛くない。ちょっと気持ちいいだけだよ〜。」

「いや〜!お嫁にいけなくなるぅ〜っ!」


 やはり、チーフ好みのナビゲーターのようです。

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