第4話:潰されたチーフ専用機
「やられたねぇ。ハクホウの入出力が潰されたよ。」
ディスプレイであらかた分析が終わったのであろう。顔をあげてチーフが会話に加わる。
「ハクホウはどこまでやられた?アスカやチドリは問題ない様だが、他のコンピュータもやられている可能性はあるか?」
ハクホウがクラッキングされているという事は、ハクホウをクラックする為に、オフィスにその前にクラックされたコンピュータがあるはずだ。
「あぁ、結果を先に言うと、ハクホウはクラックされてないよ。」
「じゃあ、『入出力が潰された』ってのは?」
「それね、ご丁寧に私が使う入出力デバイス全てファームのバージョンを更新してくれた親切な人がいたらしい。」
「ほぅ!」
自分の喉の奥から変な音の溜め息が漏れる。
すでに規格が統一されている平面モニターやキーボードをはじめとした
これが、“ファームウェア”と呼ばれるプログラムである。
使っている上であまり意識していないが、デバイスメーカーが利便性や不具合解消の為に改修しておりファームウェアにもバージョンがある。
改修内容によっては、今まで使っていたドライバーも対応バージョンに更新しないと使えなくなる場合もあり、それらの更新には注意が必要になる。
システムという物は動いてナンボというのが大前提である以上、ファームウェアも最新版が良いという訳ではなく、管理しながら最適な状態に保つ事が必要になってくる。
通常は予備系統を含めて複数のデバイスを用意して一つひとつ確かめながらやるものであり、片っ端からまとめてファームウェアのバージョンアップをするものではない。
「予備系統も含めて、いくつかのデバイスは使えるのは確認したが、以前の様に動かせるまで半日仕事だよ。」
「なかなか手のかかる事を……。」
「おぅ、半日とは言え、チーフがハクホウを使えない様にするには、なかなか効果的だな。」
「まぁ、確かにハクホウをクラックするに比べたら、デバイスのファームウェアのバージョンアップなんぞ、技術的には難しい訳じゃない。ただ、オフィスの事、要はチーフが何を使っているをかを、よく知ってないと難しいな。」
「と、いう事は、内部犯行か?」
そう広くもないオフィスを、マーちゃんが見渡すと、集まっているオーディエンスが少しざわつく。
「あ〜、メカリ。統計情報を表示してくれ。時系列にアラートの種類と発生数を表示してくれ。」
「それと、メカリのリソース状態の情報も一緒に表示を頼む。」
気になる事があり、メカリに情報を表示を指示すると、同じ可能性に思い至ったのか、チーフも指示を追加する。
オペレーションルームの他に、オフィスの一部にメカリの操作用に音声デバイスとモニターがある。
いつもよりやや間が空いて、メカリからの返答が返ってくる。
「……はい、アラートの情報は、
「そうしてくれ。」
「……統計情報とリソース情報のグラフを表示します。」
表示された統計では、コンピュータのリソースは業務に影響がない程度の負荷。
メッセージはオフィスからの、しかも誤検とは言え軽微な警告メッセージのみ。
ただし数は半端ない。
要は、極端な言い方をすると関係ないメッセージが常に表示されて鬱陶しいレベル、仕事には差し支えない様に、調整されている気がする。
しかも、オフィスの中をよく知っており、チーフが手を出せない様に効果的な方法を選ぶ発想力。
こっちの打つ手を知って、なおかつ逆手に取るやり方。
一人、心当たりがある。
「チーフ、どう思うよ……。」
「そうさねぇ。奴って事か?」
彼女の表情をみると、やはりチーフも同様の考えらしい。
二人のつぶやきに割って入るマーちゃん。
「おぃ、ちょっと待て。奴が帰ってきたって事か……?」
自分とチーフの顔を交互に見比べている。多分自分もチーフと同じくらい、渋い顔をしているに違いない。
「おぅ、ちょっと待ってろ。」
おもむろに、何処かに電話をかけるマーちゃん。
親しげに電話の相手に話をして、何かを確認している。
「おぅ、またよろしく」
と、電話を切って向けた顔は、自分達以上に苦り切った表情で、そして宣告する。
「おぅ、間違いない。
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