番外編
第53話追憶
累々たる屍の真ん中で、青年が若い女を抱きかかえていた。血まみれの姿のまま、慟哭の涙をのみ込んだ青年は、血まみれの女の顔から、優しく血をふき取っていく。
「雪……。こんなことになるなら、無理に誘うんじゃなかった」
「こんな事になるなら、君に刃物を持たすんじゃなかった。俺は君を守るために殺しまくったのに。肝心の君を守れないなんて……」
「こんな事になるなら……。こんなことに……」
自責の念に押し潰されそうになりながらも、青年は女の顔を見つめていた。
「なぜ、君は笑っていられる? こんなのおかしいだろ?」
「なぜ、君はためらいなく自分を刺した? 俺は君と生き残る事しか考えていなかったのに、何故だ? 俺は君を犠牲にして生き残りたくはなかった。結局俺に力がなかったからか? 君を守れないなら、生き残っても意味がない」
周囲に積もった雪に反射する光は、きれいになった女の顔を一層生気を感じさせないものに見せていく。
「『いいよ、響。あなたは生きて』ですか。いささか興ざめですが、あなたが生き残りです。橘響君、おめでとう! 君の――」
「お前か! お前だな! お前が! どこだ! どこにいる! でてこい!」
女を抱えたまま、正体の見えない声を探して叫んでいる。
「時間が無いんだよ、橘響君。要点を伝えよう。君はこれからアルフレド・ロランスと名乗る身になる。固有技能は――。すごいね。サービスで教えてあげるよ。君は【未来予知】という技能を得る。本当は教えてはいけないのだけど、未来が見えるなら、そういう事にしておいてくれ。ああ、未来が見えたら? こんなことにならなかったはず? それは贅沢というものだ。僕が与えたんだ。君にその力をね。だから、『今』から未来しか見えない。ああ、その顔。じゃあ、君に未来を作ってあげよう」
その声が終わると同時に、女の姿が霞のように消えていく。周囲に散らばっていた屍も、一瞬で綺麗になくなっていた。
「何をした! 雪を返せ!」
「これは、ゲームだよ。アルフレド・ロランス。今から行くイタコラム王国。そこで君は
遠ざかる笑い声と共に周囲が暗くなっていた。
だが唯一、光差し込む場所がある。はるか先を見通す瞳を青年はそこに向けていた。
「まってろ、雪。俺はもう迷わない。アイツのいうゲームには興味はない。だが、勝たなければ、君に会えないのなら、俺は必ず勝ってやる。例えそれがたった一本しかない細い道だとしても! 全てを見通し、選んでやる! たとえどんな手を使っても。今度こそ! どんな犠牲を払ってでも!」
歩きはじめたアルフレドの瞳には、比類なき意志が宿っていた。
そして未来は一つの正義によって選び出されていた あきのななぐさ @akinonanagusa
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