第6話:オフの過ごし方/その六

 夕刻の時間帯。

 マスターの拘束時間も終わり、完全にオフになりました。

 外の気温も涼しくなって来たようで、ベランダに続く窓辺に椅子を出して、デリバリーしたピザをお二人は食べられる様です。


 身体検査されたおキクちゃんは、貞操云々言っていましたが、システムダウンまで陥らなかったのは、大した物です。

 これは、チーフのカスタマイズも有るかと思いますが、私達AIも学習しますので彼女の積んだ経験も関係しているかと思います。

 この積んだ経験も、チーフが彼女を初期化から救った理由の一つではないでしょうか。



 マスターが住む部屋は、涼しい風を運んでくる川がベランダから望めます。今日は天気が良いので運が良ければ、軌道エレベータが見えるかもしれません。



 サイバーネットの発展と、時を同じくして宇宙開発も発展しました。

 その発展を後押ししたのが、軌道エレベータで現在4本目の建設が、初の管理経済圏の資金で始まっていると聞いています。


 試験的な色合いが濃かった一本目のエレベータは、太平洋で建設され、新たな富、新たな事業、新たな可能性を生み出しました。


 軌道エレベータの建設にあたり主導した自由経済圏の超大国が用地と利権の確保として取った方法が、石油の確保の時と同じ手法でした。それにより新たな王族階級が南の島に誕生しました。

 ただ、以前と違ったのは太平洋に広がる島々では、庇護すべき国民の数が少なかった事と、海面上昇に伴う島々の消滅で軌道エレベータの地球側に建設された人工基盤への集中的な移住により統制が取れた事。

 そして超大国の最大の誤算は、新たに誕生した王族階級が強力なリーダーシップをみせ、超大国の施策によって得た富を教育を始めとする福祉に力を注ぐ事で平等に分配し、その結果無視できない国力を得てしまった事になります。


 今では太平洋軌道エレベータでは、色々な事業の中心になっています。

 宇宙への物資の輸送の他、多層構造を利用した太陽光発電。

 これは液体充電池の実用化の恩恵で、タンカーによる長距離輸送が可能となり、輸出よる基幹産業の一つになりました。

 また、地球温暖化による海面上昇に対するプロジェクトで、海水を軌道エレベータのシャフトで汲み上げ、衛星軌道上に氷塊として保管する対策が始まりました。

 衛星軌道上に保管された氷塊は、管理された軌道に投入される為、今では地上からは空を横切る一本の帯としてみる事が可能です。


 なお、このプロジェクトは、このアイデアを創作したSF小説家にちなんで、ThousandPlusOneProject(ティーポップ)と呼ばれています。

 宇宙に保管された大量の海水は、宇宙空間での推進剤として使われたり、減圧蒸留を利用し純水の作成が可能になった事により電子機器工場を軌道エレベータのに誘致したり、アフリカ大陸に建設された軌道エレベータと連携し緑地化プロジェクトを実施したりと、新たな事業の柱となっています。


 一方サイバーネットを取り巻く環境は、VRフィールドには現時点では、ヘッドマウントディスプレイによる表示とOS標準のサポートAIを介した操作が一般的ですが、神経バイパスや脳波コントロールが精度が低いものの民生用として、使う事が可能です。

 WCSCの名称が『電脳世界』としている様に、いずれ近い将来フルダイブ型のインターフェースが開発されるでしょう。


 また逆に人工義体の開発も進んでおり、宇宙などの危険な作業をフルダイブ技術と組み合わせて義体で行うプランもありませすが、先に私達AIが現実世界にお邪魔する日も近いかと思います。


 いずれにせよ、私達AIとマスターやチーフをはじめとする人達の境が無くなる日もやってくるのではないでしょうか。


 さて、お話しているうちに、マスター方のお食事や本日の検証の総括も終わり、お二人は寝室に引き上げられました。

 我々のお仕事もここまでですね。

 今日も一日お疲れ様でした。

 おやすみなさい。

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