第10話行軍(前編)

「それで、いったいどうなったんですぅ?」

興味津々と言った感じで、ミヤハは身を乗り出すように聞き入っていた。馬上でそんなことをするとバランスが悪い。しかし、そんなことを全く気にしてないかのように瞳を輝かせている。

そんな様子に若干引きながらも、話しているグレイシアの方も誇らしげだった。


「あの時王笏をつかまなければ、多分こんなことにはならなかったはずですわ。でも……。おそらく、アルフレド様はあえてそうされたのですわ。ご自身でもおっしゃっていましたから、多分見えていたのですわね。でも、シアも初めてでした。あれが召喚呪の力ですのね」

「ああ、普段我々も、そう考えないようにも誘導されているらしい。聞くところによると、国王に危険が迫れば、どのような手段をとっても駆けつけるようになっているそうだ。そこに理性は働かないという。グレイシアの場合は、魔法を発動できるかもしれないが、私達の場合は、走るしかできんのだろうな」

「いえ、シアが言っているのは、アルフレド様のお力ですわ。【夢予知】が封じられるとはおっしゃってましたが、まさかあれほど力が低下するとは思いもしませんでしたわ。あのお力では、シア達と変わらないと思いますわ……」

「ああ、その事か。確かにあの感じでは、そうかもしれんな。だが、私がこの世界にやってきたときに聞いたことだが、アルフレド様は一年ほどベティカの森にこもられていたらしい。だから、能力が低下したとはいえ、まだ私たちの及ぶところではないだろうよ」

「それは初めて聞きましたわ。あの魔境に、一年も……。さすがはアルフレド様ですわ」

グレイシアとミヤハの前で馬にのるマリアが、そのままの姿勢で話していた。その少し前をアルフレドが進んでいる。話をしながらもマリアは片時も注意をアルフレドから目を離してはいなかった。


「だからぁ。どうなったのかを聞いてるんです! おかしいです。ずるいです。僕は一人で全軍をルールルまで連れてきたです。その僕に内緒なんて、絶対おかしいです。それに、三人でルールルに転移してからもお二人はアルフレド様を二人占めしすぎです。僕はアルフレド様と一度しか話してないんですよ。大体、今のアルフレド様の状態は絶対変なんです。普段つけない面貌までつけてるんですよ。それに、ルールルの街で聞いたあの噂。本当なんです? あれ? でも、三人が来る前から広まってたような……。でも、でも、そうとしか考えられないです」

口をとがらせながら、ミヤハは文句を言っていた。


自分が聞きたかったことが得られなかったのだろう。いや、頭の後ろで両手を組みながらも、敵意の視線をマリアに向けている。おそらく途中から話に割り込んできたマリアに対して、抗議の意味もあるのだろう。


「王笏をつかんだということは、王権に手を伸ばしたという事としてとらえられたのですわ。その行為自体に意味はなかったとしても、摂政マクシマイルの一言が引き金ですわ。あの無能が余計なことを言った瞬間ですもの。アルフレド様が苦しまれたのは……。あら、でも王も余計なことを言いましたわね」

「そうだな。王のあれは別の意味でも問題だ。しかし、今はそれどころではない。ただ、あれではっきりしたとも言える。あれこそがアルフレド様の目論見やもしれんな」

「そうですわね。シアの使い魔もあの時から監視していますし、他の方々も動かれました」

「そうか、後はそれぞれの王子の動きだな。第二王子はカルバの街のことで敵対を表明した感じだが、第一王子と第三王子。そして第二王女の許嫁候補であるセンタオリヌ領主クリマアミ伯爵。この三人は、あの時微妙な態度だったな」

「そうですわね。でも、第一王子は少しだけ笑顔を固まらせていましたわ。クリマアミ伯爵は露骨に嫌悪感のある顔つきでしたわね。一番の問題は第三王子ですわ。あの方は最初から表情を変えていません。何を考えているのかもわからない方ですわ。ある意味一番厄介な相手ですわね」

「相変わらず、グレイシアの観察力はすごいな」

「うふふ。視界を変えていますから、造作もありませんわ。ああやって下を向いている姿勢でいいのですから、観察し放題ですわ」

「そうか、頼りになる」

「当然ですわ。全てはアルフレド様の為ですもの」

「そうだな……」

マリアとグレイシアの二人で、話しを盛り上げていく。


話についていけてないミヤハは、どちらに話かけて止めようかと、ずっと二人の間で視線をうろつかせて機会をうかがっていた。しかし、一向にその気配が訪れないことに苛立ちがどんどん積み重なっているようだった。


「だから、いったいどうなったのかが知りたいんですぅ。ずるいです! 二人だけで盛り上がらないでほしいです!」

ついに噴出した訴えは、その場でとどまることを知らずに駆け抜けていく。その感情の大きさは、はるか先の藪の中から鳥を慌てて羽ばたかせるのに十分なものだった。

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