3 ミニ四輪を組み立てろ!
「で、そのあと、どうしたの?」
海賊公園の海賊船の上で、マストに寄りかかった中嶋くんがたずねた。
ぼくは「はふうっ」と大きくため息をひとつ。
「お年玉とクリスマスのプレゼントを前借りした」
「それは、凄い大技つかったね。じゃあ、今年のクリスマス・プレゼントはなしで、お正月のお年玉もなしか? おこづかい前借りの方が良かったんじゃないの?」
「そうなると、パーツが買えない。工具も欲しいし……」
「なるほどなぁ」
翌日の海賊公園。日曜日の朝の会話である。
バンビ模型は朝10時開店。それを待って、お母さんからもらったお金でホイラーを買いに行くつもりだった。
「で、ミニ四輪は組み立ててるの?」
「きのうの夜から始めて、いまタイヤが終わって、シャシーに入っている」
これがけっこう大変だったのだ。
タイヤはホイールにゴムタイヤを嵌めるだけだが、シャシーへの取り付けが難しい。
ミニ四輪のタイヤはシャシーに固定されておらず、上下2本のサスアームというV字のバーで可動する仕組みになっている。で、内部で斜めに立てたスプリングでぎゅっと固定するのだ。
ちょうど、オフロードバギーのタイヤについているバネみたいな、あんな感じである。
というか、オフロードバギーは露出しているだけで、自動車は全部あんな感じの内部構造になっているのだろうな。そして、ミニ四輪は、そのバネのシステムを真似ているのだ。
「サスは、複雑だけど、あそこはミニ四輪の
「わかってるよ」ぼくは口を尖らせた。「でも、あの複雑なメカは本物のマシンを作っているみたいで、すげー興奮するよね」
話を聞いたり、人に見せてもらったりしただけでは分からないことも、じっさいに触って見るとよく分かるようになった。
「じゃあ、あとで一緒にバンビ模型にいこうよ」
中嶋くんに誘われた。
「あそこは細かい調整や改造のこともおしえてくれるから、いいお店だよ。絶対デパートなんかで買うより、バンビ模型で買った方がいいって。あとで行って、店の親父にサスを調整してもらえよ」
ぼくはうなずいた。
きのうの段階でじつはそれはぼくも感じていたのだ。
デパートの店員さんの、美人だけどにっこり笑って残酷なことをいう態度より、ちょっと困ってぼくに尋ねてきてくれたおじさんの方がずっと感じが良かった。
きのうあのあとおじさんに、レースに使えるホイラーの中で、一番安いやつを選んでもらい、今日1日ぼくのために取り置きしてもらっている。なんとかあのあとお母さんとの交渉の結果、その代金1万2800円を預かり、いまはバンビ模型の開店時間を待っている状態だ。
とにかく、プロポ・システムのパーツがないと、ミニ四輪の組み立てはこれ以上進まない。ぼくはその間に中嶋くんを呼び出して、この公園で雑談をしているわけだ。
「じゃあ、10時にバンビ模型で集合しようよ」中嶋くんはいったん帰ってマシンを持ってくるという。「デンドーくんも、エリーゼ持ってこいよ。親父に工具とか借りた方が、制作も進むよ」
「うん」
ぼくはうなずき、海賊船を降りた。
まだ時間があるから、ボディーの方をすこし組み立てておこうとおもった。
10時すぎにバンビ模型に行くと、すでに中嶋くんは来ていて、ほかにも3人くらい小学生がいた。
みんな店の奥の工房の作業台で、ミニ四輪のシャシーにドライバーを入れている。
なにかの台の上にマシンを置いてホイラーを操作し、タイヤを回してスピードを計測している奴もいた。
「おう、いらっしゃい、デンドーくん」
店のおじさんが気さくに声を掛けて、棚から青い箱を出してくれる。英語と数字だけ白く印刷されて、あとは空色一色の箱は、取り置いてもらっていたプロポ・セットのようだ。
おじさんは、箱をひらいてくれて、ビニールに包まれた新品の、ぴかぴかのホイラーを見せてくれた。「これでいいね?」
「はい」
ぼくははっきりと返事する。
「じゃあ、これがきみのホイラーだ。早速シャシーにとりつけよう」
お金を払い、お釣りをもらってレシートをきちんとお財布にしまう。これを持って行かないとお母さんに絶対怒られるからだ。
それが終わったら、おじさんと一緒に作業台へ移動した。
「とりつけは、ちゃんと自分でやること」言いながらおじさんは、ぼくが組んだシャシーのサスペンションを確認してくれた。「上手に組み上がってるね。あとでグリスを差しておこう。あと、サスは、ここのネジで調整が効くんだけど、今はまだいじらなくていいよ。ミニ四輪で難しいのはサスだけなんだ。あとはカメラとモーターとバッテリー、プロポ・サーボをぱちんと嵌めるだけで完成だ」
ぼくは設計図を見ながら、ひとつひとつの部品をハメていく。
「モーターは最後だよ。駆動系はギア・ボックスからつけるといい。そして次はバッテリー・ソケットね。モーターもバッテリーも交換する部品だから、取り外しができるようにあとからつけるんだよ」
ぼくは最後にずしりと重い、黒くてずんぐりしたモーターをはめ込んだ。モーターの軸についた小さい歯車がギア・ボックスの歯車とがっちり噛み合う。
「よし、完成だな。すこし動かして動作確認しようか」おじさんは充電器からバッテリーを外して、シャシーのソケットに差し込む。「バッテリーの脱着は、レース中にやることがあるから、練習しとくといいよ。シャシーの一番下、底のところにソケットがあるから、斜めに入れて端をぱちんと押して止める。しっかり止めないと走行中に外れたら止まっちゃうからね。あと、下にこういったリボンみたいなものを入れておくと、外すときに楽だよ。リボンを引っ張るだけで、バッテリーが外れるから」
ぼくは黙ってうなずく。
4つの
「シャシーに取りつけるパーツで、とくに重いのがモーターとバッテリーだったろう?」
おじさんの言葉にぼくはうなずく。
板状のバッテリーは重かったが、それ以上に丸いモーターはずしりとしていて、鉄の塊みたいな重みだった。
「で、この重いモーターをどの場所に設置するかで、重心位置が変わり、ミニ四輪の操縦性は変わってくるんだ。デンドーくんのシャシーはMRレイアウトっていって、シャシー中央部にモーターを置くタイプだね。で、
ぼくのホイラーを取ってくれたおじさんは、電源ボタンの位置を教えてくれる。
「これを押すと、電源が入る。距離が近いからインターネットを介さなくても操縦できるよ。やってごらん」
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