第12話:好奇心
「アスカ、C…いや、B様式の申請書を用意してくれ。ちょっと件のコンピュータにお伺いしてみよう。申請書には、対象が圏外のコンピュータって書かないでくれよ。」
「承りました。」
好奇心は猫も殺すと言う言葉があるが、圏外とは言えWCSCも放置している場所に手を出すのは、危険かもしれない。
「チーフ呼んだ方が良かったかなぁ。」
自分も余り深入りするつもりは無いが、やはり第一人者がいた方が何かと心強いが、まぁ仕方ない。
「調査状況を元にB様式申請書を作成しました。法務に送信致します。」
「ありがとう。よし、今回の訪問先は“
多分受理されるであろうWCSCへの申請書は、はっきり言って保険で、成果かあろうがなかろうが、
まーくんには後で報告するにしても、クライアントや
さて、と、つぶやきながら、椅子ごとイズミちゃんに向き直る。
「イズミさん」
「なによ、改まって。気持ち悪い。」
珍しい“さん”付けに、多少怯えが入るイズミちゃん。
ただ、これからやる事ははっきり言っておかないといけない事ではある。
「クライアントより依頼を受けた監査については、ご認識の通りある程度結果が出たかと思います。本来ならここで終了になるところですが、我々はご存知の様にハウンドの資格をもっており、クライアントのご依頼とは別にその先の調査を続行する予定です。」
過去、普通の監査が入って調査がハウンドの案件に切り替わった事もあり、監査法人の報告にあげているかは定かではないが、自分達がハウンドの有資格者である事は、イズミちゃんの記録に残っているはずである。
「我々も守秘義務があるのと同様に、今から行うハウンドに関して守秘義務がかかってしまいます。これから行う活動について口頭ではありますが、ご了承頂けますでしょうか。」
「なによ、話を聞く限りでは、危ない事をやろうっての?」
「ハウンドの活動自体が危ないんだけど、これからアプローチする
前の案件と被ったのは偶然だとは思うが、気になるので、一回偶然を装ってアクセスしてしまおうってのが本音である。
「良いわよ、付き合うわよ。そして報告書には書かない。」
「ありがとう。イズミちゃん。」
これで共犯者は得られた。
話せばわかるAIが多くて助かる。
「よし、アスカ、チドリ。基本方針は、
「了解です。」「承りました。」
♪ポンポラポンポンポン
丁度良いタイミングで依然変更してもらえない間抜けなチャイムの音と同時に、封蝋で封をした封筒のオブジェクトが自分の手元にポップアップする。
「WCSCのジャスティスからの送信を確認しました。」
アスカがWCSCのタロットカードから命名されているコンピュータからの送信を確認する。
暗号化されたオブジェクトの開封をする為に、古めかしい封筒の封蝋に指を当てる。
開封のモーションと共に、令状と淡いライトグリーンの液体を湛えた砂時計が現れる。
「認証パターン一致。令状を確認しました。」
電子認証パターンが透かしに入った令状を確認し、正式な物かの照会は必要な手続きである。
「よし、チドリ、プロテクター着用。早速開始だ。」
執行のトリガーである砂時計をひっくり返すと、30分の青い
「じゃあ、アクセスするね。」
「うん、カラっ!何も無〜し!」
だが、すぐさま残念な結果が返ってくる。
確かにクラッカーとしては、効率とリスクを考えるなら、クライアントの発注システムが稼働する時間帯を中心に仕掛けた方がいいだろう。
時間のチョイスを間違えたと言っても良いかもしれない。
だが、まだ開始して、1分も経過していない今、さっさと諦めるのも性に合わない。
「よし、チドリ。予定通り、時間いっぱいまで粘るぞ。30秒から1分のランダムの間隔でアクセス継続。発信元も毎回擬装する様にしてくれ。」
「了解!」
自分達もクラッカーと対峙する時は、基本中の基本であるが、怪しまれない様に発信元の擬装は行なえる様に準備はしている。
「まっ、何も無くて良かったね、って、あんた何をしてるの?」
待ち時間の有効活用すべく、文字入力デバイスを取り出したところで見咎められる。
「いや、報告書。溜めるの嫌だから。イズミちゃんも気にせずどうぞ。」
「いや、私は文字入力する事はしないから。って、も〜〜いいっ!」
よく判らないが、怒っている様だ。
真面目だからなぁ。
10分も経過した頃だろうか。
チドリが声を上げる。
「あった!データクリスタルの保存を確認。コピーするね。」
「やってくれ!」
報告書を入力していたウィンドウと手にしていた入力デバイスを
「コピー完了したよ。」
それほど大きいデータサイズではなかった為、チドリの手袋をはめた手には鈍い光を帯びたクリスタルオブジェクトが乗せられていた。
「でかした、それをオリジナルとして保存。コピーを作成して解析してくれ。」
「了解!」
合わせた両手に乗せていたデータクリスタルは、チドリが両手を広げるように離すと、その上に乗っていたクリスタルの外観がブレたかと思うと、2つに分離した。
2つに分かれた左手のクリスタルにプログラムタイルが投射される。
「再コピー完了、解析開始します。」
プログラムパターンは様々な角度からクリスタルを投射し解析を進めていくが、解析結果を表示するプログレスバーは、遅々として進まない。
「え〜と、暗号化かけてあるから解析が出来ないみたい。」
「ウォーターから送られた子蜘蛛入りのクリスタルがキーか?」
「状況から考えて、多分そうだと思う。」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………やっちゃう?」
「…………なさいますか?」
「…………やっちゃおうか?」
「あんた達何コントしているの?」
様子を黙って見ていたイズミちゃんが耐えきれず、ツッコミを入れてきた。
「よし、子蜘蛛を仕掛ける。こっちもコピーを使うぞ。」
チーフが居れば喜々として解析を手伝ったであろうが、分析のプロは不在なので仕方ない。
実際にインセクトを起動して、解析をする方針にした。
「『モルモット』を再起動。ミラーにクリスタルオブジェクトを開かせる。」
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