第2話:チドリのワンド
『DoS攻撃』とは、古くはF5キーを連打する“F5攻撃”と呼ばれる手法を代表とする様に、ネットワーク上のコンピューターに過剰な負荷をかける攻撃方法である。
同じ目的を持った集団・組織・民族が同調し、ターゲットにしたサイトに対して同じ時間帯に殺到するケースのほか、マルウェアに感染し外部から不正な遠隔操作が可能なコンピュータを複数台用いて一斉に同じネット上のコンピューターにデータを送信するケースなどが挙げられる。
『DoS攻撃』によって機能が停止してしまう要因の一つが、ネットワークが通信出来るデータ量を超えてしまった場合であるが、サイバーネットで利用されている現規格のネットワーク機器では、理論上国家規模の動員が必要になってくる。
どちらかと、もう一つの要因であるデータを受けるコンピューター側が、処理しきれなくなる先であろう。コンピュータの処理速度が上がった為、システム停止になるまでパケットを送り続けるにはかなりの労力を要するが、出来ない訳では無い。
実際にサーチした結果をこの目で見るまでは断定はしたくなかったが、決済システムに仕掛けられた攻撃は『DoS攻撃』で間違いないであろう。
切っても切っても纏わりつくパケットの糸に絡み取られた三人のナビゲーター。特にアルタイルとベガの抵抗の後が痛々しい。元はお揃いのダークパープルを基調にしたベストとタイトスカートだったと思われる
停止しているアルタイルは、蜘蛛の巣にかかりもがいた小鳥を思わせる容姿で、糸に絡みつかれて力尽きている。これでは再起動もままならないであろう。
一方まだ動けるベガも状況は芳しくない。
弱々しく片手をあげてウィンドウを操作しようとするが、その手に絡みついている糸がその動きを阻害しする。
尽きることのないパケットの糸はベガが動く度に、四肢に絡まり身体を締め上げ、絶えず負荷がかかる為、すでに目は虚ろ。ほぼ処理は停止していると考えて良いだろう。
まだマシなデネブも、気丈にも処理を引き継ごうしているが、幾重もの糸に締め上げられ、ベガやアルタイルと同じ停止のプロセスに乗せられようとしている。
当初の話では稼働していないはずのデネブも、パケットの糸の餌食になって居る所をみると、クライアントのシステム担当が少しでもアルタイルとベガの負荷を下げようと、稼働したものと思われる。
『DoS攻撃』の対処としては、絶えず送信されてくるパケットをフィルタリングすることにより、攻撃者が送信してくるパケットを特定しブロック、そしてシステムの負荷を下げ、ひたすら耐える事しか出来ない。
クライアントのシステム担当者もフィルタリングをしていると思われるが大して効果を上げておらず、送信されてくるパケット量に対してベガの起動も焼け石に水に違いない。
「チドリ、頼む!」
「了解っ!軽症のデネブで良いね。」
質問に対して肯定のサインを送ると、チドリは自分にも絡みつく糸を気にもせずデネブに近づいていく。ただし今回は定位置の背後ではなく正面に立つ。
「失礼するね。」
動くこともままならないデネブのおとがいに指を添え顔を上に向けさせると、唇を重ねる。
突然のチドリの行動に、目を見開くデネブ。フリーズしたかの様に動きを止めるその間も二人に容赦なく糸は絡みついてくる。
ズバッッッッッッ!!
突如パケットの糸を切り裂く、VRフィールドに疾るオレンジの軌跡。
オレンジの光の発生源は、デネブを胸に抱き剣士の様な圧を発するチドリが手にするライトセイバー。その光る刀身を持つ剣は、アルタイルやベガが捌ききれなかった量のパケットも易々と切り裂く。デネブを脇に避け、捕らわれているアルタイルやベガも横薙ぎの一閃で解放する。
桁違いに処理能力が高い
良く観察すると、手にする柄の部分はチドリがいつも腰に下げていた
斑鳩では、
3台の
ちなみに自分が不相応な
さて、ひたすら耐えるしかなかったDoS攻撃に対して、高スペックのコンピュータが手札にあるだけで、戦術が変わってくる。飛んでくるパケットを捌くだけではなく、攻撃の情報を収集する事ができれば、分析で攻撃をしているクラッカーの手がかりが得られるのである。運が良ければクラッカーがボロを出てくる可能性すらある。
ひと通りパケットを薙ぎ払い、視界が良くなったVRフィールド。
「こんなところかな?」
周りを見回したチドリは納得した様に頷き、オレンジの光を納める。
一方、チドリが先程操作していたウィンドウを、アスカが引き取って何かの確認をしている。
「通販サイト復旧致しましたね。決済出来ました。」
チョットマテ、誰の財布で何を買った?
とりあえず、通販サイトは表向きは復旧したので、デネブの情報を取り込んだチドリに決済システムの処理を引き続き肩代わりさせよう。
「チドリ、デネブの肩代わりは引き続き行けるか?」
「無意味なパケットがウザいけど、余裕、ヨ・ユ・ウ。」
「わかった。たのむ。後、アルタイル、ベガ、デネブは、一旦サイバーネットから隔離させてしまおう。」
頷いたアスカがウィンドウを操作して、カプセルの様なデザインの二組の長椅子と一脚のソファを出現させると、チドリが機能を停止したアルタイルとベガを長椅子に寝かせる。
「あの、私は?」
唯一自分で動けるデネブが聞いてくる。
斑鳩のフィールドでクライアント所有のナビゲーターが会話する事が少ないから、何となく新鮮である。
「君はこっち。」
チドリがデネブをソファに導き座らせる。これでサイバーネットからの干渉は無くなる筈だ。
「しばらく君の仕事を私が肩代わりするから、休んでいて。後は任せッッて、ひゃんっ!?」
珍しくチドリが奇声をあげて飛び上がる。
「今、誰かお尻さわった!」
よし、来たか!
何者かがデネブにアクティブスキャンをかけて来た様だ。
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