3 ランボルギーニ・カウンタック


「おーっ、かっけぇー!」

 ぼくは興奮して飛び上がる。

 すごい。

 ピカピカのマシンは、まるでSF映画に出てくる精巧な未来のメカみたいだった。


 ひらべったいボディーは、ふちが尖ったくさび型だ。後ろのところにウイングがついている。

 ボディー・カラーは真っ赤で宝石みたい。前のバンパーのところだけ黒で、タイヤの中のホイールだけ銀色。フロントガラスは透明で、内部メカが見える。

 VRカメラのレンズとか、そのおくに固定されているモーターとか。あと、そのわきの歯車が何枚も重なった駆動装置まで見えた。


 中嶋君は慣れた手つきで、カウンタックの後ろのエンジンルームをぱちんと開いて、中にあるソケットに、黒くて四角いバッテリーを差した。脇にある小さいスイッチを入れると、全長20センチくらいのそのマシンを地面の上に置く。


 そして、カバンの中から大きな操縦装置ホイラーとVRゴーグルを取り出して並べる。

「ゴーグルは持ってきた?」

「うん」

 中嶋君に言われて、ぼくはバッグの中からゲーム用のVRゴーグルを取り出した。


 ぼくのVRゴーグルは、旧式の『ゲーム機用』なので、目に当たる部分が箱型でまえに大きく飛び出していて格好悪い。

 が、中嶋君のは純正品で、ゲーム・メーカーのGASE社が開発したミニ四輪用。スキー用ゴーグルみたいに小型で、バイザー・タイプの格好いいやつだ。


「ぼくのは古いゴーグルだけど、だいじょぶかな?」

 ぼくは心配になって聞いてみた。

「平気でしょ。ブルトゥースあるし、3Dなんでしょ」


 中嶋くんはスマフォを取り出すと、慣れた手つきでぼくのゴーグルを接続設定していく。しばらくして、「よし」とつぶやいてゴーグルを返してくれた。

「これで繋がったから」

 言いながら、ホイラーの電源を入れる。その瞬間、中嶋くんのカウンタックが一瞬ぶるりと震え、まるで魂でも吹き込まれたように、一種独特の存在感を放ちはじめた。

「じゃあ、行こうか」

 中嶋くんは言いながら、ホイラーを操作する。



 ミニ四輪のコントローラーは、ラジコン・カーと同じタイプの『ホイラー』だ。でも、ラジコンとミニ四輪だと、ちょっと機能が違うので、形はそっくりだけど、ミニ四輪専用の物が発売されている。

 ホイラーは、でっかい拳銃みたいな形。引き金みたいなレバーがアクセル、本体の真ん中についた丸いノブがステアリング。

 中嶋くんの操作で、彼のカウンタックがするすると走り出して、海賊公園のサイクリング・コースを目指す。

 ぼくは慌てて、VRゴーグルを顔にかけた。


 Wi-Fiでネット経由されたコントローラーからの命令を受けて走り出すミニ四輪の運転席には、VRカメラが装備されていて、その映像をスマフォのアプリ経由で接続されたゴーグルから見ることが出来る。これは操縦者が見ているのとおなじ映像なのだが、VRカメラなので、ぼくが見たい方へ首を動かせば、前ばかりでなく、右でも左でも見ることが出来るのだ。ただし、ミニ四輪の屋根があって、上は見えない。


 ゴーグルごしにその映像を初めてみたぼくは、「おーっ」と感動の声をあげた。

 映像が動いている。あたりまえだけど。でも話には聞いていたのと実際に見るのは、大違い。

 すごい迫力だった。


 1/24サイズのマシンの運転席は、地上5cm。まるで地面に這いつくばったアリの目線だ。せまい公園の地面は、まるで広大な荒野だし、砂粒が砂利のように大きく見える。遠くにある建物は、SF映画にでてくる惑星の山脈のように高く空にそびえている。


 中嶋くんがするすると進ませるカウンタックの車窓から、流れる地面を見回す。砂粒が小石のように敷き詰められた砂利道の上を、ごとごとと進んだカウンタックは、やがて遠くに見えてきたサイクリング・コースに進入する。


「じゃあ、そろそろ行くよ」

 中嶋くんが声をかけ、カウンタックが急加速した。


 砂利の少ないコンクリートの路面を、ぎょっとするような加速でぐいぐいスピードを上げてゆく。

「うおーーーっ!」

 VRゴーグルをおさえて、思わずぼくは叫び声をあげた。


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