第38話幕間(イタコラム王国軍右翼)
「ほな、確かに伝えたで! また新しいのが来たら教えたるわ!」
馬を走らせるフリンゲイルにそう言って、大空に舞い上がった黒い鳥。
優雅に羽を広げて、どこまでも高く、この空へと舞い上がって行く。その姿は風に任せて飛んでいるようだが、その位置は全く変わっていなかった。
すなわち、移動強化の魔法をかけた騎馬軍団と全く同じ速度で飛んでいるという事だろう。
よく見れば、遠くの空にも同じような黒い点が浮かんでいる。
グレイシアの構築した、
「しかし、アルフレドの考えていることは全く分からん。これほどの索敵連絡網。最初からこれを知ってたなら、伝えておればいいものを。これでは全軍の混乱を道化として見ているようなものだ。だが、奴にはそんな趣味はない。まったく分からん……」
フリンゲイル王国騎士団長のつぶやき。それはアルフレドに対して文句を言ったものではなかっただろう。
以前のようなアルフレドに対する敵意は見えない。
だが、間違いなくかつてあった威厳が損なわれているように感じられる。
それは、本来であれば中央に置いて軍を指揮する立場にあった者が、右翼という軍団を任されていることに起因するのかもしれない。
それを感じ取ったのだろう。
隣で馬を並べたカルタ王子が、その呟きに応えていた。
「フリンゲイル、私が不甲斐ないばかりに苦労をかける。だが、それももう間もなくのことだ。これ以上、兄上のいいようにはさせない。この戦いに勝ち、凱旋した時には全てうまくいっている。何もフリンゲイルのように、戦場で武勲をあげることが、地位をあげることではない。時には、マクシマイルのようにすることも必要だろう。私の輝かしい未来のために、その方が良いと判断した」
気弱そうに見えて、大胆な発言をしたカルタ王子。
その言葉を受けて、フリンゲイルは目を大きく見開いていた。
「まさか! カルタ殿下!?」
「フリンゲイル。私がどれほど残念だったことか……。でも、それも仕方がないとあきらめたよ。所詮お前は戦いの中に喜びを見出す将軍だった。戦いこそが自分であることを選んだのだから、しかたがない。伯爵として……。いや、私のそばでそれ以上の地位となり、王政を支えてくれたらよかったのに」
冷ややかな目でフリンゲイルを見つめるカルタ王子。
その瞳を受けて、フリンゲイルの手は震えていた。
「まさか、この戦いの中で陛下を……」
「ふふ、まさか。そんなことするはずないじゃないか。そんなことをしたら、軍が崩壊する。自然死ではなく、王が殺されるとなると召喚呪が発動するだろう? そんなことになれば、勇者が全員引き揚げるじゃないか。そうなると戦線が崩壊する。そんな危ない真似をするわけがない。ただ、軍の指揮は兄上に任されたとはいえ、あの場で次の王を指名したわけじゃない。私も兄上もいないころで、誰かを指名しないとはかぎらないだろう? ああ、そうなったら誰がその名を聞くのだと思う? 摂政マクシマイルが片時も離れないから、多分彼が聞くのだろうね。ああ、凱旋するのが楽しみだよ。いや、その前に報告が来るかもしれないね」
カルタ王子の双眸に、怪しい光が宿っていた。
それを敏感に感じ取ったのだろう。フリンゲイルは馬の速度を落としていた。
「フリンゲイル王国騎士団長。そなたの最後の戦いになるんだ、しっかり働いてイタコラム王国に勝利をもたらせてくれたまえ。伏兵に注意だったね。それはそのまま兄上にお返しするとしよう」
高笑いするカルタ王子。もはや、フリンゲイルに用はないとばかりに馬を前に走らせる。
それに遅れて続くフリンゲイルの背中は、さらに小さくなっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます