第28話情報提供者

「マリア、先に伝達を済ませてくるんだ、あとでグレイシアとミヤハが揃ってから戻ってこい。それまでには終わるだろう」

自らの椅子に深々と腰掛けて、アルフレドはマリアにそう告げていた。


「アルフレド様、トルコールが控えておりますが……」

「――トルコールにも後で出てきてもらう。勇者ではない奴が今出てくると、影響を受ける可能性がある。まあ、奴の本心を聞くのもいいかもしれんが、今はライラから必要な情報を引き出し、確認するのが先だ。そろそろ解くぞ。マリアなら影響ないだろうが、早くこの部屋から退避しろ」

僅かな逡巡の後、マリアに向けてそう指示したアルフレド。同時に机の端においてある、何かの鳥の形をした像に手を伸ばしていた。

しかも、そのままマリアの返事を待つこともせず、その台座にある突起を押していた。


その瞬間、鳥のくちばしからピンク色の煙が噴き出したかと思うと、瞬時にその色は消え、全く見えないなにかへと変化していた。

しかし、鳥の像からは何かが噴出している音だけは聞こえている。


立ち上がり、頷いたマリアに向けてもう一度顔を向けたあと、アルフレドは身じろぎしないライラに視線を向けていた。


しかし、ライラの様子は変わっていなかった。


アルフレドに向けてお辞儀をしていたマリアの頭が上がりかかる。

その瞬間、アルフレドのならした指が部屋いっぱいにこだました。


――まるで呪縛を解かれたかのように、大きく息を吐き出すライラ。

自らの呼吸のリズムを忘れたかのように、続けてせき込んでいた。


「もどったか、ライラ。気分はすぐれないだろうが、質問には答えてもらおう。今回の遠征に対応すると思われるのは、鉄壁将軍ニアオジ・ラーロ、暴風将軍ケラザ・スリベ、迅雷将軍ジーンオルミ・プラタ、疾風将軍ブマブ・チロエの四人で間違いないか?」

せき込むマリアを気遣うように、優しい口調で問いかけるアルフレド。

その時にはもう、マリアの姿は何処にもなかった。


「あれ? あれ? マリア? え!? アル……フレド……様……。さっき……? いつの……間に……」

まるで状況が呑み込めないようで、ライラは周囲を見回し、アルフレドを見て驚いていた。

――しかし、それもいっときの事だった。

アルフレドの姿を見つけた頃には、ライラはうつろな瞳となっていた。


まるで魂が抜けたかのように、ライラはその場で呆然と座っていた。


「まずは俺の問いに答えるのだ、ライラ・ライ。鉄壁将軍ニアオジ・ラーロ、暴風将軍ケラザ・スリベ、迅雷将軍ジーンオルミ・プラタ、疾風将軍ブマブ・チロエの四人で間違いないか?」

アルフレドの甘く囁くような声につられ、ライラの体がゆっくりと揺れていた。規則性のあるその揺れに、ライラの瞳はより深く沈んでいくようだった。


「ええ……。その四人……ヤンガッサ……大平原……。周辺……部族……。間違いない……です……。サマンサの……影響力……。最も強い……四人……。間違いない……。それぞれ……部族……の戦士……。四千……。一万六千人……動員……する……。仲間の死を……乗り越える……勇壮な……戦士たち……つれて……くる……」

これまで見せていた雰囲気ではなく、うつろな声で答えるライラ。その視線の先にアルフレドはいるが、アルフレドをとらえてはいなかった。


「そうか、将軍というかしらをつぶしても問題ないという事だな。むしろ、勇敢な者たちでありがたい。そのサマンサ・ロメルのほかに、お前が注意すべきとみる人物はいるか?」

ライラの答えに満足そうに頷いたアルフレドは、続けてライラに問いかけていた。その声もまた、先ほどよりも優しいものへと変わっている。


「はい……。サマンサ……、一番……、若い……。特別な日……。勇者……。三人……。黒豹……、エウリスナ・リラス。彼女……、暗殺者アサシン……。熊……獣人……。ムプンイル・シビ。彼女……。武闘家モンク……。そして……。人間……。プトゼンサ・ロイク……。魔法戦士……」

たどたどしいながらも、しっかりとアルフレドの問いに答えているライラ。そしてアルフレドは、淡々と様々な質問を投げかけていく。

それに次々と答えるライラは、やがて姿勢を保てなくなったのか、徐々に背中を椅子に預けだしていた。


「そろそろ限界か……。ライラ・ライ。最後の質問だ。それに答えたら休むがいい。今回のお前の行動は、聖女を守るためか?」

アルフレドのささやきのような問いかけに、ライラは沈みかけた体を維持しながら小さく頷いていた。


「そうか……。ならばお前だけは助けよう。そのままゆっくり眠るがいい」

アルフレドはそのまま立ち上がり、崩れて横たわるライラに近づく中、扉に視線を向けていた。


「――よし、入れ」

短く告げたその声は、いつになく嬉しそうだった。

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