第5話 都大会会場、発表!


「デンドーくん、聞いた?」

 ぼくが教室にいくと、クラスの中がなんかざわついていた。そして、ぼくをみつけたサトルくんが声を上げながら走ってくる。

「都大会の会場が発表されたんだ。地図も表示されてるらしいよ」


「え? ほんと!?」

 ぼくはランドセルを机の上に下ろしながら、サトシくんが差し出したスマホの画面をのぞきこんだ。二人して顔をくっつけて、タニヤの公式サイトにならぶ文字を読む。


『ミニ四輪東京都大会会場決定! 今回のステージは、東京ディズミーランド!』


「ええっーー!」

 ぼくは大声をあげた。

 あんなところで、やるの? 広すぎない?


「凄いよね」

 サトシくんも感心している。

「もうコースも発表になってるんだ」


 サトシくんがスマホを操作して、コースのマップを表示してくれる。

 パッと見ただけだと、ちょっと分かりにくい。でも、サトシくんが説明してくれる。


「ディズミーシーの『センター・オブ・ザ・マーズ』からスタートして、『スプラッシュ・キャニオン』と『ビッグサンダー・キャニオン』を通って、ここがゴールなんだ」

「ハード過ぎない?」

 正直な感想だ。


 ディズミーランドにはもちろん行ったことがあるが、もの凄く広い。そこをミニ四輪で走破するなんて出来るんだろうか?


「バッテリー交換は二回まで。ピットインが、それぞれのアミューズメントのあいだにできるようになっているから、そこでバッテリー交換できるんだ。ドライバー本人がやるルールだからね。今度はちゃんと充電したバッテリーもってきてよ、デンドーくん」


「分かってるよ」

 ぼくは口をとがらると、サトシくんはあははははと笑う。


 サトシくんは、前回のサギ高レースのときのぼくの失敗のことを言っているんだ。


 でも、充電し忘れたんじゃなくて、充電したバッテリーに交換し忘れただけだ。だいたいあれは、カメ先輩がコソクな作戦を考えついたりするからいけなかったんだ。ぼくのせいじゃない。


「おい、デンドー!」

 教室の後ろの方から、佐世保くんの声がひびく。

「おまえも、都大会でるのかよ!」


 身体が大きくて、いつもうるさい佐世保くんが、教室の後ろでいつもの仲間たちと群れて、こっちを見ている。


「伊勢谷がさ、こんどは絶対に負けないって言ってるぞ。ま、前回のレースも、デンドーが勝ったかどうかは怪しいけどな」


 ぼくはため息をついて、ランドセルをロッカーにしまいにいくついでに、佐世保くんたちのグループのそばを通った。


「出るよ、都大会。豊島区大会で入賞したからね」


 わざと言ってやる。じつは豊島区大会には、佐世保くんも出ていた。が、全然遅くて周回遅れになり、失格している。それを知っていてぼくは言ってやったのだ。


 佐世保くんは「くそっ」と小さな声を出すが、それ以上はい言い返せない。なにしろ、失格したのは自分のせいだから。


「なあ、デンドー」


 佐世保くんたちに囲まれていた伊勢谷くんが席についたままぼくのことを見る。

 伊勢谷くんはクラスで二番目に背が高いので、席についていてもぼくと大して目線の位置は変わらない。


「つぎもやろうな。豊島区大会のときは直線で、マシン・スペックで抜いたが、俺はあれを卑怯だとは思ってないよ。逆に手加減する方が失礼だと思っているから、都大会でも遠慮なく行くぜ」

「うん……」

 ぼくは力なくうなずいた。


 ぼくのエリーゼはMRレイアウトのSシャシー。軽量小型のマシンだ。


 旋回性能はいいが、大型モーターを搭載できないため、直線ではスピードが出ない。そのため、ストレートで抜かれることが多いんだ。


 だから、東京ディズミーランドみたいな、巨大ステージでは、苦戦をしいられるにちがいない。それが分かっているから、ぼくは強くうなずけなかった。


 豊島区大会で入賞したから、都大会への出場権がある。だけど、ぼくは、都大会で勝てる気がしなかった。いや、勝てるどころか、最悪最下位になる可能性だってあるのだ。


 ぼくは自分の席に戻ってから、大きくため息をついた。そして、だれにも聞こえないような小声でつぶやいたのだ。


「出るの、やめようかな……」





 その日、ぼくは学校から帰ると、ツールボックスをもって海賊公園へいった。

 日は傾いていたが、居てもたってもいられず、愛車の黄色いエリーゼを出して、海賊公園のサイクリング・コースを走らせた。


 実車と同じ5速ミッション。

 1速でスタートして、2速に入れる。人差し指でトリガーを引きながら、親指でシフト・ノブをクリックしてシフトアップ。伸びのいい3速へあげる。


 が、そこで前方に迫る右コーナー。ぼくはアクセル・トリガーから指を放して、ブレーキ・トリガーを目いっぱい引く。


 エリーゼがのろのろと減速を開始して速度を落とすが、なかなか止まらない。

 前方からぐいぐい迫るコーナー。

 ぼくは人差し指でぎゅーっとブレーキ・トリガーを引き、「止・ま・れ」と念じるが、それでも止まらないエリーゼ。


 あとちょっとでコースアウトというところで、なんとか速度が落ち、鋭くステアリングを切る。


 小型軽量のエリーゼは、旋回能力が高い。

 もうダメだと思ったタイミングでステアリングを切っても、するどくノーズがインに切れ込み、剃刀のような切れ味のコーナリングでコーナーをクリアした。


「ふーっ」とぼくは息を吐いて、アクセル全開。

 でも、すぐに迫るコーナー。

 止まらないマシン。


「こんな練習に、意味があるのかよ」

 ぼくはイライラとつぶやいた。


「よぉ、デンドー」

 後ろから声がした。これは管理人さんの声だ。ぼくは、エリーゼを止めると、ゴーグルを外して振り返った。

 そして、ぷっと笑った。

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