第3話:ログ取得開始

 チドリによる解析やアリスとベティの反応から、メモリ不足や不具合、その他何かを仕掛けられている様子も無い様だ。

 ただアリスとベティの服のデザインなど若干違う事から推察すると導入時期が違う様で、ログの方からも伺い知る事ができる。

 多分機能強化でベティを稼働を開始したもはのの、利用者の接続先切り替えが出来て居ない為、接続バランスが悪くなりアリスの方に負荷がかかって居た様に考えられる。

 とりあえずアスカに指示して、ロードバランサーの導入をすすめるメモをしておく。


 呆けるアリスと怯えるベティ。

 まぁ、この程度でAIの稼働影響が出るトラウマを植え付けていないとは思うけど、場合によってはフォローだな。

 フォローと言っても耐性をつけてもらうだけなのだが……


 とりあえず調査を進め、リストを消化して行く。

 ナビゲーターの動きや顔色を見ていくだけだが、社員が使う個人利用パーソナルユースを含めると千台近くあるので少々ウンザリする。上手く原因を特定しないと、ペース配分を考える必要がある。


「次は基幹系最後になりますので、そろそろ一旦昼食で休憩は如何でしょうか。」

 何だかんだで、12時を超える時間帯となっていて、アスカが声をかけてきた。

「ありがとう。だけど、昼抜きになりそうだ。」

 リスト最後の基幹系システムは、帳票保存システム。

 法に定められた取引などの記録を中心に、他の業務システムより出力された過去の帳票を保存するシステムだ。


 この会社は国産系の特定メーカーで固めている様で、アリスやベティと同じ青系のデザインを着ているナビゲーターが多い。当のナビゲーターも白いブラウスにメーカーカラーの青を基調とした膝丈のタックスカートとベスト。極め付けにメガネとエプロン。ベレー帽をかぶっている所から、業務級ビジネスクラスの様だが、ウェストは細いのにベストとスカートの中から弾けるばかりの胸とお尻の計4つの膨らみ。凶悪な巨乳の司書さんスタイルである。

 この司書さん、何かおかしい。

 淡々と業務をしている様子だが、時折眉間に力が入る。


「チドリ、ログ取得開始。お仕事だ。案件対象の可能性がある。クライアントにメッセージを送信してくれ。この司書さんをクラリスと命名。」

「了解。記録開始するね。」

「メッセージを送信。クラリスをアンカー致します。」


 すでにアスカでログの記録をしている上に、チドリでログを取るのは、二重に記録する事が主な目的ではない。クラッカーが行う攻撃の中に、ログの改竄というのがある。要は証拠が無ければ証明が出来ない事から、クラッカーはログを狙ってくる事が多い。

 斑鳩配下にあるアスカとチドリのログを気づかれずに改竄するのはかなり難易度が高いが、アスカとチドリとログ内容が違った場合、外部から何らかの攻撃がされたと判断できるので、行っている。

 ちなみにアスカを保護する為外部からは完全に切り離し、ネットワークへはチドリを介して接続している。いわゆる箱入り娘だ。アスカでの外部アクセスについては多少レスポンスが落ちるが、外部への処理はほぼチドリが行なっているのでとりあえず問題ない。チドリが接続・収集・分析を行った結果をアスカに渡し、アスカが視覚化している構成である。


「とりあえず、動いているサービスを調べてくれ。」

「は〜い、了解です。ではでは、失礼しま〜す。」

 指示に従いチドリはナビゲーターへのアクセスする際の定位置であるクラリスの背後に立って、クラリスのスカートの上からヒップラインがわかる形の良いお尻の谷間の端から首筋までの背筋に指を這わす。

「っっっ!くっ!」

 チドリの指が腰のラインに達した段階で、跳ねる様に仰け反り、過剰に声を上げるクラリス。

 あっ、これ、当たりかも。チドリも目で次の指示を待っている。これは直接さわってみるしかないな。


「アスカ、マニピュレーションモード。チドリ、手を借りるぞ。」


 『マニピュレーションモード』

 言うなれば自分がナビゲーターを触るモードである。

 自分が着けているグローブインターフェースは、手首の所で神経がバイパスされていて、使用者にVRフィールド上で触った物の質感や重量感を伝える機能が備わっている。これをチドリの手とリンクして、対象のナビゲーターを触診するのに利用する。


「了解!マスター。」

「承りました。スーパーバイザーでいきますか。」

 スーパーバイザーだと、システムのコアな部分まで調べる事ができる。


「可能性が高いのでスーパーバイザーでいく。チドリ、ホームポジションに。」

「ホームポジション確認。モーション同期します。スーパーバイザー、準備完了しました。」

 自分とチドリは両手を手術前の外科医の様な同じポーズをとって、手の動きを初期リンクさせる。自分の手の動きがそのままチドリの手と同期するのだが、チドリの手元はウィンドウに表示されたモニターを見ながら操作する。両手を他人に操られる事に対して、電脳空間の住人であるチドリはさして気にしていない様だが、ガイドモニターを見ながら操作する方は慣れが必要だ。


「エンゲージ完了。うわ〜、相変わらずマスターの手つき、いやらしいっ。」

「やかましいっ!スーパーバイザーで入るぞ。」

「は〜い、了解です。ごめんね。」

 チドリはクラリスに謝りつつ、直接巨乳にタッチする。

「ひゃぁ!」

 トーンが外れた悲鳴をあげるクラリス。背後のチドリを振り払おうにも、管理者権限を持っているナビゲーターに対しては無駄な行為で、なすがままで声をあげる事しかできない。

 さすがは帳票保存システム、大容量のストレージに充分な空き容量を確保している様だが、ウンザリするほどデータは保存されている。


「くうっっ!」

 左胸の当り、人で言うと心臓の位置に当たる部分を触った際に何か異物が指に触れ微かに痺れが走る。と、同時にクラリスも苦痛の色が混じった声をあげる。


 衣装スーツの装飾に模したバッチの様なオブジェクトだ。

「解析をしてくれ。稼働形跡も頼む。」

「了解、待ってて。」

 チドリは手が使えない状態でもウィンドウを操作して解析を開始する。

「マスター。これだけじゃないかも。首も見てくれる?」



 チドリの要請に従って、左手の異物に触れたまま、右手でクラリスの髪をかきあげ、細い首すじに指を這わす。


 首の真後ろ、後頭部の真後ろの位置にある不自然な膨らみに指が触れた時、左胸オブジェクトに触れた時と同質の痺れが指に走る。

「これか?」

「うん、スキャンかけてみるよ。」

 チドリの人差し指の先から不自然な膨らみに対して電気がショートした様な火花が飛ぶ。


「くぁぁぁぁっっっ!」

 大きな悲鳴を上げ、クラリスの首が弾かれた様に仰け反ると同時に、胸のバッチと首すじの膨らみがノイズを散らす様に弾け、その下から甲虫の様なオブジェクトが現れる。


 この甲虫の様なオブジェクトの脚に当たる部分がクラリスの体に根をはる様に食い込んでいる。この脚からの発信される信号で眉間に力が入っていたに違いない。


「解析完了。ビンゴ、クラッキングアプリだよ。多分『 DB-Aphid』だね。」

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