第19話一つの終わり。新たな始まり。

差し込んでいる光の円の中心に、ミヤハは倒れていた。


意識がなかったため、落下の衝撃を殺すこともできずに全身を強打したのだろう。息も絶え絶えなその様子は、まさに瀕死と呼ぶにふさわしかった。


「さす……が、アルフレドさ……まで……す。ぼく……、がん……ばった……です。でも、ちょっと…………、たり……なかった……です。こん……ど、あった……と……き……には、まけな……いです。もっと……もっと、がん……ば……る……です。アルフレドさま……や……くに……たつ……です」

意識はすでに回復していたのだろう。近づいてきたアルフレドに向かって、必死にそう告げていた。横向きの顔は、アルフレドの姿をとらえていない。でも、気配でそう感じたに違いなかった。


「そうだな、ミヤハ。確かに、お前は頑張った」

にっこりとほほ笑むアルフレド。

その手には、禍々しい漆黒の大剣が握られていた。ちょうど二等辺三角形のように、鍔元にいくほど幅広くなっている。その剣先からは、まだメーイルの血が滴り落ちていた。


だが、ミヤハにはそれは見えていない。ただ、アルフレドの声はミヤハを安心させるのに十分なようだった。


アルフレドは聖騎士団長という肩書だけではなく、聖騎士パラディンという職業についている。騎士と司祭の技術を持つ上級職なだけに、自らだけでなく傷ついたものを癒す力を持っている。

しかも、アルフレドの実力は並みの司祭をはるかに超えているようだった。


だから瀕死のミヤハも、魔法で治療することが可能だろう。

おそらくアルフレドなら、今のミヤハでも一瞬で治してしまうに違いない。


「頑張った。そして役に立った。まってろ、今楽にしてやるからな」


恐らくミヤハはその言葉に安心しきったことだろう。力なく笑う顔がそれを物語っている。


そして、自分がどうなるかも想像したに違いない。アルフレドの治療により、たちまち回復することを考えただろう。

また、元通りの体に戻り、今回のことを挽回するために、より一層の精進を怠らないことを考えていたに違いない。

アルフレドが来なければ、ミヤハは間違いなく死んでいた。

それはミヤハにとって、アルフレドの役に立ったことにはならないのだろう。


「アルフレドさ……ま。ぼく、あんな……や……つにまけ……ないです。もっと――」


――ただ、ミヤハの言葉は、風の音により最後まで紡がれることは無かった。


二人がいるのは地下室三階。

鍛錬場のようになっているその空間には、窓があるわけではない。


だから自然の風が吹くわけはない。しかも、精霊の力が働いているわけでもなかった。


だが、漆黒の風が闇とミヤハを同時に切り裂いていた。

最後の最後まで笑顔のままで、ミヤハの首は闇の中へと転がっていく。


「拾え、そこにいるのは知っている。そして選べ。お前の存在価値を」

闇に向けて漆黒の刃を向けるアルフレド。

静寂が再びこの場の支配を取り戻す中、アルフレドの瞳はまっすぐに闇の中をとらえているようだった。


「迷うな。お前は何故、そこにいる。来い、イリア。イリア・キーキン。お前には俺が必要だ」

決断を促すかのように、漆黒の大剣を地面に突きたてるアルフレド。


その音に促されるように、闇の中からズルリ、ズルリと何かが這いずる音が聞こえてきた。

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