第8話:無い情報は取りに行くだけ
「これから、ど〜すんのよ。おわりなの?いや、あんたを心配してるんじゃないわよ。」
イズミちゃんがベタなツンデレのセリフを宣っているが、とりあえず今回は触れないでおいてあげる。
「アスカ、クライアントからの資料はアース以外の情報はある?」
「頂いておりません。」
「ですよね〜。」
まぁ、今回は完全アウェイなのでそう求めてないが、やはり必要以上の情報はもらえていない様だ。
管理者アカウントが発行してもらえただけでも御の字なので、特には文句は言うつもりもないし、無い情報は取りに行くだけだ。
「イズミちゃんよ、チドリはアースはWebアプリでガッチリ固めているって、言ったよな。」
「資料も同様ですね。」
「じゃあ、データベースアプリはどこにインストールしてる?」
「あっ!」
一台のコンピュータで何もかも処理させるのが当たり前だった黎明期と違い、一台の単価が安くなり、ネットワークの速度が上がった頃から、複数のコンピュータ同士をネットワークで接続し、コンピュータも分業する手法が確立された。
例えばシステムのプログラムを専門に動かすアプリコンピュータ、システムの使用者を管理するのはユーザー管理コンピュータ、Webの処理はWeb専用のコンピュータ、そしてデータの保管を専門とするコンピュータがデータベースコンピュータである。
今回のクライアントの発注システムはWebで取引会社が接続するが、その取引先に配信するデータはWeb専門のコンピュータであるアースは持っていない。
それらしきデータベースアプリが入っていないからである。
では、配信するデータはどこにある?
多分アースの他にデータベースアプリがインストールされたコンピュータが存在するはずだ。
「アスカ、データーベースを担当するコンピュータの該当はあるか?」
「ネットワークでパケットを頻繁にやり取りしているコンピュータが2台あります。」
「ほらね、やっぱり必要だったろ。」
ネットワークスキャンを行って、目くじらを立てたイズミちゃんに話を振る。
「よしアスカ、該当のコンピュータをアンカーしてくれ。」
自分の指示に従いVRフィールドが切り替わり、アースから別のナビゲーターがフィールド上に現れる。
現れたのは、繋がった宙に浮く2つの椅子に背中合わせに座った2人のナビゲータである。
白い襟の付いたノースリーブのワンピースで、長めのタイトなスカート部分がアースと同じブルーである。
長い髪を一人は首の後ろ、もう一人はポニーテールになるように束ねていて、束ねるシュシュが大きめで飾りがついているので、多分
2人が座っている涙滴型をひっくり返し斜めにカットした様な腰の位置まで背もたれがある椅子はつながっているので、2重化されたコンピューターと思われる。
「ポニーテールを“ウォーター”、もう一人を“ファイヤ”と命名。」
「承りました。」
「了解。で、どっちから行く?」
「ウォーターからスキャンしてくれ。」
「は〜い、じゃあ失礼しま〜す。」
いつものセリフを口にしながら、チドリは器用にウォーターの背後に回り込むと、データベースアプリをインストールしているだけ有って、豊かな胸をもつナビゲーターにタッチをする。
「ふぇっ?なに??」
いきなりのバストへのアクセスに目を白黒させるウォーター。
「OSはメーカー標準のエディションBだね。スペックもストレージも余裕があるけど、構成は一般的かな?おおっ、なかなか良い
ささやかな抵抗をするウォーターを意にも介せず、スキャンを進めていく。
それぞれの手にVRウィンドウとスタイラスを持ち、身体をくねらせる姿は色っぽいものがある。
一方置いてけぼりのファイアも背後の痴態が気になるようで、チラチラ肩越しに様子を伺っている。
「おっ、悲しいお知らせです。データベースアプリを発見しましたが、ゴスペルです。ファイヤと二重化連携しているみたいだね。」
ユーザー管理が面倒くさいが高機能なゴスペルデータベースは、どうしてもシェアが高い分どうしても関わる事が多くなってしまう。
とは言え、ウォーターとファイヤは、データベースアプリを動かすコンピュータとして2台構成にして、負荷分散と二重化を図っている構成となっている様だが、
「うん、やっぱりアースと連携している様だね。」
やはり受注システムとしてはアース単独で稼働している構成ではなく、データを保存管理するデータベースアプリは、別のコンピュータであるウォーターとファイヤに分担させる構成の様だ。
チドリは一通りチェックすべき内容を確認した後、安堵するウォーターを開放する。
「チェック完了。ウォーターはまずはスキャンのみで良いんだよね。」
「ありがとう。まずは二重化されている相手がファイヤなのが確認できればいい。2人の稼働アプリを比較していこう。」
腰を浮かしかけているファイアだが、逃げる事ができる訳はなく、向きを変えたチドリが背後に立つ。
「じゃあ、次はこのコだね。失礼しま〜す。」
「あんっ!ちょっ、ちょっと!ふぁっ!」
お約束通り、チドリがバストをタッチすると、なかなか感度が良さそうな反応が返ってくる。
同じスペックのコンピュータでも、サポートAIとして積んだ経験の違いがナビゲーターの行動に現れるので、特に気にしない。
「うん、スペックやバージョン、当てている修正プログラムはウォーターとおんなじだね。」
チドリがストレージをアクセスするとイレギュラーな方法と判断したのか、ファイヤの負荷が跳ね上がっている。
さすがはチドリが『なかなか良い』と評した
そもそも利用者数が少ない時間に作業を開始しているのもあるし、この
背後のイズミちゃんの視線が痛いが、別にファイヤの痴態が見たい訳ではない。
実際、業務時間外とは言えアースにアクセスがあった様で、データ処理はウォーターが担当している。
ウォーターのかざす右の手のひらの上で、アースに受け渡す為のクリスタル状のデータオブジェクトを作成。クリスタルオブジェクトの下部から砂が崩れる様にパケットに分散しアースに転送されていく。
が……
「あっ?」
「あれ?」
「え?」
「?? 急に声をあげてどうしたのよ?」
自分とチドリ、アスカの3人が上げた声にイズミちゃんが不審がる。
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