第7話:接続開始
「さて、皆さま。そろそろお時間になります。」
グタグタと文句を言うイズミちゃんと、それをからかうチドリと自分をたしなめる様に、開始の時間が近づいたことをアスカが告げる。
「よし、開始するか。アスカもチドリもログの記録開始してくれ。監査員殿は、いつもの位置でよろしいでしょうか?」
自分の左後方のちょっと高い見渡せる位置に流線型のシンプルなデザインの椅子が現れる。
相手はAIなので実際椅子とか不要なのだが、VRフィールドの座標固定としての意味合いも持つ。
ぶつくさ文句を言っていたが、さすが真面目ちゃん。仕事はするようで勧められた椅子に腰掛ける。
自分もワークチェアの角度を調整し、長期戦に備えるポジションに変更する。
他のウィンドウに隠れてしまったクロックウィンドウを弾くと、後2分で20時になるところ。
「イズミちゃん、アカウント貰えるかねぇ。」
今回の接続条件は、監査システムのクライアントアプリがインストールされている事であり、条件を満した状態で監査システムよりVPNの接続アカウントが払い出させる仕組みとなっている。
「はい、これよ。」
ツンデレ属性があるのかもしれないが、ぶっきらぼうにイズミちゃんからVPNのゲストアカウントファイルであるICカードを模したオブジェクトを手渡される。
「ありがとう。チドリ、接続開始だ。」
手渡されたICカードのオブジェクトをそのままチドリの方に人差し指で弾いて飛ばす。
オブジェクトを受け取ったチドリは右手をかざし、接続の手続きを開始する。細かいキューブに弾けてオブジェクトが、文字がスクロールするウィンドウとなった時と同じくして、VRフィールド上に今回のクライアントのロゴがホップする。
「エンゲージ完了。うん、大丈夫。ショボいアカウントじゃなく、管理者用のアカウントが発行されているね。」
「おぉ、それは素晴らしい。」
まーくんが約束通り仕事をしてくれたらしい。ありがとう。
さて、まーくんに開始報告のメッセージを打って、20時10分まで時間を潰すことにする。
すぐに返事が返ってきたところを見ると、どうやら待機している様だ。
何か有ったらすぐに相談出来るのはありがたい。
「よし、開始しよう。チドリ、ブロードキャストを送信。ネットワークスキャン開始。」
「ちょっと!ちょっと!なんでコンピュータ一台見るのに、ネットワーク全検索するのよ!越権のし過ぎもいいトコロよ!」
うん、小煩いのは監査ならではだねぇ。
「『木を見て森を見ず』ってね。大丈夫、大丈夫。アピールも兼ねているんだから。アスカ、ネットワークの可視化を。」
「承りました。」
可視化されたクライアントのネットワークが、俯瞰する様に足元に展開される。
「対象のコンピュータをアンカー致します。」
「よし、やってくれ。」
可視化されたネットワークの端の方がフォーカスされると、フォーカスされた部分が拡大されていく。
輝度を落としたVRフィールドで光で表示されたクライアントのコンピュータやネットワークのパケットを高速ですり抜ける表示は、さながらプラネタリウムで銀河を渡っている画像を見ている様だ。
閉鎖された社内ネットワークとは違い、サイバーネットから直接アクセス出来るWEBシステムの様なコンピュータは、社内ネットワークから見ると、ネットワーク上に隔離されたエリアを作って直接サイバーネットと通信できる様にしている。
サイバーネットでのサービスの多様化に伴い、単純な表示するだけの企業サイトなどは、サイバーネット上のレンタルコンピュータで賄っている事も多いが、今回の様な社内ネットワークに設置した基幹システムと頻繁にデータをやり取りする発注システムは、ネットワークの速度が上がったとは言え管理面の上で社内ネットワークに近い場所で管理する事が多い。
今回のコンピュータもサイバーネット向けのシステムの為、サイバーネットに近い社内ネットワークの端になっている。
アンカーされたナビゲーターは、ワンショルダーのセクシーな青のイブニングドレスを着こなし、会社の看板であるシステムならではの親しみやすい顔立ちである。
つま先まで隠すほど長い裾だが、フィールドに付かない程度に、座る円錐の椅子が宙に浮いている。
さすが、アクセス数が多い事を考慮してか、
微笑を湛えるナビゲーターの顔色を見る限り、気になるところは見て取れない。
……ハズレを引いたか?
そもそもクライアントのシステム部門がチェックをして、問題を検出していないので、このコンピュータ自体に問題を抱えているとは考え辛い。
「とりあえず、この
「やっぱり、前とやり方変わってないの。」
心底嫌そうに聞いてくるイズミちゃん。
斑鳩の仕様についての質問らしい。
「残念ながらね。じゃあ、失礼しま〜す。」
自分の代わりに、全然残念そうではない口調でチドリは答え、定位置のアースの背後に立つと首筋に指を這わす。
「きゃっ!」
さすがの微笑みのナビゲーターも、斑鳩流のアプローチに可愛い悲鳴をあげる。
それを気にする様子もなく、遠くを見る様な表情でアースの首筋に当てた指を腰までなぞるチドリ。
アースの
多分チドリは持っているデータベース情報やクライアントからの資料と、アースで実際に動いているアプリと照合しているはずだ。
メーカー標準のOSなら中で動いているアプリは、持っているデータベース情報とさほど違いはないはずだ。
「うん、Web系のアプリで固めているね。二つ三つこっちの情報にないアプリは動いているけど、おかしな動きをするアプリは見当たらない。」
「う〜ん、やはりクライアントのシステム部門が言う様に、アース自体には問題は無いみたいだな。」
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