第13話幕間(包囲の中の魔王教徒)

「メーイル様。どうやら包囲を狙っているみたいですよ。まだですけどね」

背中から鷲のような羽を生やした少年が、興奮した気分を隠しきれず楽しそうに報告していた。長い金色の髪に、獲物を見つけた猛獣のような鋭い金色の瞳。

十番と呼ばれた少年が、その能力を感じさせる姿を隠そうとせずにそこにいた。


「そうか……。やはりな」

メーイルの視線の先。そこには申し訳なさそうにうつむく司祭風の男がいた。


「アメドイン――」

「いえ! 私はつけられておりません! 決して、そのよ――」

メーイルの言葉をさえぎってまでも、自らの潔白を必死に訴える司祭、アメドイン。壁際で畏まっていたにもかかわらず、自らの言葉に勢いを持たせるかのように歩み始めていた。そのままメーイルの元まで詰め寄ろうかという勢いだったが、それは叶わぬ夢となっていた。


「じゃあ、誰がつけられたってんだよ。オマエしか、いないだろ? 最近さ、森の外を出入りしたのは、オレとオマエの二人しかいないぜ。そして、オレは見つからないからな」

頭をつぶされたアメドインの体が、よろけて床に崩れ落ちる。その体に向けて、二百番は見下したように吐き捨てていた。


何もないところから急に姿を現した二百番。魔法で姿を消していたかのように、今までその姿は見えなかった。

いや、そうではないかもしれない。

まだ体の一部が周りの風景に溶け込んでいることから、擬態の一種のようなものだろう。彼もまた、何らかの生物の能力もった変異体だ。

なぜ、この場所でそうしていたのかは分からない。ただ、だるそうにあくびをしつつも、その目は興奮気味に輝いていた。


「二百番、それはちゃんと伝わるように言わないとだめだろう? それに、部屋が汚れた。おい、そこのお前。百十一番を呼んで来い。あっ……。いいですよね? メーイル様」

十番の指示に、メーイルの返事を待たずに駆け出していた魔王教徒。その慌てた後ろ姿を見ながら、メーイルは鼻で笑っていた。


その瞬間、倒れたアメドインの体から小さな虫が這いずりだしていた。

やがてそれは蝶になり、小さな羽を羽ばたかせて飛び立っていた。ひらひらとまるで出口が分かっているかのように、蝶は迷わず扉へと向かっていた。


明らかに怪しい蝶。一瞬目を奪われはしたが、それを放置しておくメーイルではなかった。

小さく息を吐き出したあと、その蝶に向けて中指を小さくはじいていた。

ごく小さな動作でしかない。

しかし、それは衝撃波となって蝶に襲い掛かっていた。


見事に破壊され、小さな破片となった蝶は元の紙切れに戻っていた。


「式神か。面倒な魔術師がいるな。しかも体内から出たということは、仕込まれたのはいつか分からんな。しかも、コイツのことだ。自分ではいい気分の時に仕込まれたに違いない。ちっ、もっと早く処分しておくべきだった。くそ! 腹が立つ。おい、俺は部屋に戻るぞ。一応、周囲を警戒しておけ。連中がこの場所を特定しているのは、これで間違いない。包囲は見せかけで、精鋭を送り込んでくるだろう。問題は誰が来るのかだな。手筈通り、奴が弱体化していれば、今の体でも十分渡り合えるだろうが……。しかし、念には念を入れておかねばな。ああ、そうだ。お前たちの楽しみは分かるが、今は抑えておけ。能力はその瞬間に出すものだ。今は抑えておけ。それと外と中。戦う場所は、お前たちの好きにするがいい。ここも放棄するから、存分に暴れるがいい。だが、戦いに熱中して忘れるなよ。お前たちの使命が何なのかをな。それは百十一番にも言っておけ」


十番と二百番に向けて、意味ありげな笑みを浮かべたメーイルは、出ていった魔王教徒とは違う、別の扉へと向かっていった。

その姿を見送ることもせず、十番と二百番は互いの拳や腕を打ち合わせている。


抑えきれない想いが、二人の体からあふれだしているのだろう。

これから始まる戦闘に思いをはせ、二人の眼は獲物を狙う猛獣のように鋭い光をはなっていた。

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