第9話:今日は厄日

「あんっ!今日は厄日れしゅぅ。」


 厄日と言うなら、ナビゲーターもな含めて、今日の午後にオフィスにいた関係者全員厄日だろうが、間違いなくお菊ちゃんがダントツなのは認めよう。


 お菊ちゃんの背後に展開されたデジタルテイストの魔方陣の様なプログラムパターンに、両手を吊るされた様な格好で拘束されている。


 このお菊ちゃんを拘束するプログラムパターンは、アンカーのプロトタイプである。

 当初はチェック対象であるナビゲーターを、この様に拘束して解析などを行なっていたが、ナビゲーターの負担が大きい為、周りの分析ツールの精度を上げる事と、機能を削る事により今の様な仕様となった。


 なお、今回のプロトタイプの使用したのは、観察がし易い事と、細工を組み込む為のプログラム変更がし易かった為である。


 とは言え、吊るされている仕様に対してナビゲーターへの苦痛は無いものの、両手を上げているので、黄八丈の着物の袖は肩まで捲れ二の腕まで露出している。

 さらに、先程のチドリの胸へのタッチアクセスによる着崩れた襟元の影響で、かなり色っぽい事になっている。

 一応、お菊ちゃんの合意の上でこの役割りを振ってある。


「マスター!チーフの草案を参考に、仮想のネットワークを構築準備が完了したよ。」

「シュミレーションした始動後のネットワーク図を出してくれ。」

「承りました。この様な結果です。」

「よし、少し待ってくれまいか。もうちょっとでアンカーとの繋ぎ込みが終了する。」

「了解。チェックはこっちでもしておく。」


 今回の対銀爺ジジイ用の構成は、チーフの以前作成した提案書の草案がベースになっている。


 +++


「仮想のネットワークを構築して、銀爺ジジイが仕掛けたデバイスをあぶり出す。」


 時間を遡るが、チドリが文書ドキュメントを探し出した後、チーフがした時の説明内容である。


 お菊ちゃんに保存されている文書ドキュメントの検索を、最終的にチドリが続行する事になってしまい、お菊ちゃんが涙目だったのは余談だ。


「メカリの仮想ダミーを起動させるタイミングで、チドリにネットワークの分配器HUBに管理者権限で接続。そこからありもしないネットワークを仮想で作成させたい。」

銀爺ジジイの仕掛けたデバイスを混乱させるのが、目的か?」

「そう言う事だ。通常使う分には影響がない。デザインはアスカとグリムでやってくれまいか。見た目を派手に変更して欲しいねぇ。」

「了解した。だが、仕掛けるのはそれだけではないだろ?」


「ああ、そうだねぇ。その仮想のネットワークにダミーでコンピュータを何台か配置するよ。」

「なるほど、そのダミーにアクセスするのが、銀爺ジジイが仕掛けたデバイスの可能性が高いという訳か。」

「しかし、先程お伝えしましたが、それでは増幅か検知精度を上げる対策を取らないと即時の検知が難しいかと……」


 確かに、即時に検出出来ないと意味がない。

 相手はどう言う仕組みか分からないが壊れたパケットしか送ってこず、後のログ解析で分析しないと検知出来ないケースの可能性がある。


「それについては大丈夫だねぇ。検知精度が格段に上がっている打って付けの人材が今は居るよ。」


 モニター越しのチーフが指す先のお菊ちゃんに、自分達三人の視線が集中する。


「へっ?私れふか?」

「そう、今のお菊なら検知感度は間違いなく高い。ネットワークポートを擬似的に増やした上で、仮想のネットワークに作るダミーのコンピュータからデータを、全て転送すれば増幅の代わりになる。どうだい、条件は全てクリアすると思うがねぇ。」


「確かに利にかなってますね。でも……、」

「そう、問題は一定期間とは言え、銀爺ジジイからの攻撃をお菊が全て受ける可能性もある。破損する出力では無いけど、複数台分のデータを受ける以上、可能性はゼロではないねぇ。それでなくても、メモリが沸騰しそうなアクセスが考えられるがどうする?」


「ふぇっ?またいやらしい事、されちゃうのれふか?」

「まぁ、その可能性は高いねぇ。それを言うならメカリの影武者仮想をするチドリも同じだよ。ただ、お菊はこれ以上の無理強いはAIのチューニングに悪影響があるかもしれないから、本人の意志を確認したいねぇ。まぁ、外のナビゲーターは早いトコロ、解放したいがね。」


 お菊ちゃんにアンカーをかけた時点で、周りのネットワークは透過処理されているが、乱痴騒ぎは続いている。


「…………やりまふ」

「よ〜〜っく、言ったぁ!」


 渋々だが、外の惨状を目の当たりにしては、AIとて断りづらかろうが、チーフが嬉々としてツール類を起動しだす。


「アスカ、お菊にプロトタイプアンカーを起動。入出力インターフェースを8番から18番まで解放。お菊からの接続をするから、フィルターを解除。グリム、ネットワークデザインを頼むぞ。それからマーちゃん……」


 矢継ぎ早に指示を出してくるチーフ。

 かくして文頭のセリフに繋がる訳だが、お菊ちゃんの後悔を他所に準備は着々と進められて行く訳となる。

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