第14話:料亭の反省会

 今は斑鳩を使った事による後遺症を、チーフにぶつけた後の自分の寝室。


 反省会終了後、二次会まで付き合って終電に飛び乗ってのご帰宅だ。

 環状線の反対側の部屋まで帰る位ならと、自分の部屋についてきたチーフだが、そもそも今回の案件はきつかったので逃がすつもりはない。


 ちなみに反省会は、“川べりの料亭”と勝手に呼んでいる運河に面したなじみの居酒屋で行われた。

 料亭とは名ばかりな雑居ビルの一階にかまえる居酒屋は、若干小汚いが居心地と値段とボリュームが良く、銀爺ジジイが古くから利用しているらしい。


 銀爺ジジイに呼び出されたメンバーは、自分とチーフとマーちゃんの定番メンバーとは別に、肴フラグが立っていた東京時間担当の二人のオペレーターと、二年目君。

 そして以外な事に、二年目君の教育担当の営業。不幸にも「かいさ〜ん」と声にしていたその彼だ。


 かく言う自分は、二、三有り難いアドバイスを頂いた程度で、美味しく酒を飲めた次第だ。


 自分が一通り満足して、ミネラルウォーターを飲んでいると、布団に包まったチーフが話かけてくる。


「ところで、マーちゃんはどうやって銀爺ジジイが帰っている事を特定したんだろうねぇ?」

「あぁ、それな。川べりの料亭に電話して、予約が取れるか確認したらしいよ。」

「ぉぉっ!その発想は無かったわ。」


 週末ならともかく、あの小汚い居酒屋が平日に予約が取れないのは、銀爺ジジイが貸切りにするくらいしか考えられない。

 確かに、久しぶりの銀爺ジジイの登場と悪戯の顛末を聞きたかった理由か、参加者は思ったより多く、貸切りでないと入らなかったかもしれない。


 不幸にも肴になったメンバーは、いつもより多い参加者に対して公開処刑に近い状態だっただろう。


「しかし今回は営業も肴にされるとは、今後の業務に良い緊張感があるんじゃないかねぇ。」


 確かに銀爺ジジイ主催の訓練は、今までは技術系の社員しか肴になってなかったので、今後は営業系も当事者意識がでてくるだろう。


 そもそも今回の幕引きは、二年目君のコンピュータをチェックを開始する前で終了。

 早く見つかって良かったと、チーフの感想だ。


 聞いた話では、冷蔵庫の中では解析が出来ないからと、開発部がダンボールの中をアルミホイルで密閉する事で自作した、簡易的な電波暗室にコンピュータを移す所で、銀爺ジジイの仕掛けたデバイスを発見出来たらしい。


 マウスやキーボード、グローブインターフェースなどのデバイスは、一般的には無線仕様が多いが、電波暗室にコンピュータの筐体を入れると使えなくなる。


 偶々二年目君のコンピュータは、有線のマウスを使っていたが、よく聞くと銀爺ジジイからもらった物らしい。

 手の大きい二年目君が使い易かろうと、もらったのが大きいサイズのマウスだったらしいが、まさかと思いチーフがマウスのカバーを外したら、本来は存在しないデータクリスタルや通信装置を見つけた、と、言うことだ。


 明らかに自作臭が濃い半田ごての跡が見える現物を後で見せてもらったが、大きいマウスとは言え決して広くない空間に、それらのデバイスを詰め込んだ手腕に関心するばかりだ。


 仕組みとしては、マウスをコンピュータに接続すると、データクリスタルが追加ストレージとして登録され、今回の一連の騒動を引き起こすプログラムが登録される仕様だった様だ。

 あからさまに怪しい追加ストレージが半年近く放置されていた事に対して、まだ慣れていない二年目君はともかく、何度か二年目君のコンピュータを操作しているはずの教育担当が気付いてないのは、確かに失態だったかも知れない。

 間違いなく言えるのは、今回の銀爺ジジイの悪戯は、未然に防げる可能性があった訳だ。


「いずれにしろ、銀爺ジジイが帰って来たと言う事は、また厄介事が舞い込んでくるのは間違いないな。」

「依頼がないからしばらくはコッチに居ると言っていたから、覚悟しておこうかねぇ。」


 と、言ってサイドボードの電気を消して寝る体勢に入るチーフ。

 確かに遅い時間だから寝るとしよう。



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サイバーネット・ウィザード 〜電脳世界のアーティファクト〜 鴻司 @ohtari-tsukasa

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