第2話:オフィスからのコール
「えっ?メカリが攻撃食らってないるって?」
オフィスからの音声通話のコールは、全く歓迎出来ない内容だった。
今日は、ベイサイドの国際展示場で年に数回開催されるシステム業界の展示会に顔を出していた。
コンピュータやサイバーネットをはじめとする関連企業やメーカーなどが、出展する大きなイベントの一つである。
広い展示場に定番の製品や新製品を展示する企業ブースが軒を連ね、華やかなコンパニオンがパンフレットを配って回る会場は今年も盛況で、まっすぐ歩くのは難しい状況だ。
技術革新が激しいこの業界の進歩に喰らいついて行く為、この手のイベントに出来るだけ参加をして新製品の情報だけでなく、セキュリティを始めとする新しい技術の概念などを仕入れる様に心がけている。
今回は珍しく同行者を伴っての参加だ。
“Hermit's Lamp”社に昨年新入社員として入社した新人である。
展示会を見学することによる業界の勉強もあるが、入社1年以上経過して月1回程度しか顔出さない謎の人物としか印象がないであろう自分がアテンドすることによって、親睦を兼ねろとの意味合いもあるらしい。
なんでも学生の時、ラグビーだかアメフトだかをやっていたらしいガッチリした偉丈夫で、ボディーガードになるかと会社は考えている節もある。
その彼と昼を過ぎた辺りに、音声通話でコールしてきたのは、オフィスの総務部門の事務員だ。
「朝、オフィスに寄った時は何もなかったぞ。」
「午後から出社のチーフが異常に気づいたみたいです〜。手が離せないから私が呼び出せと言われました。」
チーフがかかりっきりとは、かなり厄介な事態らしい。
「わかった、タクシーを使って、今すぐオフィスに戻る。」
本来ならこの時間は、マネジメント会社を介して契約しているネットハウンドが対応するはず。
そちらが手一杯になった際の二番手のはずの自分に要請がきたのは、今回の攻撃対象が社内システムのメカリである為であろう。
ただ、アスカとチドリにアクセスできるのは、携帯性を重視して選んだバングル型スマートデバイスである為、出来る事に限界があるし、自宅よりオフィスの方が近い。
通常なら展示会場からオフィスまで、新交通システムとバスの乗換えが必要だが、タクシーなら車の流れが良ければ15分で戻れるであろう。
「お願いします〜ぅ。」
滅多にない事態に声が上擦る通話相手との回線を切って、同行者に声をかける。
「スマン、緊急事態だ。今からオフィスに戻る。」
この時間なら、まだ来場者の方が多い時間帯なので、さしたる苦労もなくタクシーが捕まる。
同行者の二年目新人は、オフィスに戻る必要もなく引き続き会場に居ても問題ないのだが、一緒にタクシーに乗り込んで来た。
行き先は二年目君に任せて、スマートデバイスでアスカにアクセスを図る。
『お疲れ様です。マスター。』
「よし、アスカ。“斑鳩”を待機モードから復帰をしてくれ。稼働チェックはここからやるから表示を頼む。」
『承りました。“斑鳩”復帰シークエンス開始しました。チェックリスト及びモニターを表示致します。』
斑鳩の起動メッセージが表示されると同時に、タクシーは動き出す。
スマートデバイスの画面に表示されたモニターに立て続けに流れていく
確かにこっちの業界にどっぷり浸からない限り、最近はコマンドラインを見る事はないはずだ。
チーフの手によって開発された斑鳩だけあって、この辺はわざわざチェック用に、見易い画面を手がける事は今後も無いだろう。
モニターに表示される起動シークエンスの情報から、重要な項目を拾い上げてチェックしていく。
作業を続けながらアスカに追加指示を出す。
「それとチーフがオフィスに居るから、状況報告をもらってくれ。」
『承りました。チーフにアクセスしてみます。』
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