第28話 ぼくたちの勝利だ


「デンドー、おめでとう」

 まっさきにぼくのところに来てくれたのは、伊勢谷くんだった。

 ゴール直後、自分のマシンも受け取らず、まずぼくにおめでとうを言いに来てくれたのだ。


「ありがとう。今回はぼくの勝ちでいいかな?」

 なんかクラスで一目置かれている伊勢谷くんに、ぼくなんかが勝ったと知ったらみんな驚くだろう。

 だけど、当の伊勢谷くんがどうやらぼくに一目置いているようだ。


「なにいってんだよ、デンドー。おまえ優勝じゃん。おれどころか、あの『電光』雪花にも勝ったんだろう? 大したもんだ。こんど、おまえのレースの動画、見せてくれよ」

「うん、いいよ」


 約束してぼくらは別れた。入賞者は表彰台に立たなければならないからだ。


 ぼくは係りのお兄さんに案内されて、カメラの前に立つ。


 ちなみに、ゴーグルはすでに外してしまっているので、管理人さんたちとの会話はもう出来ない。


 カメラの前に、入賞者が集められ、整列させられる。


 ぼくが優勝。1位。

 2位は『電光』雪花。

 3位は、RX8の人。溝口拳って言う人。この人もぼくと同じで、今年初めてミニ四輪の大会に出た新人らしい。


 ぼくらはたくさんのカメラを向けられ、いろいろとインタビューされた。司会のお姉さんから質問されたり、感想を求められたり。


 ぼくは緊張していて、なにを話したかまったく覚えていない。


 でも、雪花はにこやかな表情で芸能人みたいにトークして、みんなを笑わせていた。


 そして、そのあと、三人して表彰台の上に立つ。

「ちょっとあんたさぁ」


 表彰台のあがるあたりで、雪花がにこやかな表情を変えずに、腹話術みたいに怒った声で話しかけてきた。


「女性の後ろに張りついて走るなんて、マナーに反するんじゃないの? なにあの走り方。最低だわ」


「すんません」

 いつものように謝っておいて、いちおうつけ加えておく。

「最低な走り方だったなら、君はあんな真似はしないってことだよね」


 ぎろりと睨まれた。

「しないわよ! する必要ないでしょ!」

 いきなり怒鳴られた。


 彼女がいきなり大声を出したで、周囲の人たちがびっくりした視線を集める。


 雪花ははっとして、真っ赤になりながら照れ笑いした。


「ごめんなさい。彼が卑猥な冗談をいうもんだから、つい」


 ちょっとまって! いくらなんでも、それはないでしょ!

 と心の中で叫んだけれど、ぼくは実際にはなにも言えなかった。

 ただ、ただ、あわあわするしかなかった。

 最低だ、この女。性格最低。



 長い表彰式の後、ぼくは管理人さんやカメ先輩、サトシくんと合流した。

 合流した瞬間、みなんとハイタッチ合戦が始まる。


「やったな、デンドー」

 カメ先輩が、顔を真っ赤にして笑う。ちょっと涙ぐんでいる気がするけど、いや先輩は泣いたりしないでしょ。


「いい走りだったな」

 管理人さんに褒められた。


「すごいよ、デンドーくん。都大会で優勝するなんて」

 サトシくんは本当に泣いていた。

 いや、泣くほどのことじゃないって。


「優勝できたのはきっと、みんなのおかげですよ」

 ぼくが冗談半分に言うと、みんなが笑った。


 なんだろう? 走ったのはぼくだけだったけど、なんかみんなで走っていた気がする。


 ぼくはツールボックスを地面に置くと、ロックを外して、蓋を開いた。


 中から黄色いぼくのマシン、ロータス・エリーゼか出てくる。


 そう。これはぼくたちみんなの勝利だ。

 ぼくとカメ先輩と管理人さんとサトシくん、そしてエリーゼの。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る